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149.そんなわけねーだろ

 そんなエルガーは、この表情のまま重苦しそうな口調で言葉を絞り出した。


「……みんな、落ち着いて聞いてもらってもいいだろうか?」

『何だ?』


 明らかにただ事ではなさそうなエルガーの表情と口調に、自然とリュディガーたちの表情も硬くなる。

 その一行の反応を確認したエルガーは、衝撃的な話をし始めた。


「今、王都にいるクラデルと連絡を取ったのだが……エスヴェテレスからこちらの抗議文に対する返答があったそうだ」

「えっ、本当に!?」

「で、なんて返ってきたの!?」


 エスティナとトリスが早く早く、とまるでお菓子を与えられる直前の子供のような表情で、エルガーに話の続きを促す。

 そして彼の口から出てきた答えはこうだった。


「エスヴェテレスは、今回の戦争には自分たちの軍を一切……誰一人として出兵させていないそうだ」


 その場に静寂が訪れる。

 聞こえてくるのは遠くからの魔物の遠吠えや、バサバサとうるさい鳥の飛ぶ音ぐらいである。


「……えっ?」

「いやいや、そんなはずないでしょ。だって現にこうしてエスヴェテレスの騎士団員たちを倒しているのよ?」


 真っ先に反応したエスティナとトリスだが、エルガーの目は本気の色である。

 しかし、その中に戸惑いの心情が見え隠れしているのをアレクシアは見逃していなかった。


『にわかには信じられない、という顔をしているな。そなたは』

「それはそうだろう。トリスの言う通り、私たちが倒してきたのは明らかにエスヴェテレスの軍勢だからな」


 だからこそ、いくら正式な回答で否定されたところでエルガーもその話を信用できるはずがなかった。

 ならば、今まで自分たちが倒してきていたこの集団はいったいなんなんだ?

 その真相かもしれない予想を繰り出したのはリュディガーだった。


「まさか、この集団はエスヴェテレスの軍人たちでも海賊たちでもなく、変装したラーフィティアの人間たちなんじゃないのか?」

「……うーん、ありえるかもしれないわね」


 リュディガーの予想に最初に反応を見せたのはエスティナ。

 だが、エルガーやフェリシテは信じられない様子だ。


「しかし、真相はまだわからないだろう。エスヴェテレスの否定を正直に受け取りすぎるのもどうかと思う」

「そうよね。このことはまだ決定したわけじゃないから、しっかりと事実確認をしないと」


 そうやって油断させてヴィルトディンの攻め込む気力がなくなったところに、本性をむき出しにして襲いかかってこないとも限らないからだ。

 こうした戦争にはルールなんて関係なく、何をやっても勝った方が強いという風潮があるので、エスヴェテレスの方もヴィルトディンを陥落させるのであれば何をやってもいいと考えているのだろう。


『それで、グリスを仲間に引き入れてこうして各地を攻撃させているってことなのか。そうなると非常に狡猾な作戦を使うものだ』

「狡猾というか、単純にこちらを油断させるためにそうやって回答してきただけだろう。わざわざ皇帝の直筆のサインまでしてある便箋を使者に届けさせたというのだから、我々も甘く見られたものだ」


 冷静な口調ながらも怒りの色が見て取れるエルガーは、ひとまず今の時点でわかっているだけのエスヴェテレスのキャンプを潰しておこうと考える。

 エルガーが今まで集めた情報によると、エスヴェテレスの軍勢は先ほど潰したキャンプからさほど遠くない場所にあと三箇所のキャンプを構えているらしい。

 本当に大人数で攻め込んできているのだと思うとともに、これだけの軍勢を動かせるまでに軍国主義の国家としてエスヴェテレスが成長していたことに驚きを隠せない。

 だが、そんなエスヴェテレスの侵略をなんとしてでも食い止めるべく進んでいくリュディガーたち一行とはまた別の場所で、この人間たちも自分たちの目的を達成するべく動いていたのだった。



 ◇



「さて、それではグリスの方にリュディガーたちが向かっているようですが……このまま行くとこちらの思惑通りにエスヴェテレスとの全面衝突は避けられませんね」


 自分たちが考えた作戦がうまく進んでいることに喜びを隠しきれないニルスは、ヴィルトディン国内に潜伏しているグリスからその連絡を受けていた。

 だが、それとはまた別にやることがあるのでここからはそちらの方に集中しようと気を引き締める。


「ところで、そちらの起動実験の方はいかがですか?」

「はい。特に異常もなく、このままシュアへと襲撃をかけても問題ないでしょう」


 シャレドの返答を聞いたニルスは満足そうな表情でうなずく。

 そんなニルスの目の前には、土の地面にどっかりと鎮座している金属製の物体の姿があった。

 太陽の逆光でシルエットしか見えないものの、すでに製作段階で図面を見せてもらっているニルスはそれで十分なのである。


(あのリュディガーや精霊たちもシュア方面にはいない状況ですし、こちらはこちらでじっくりとなぶり殺しを堪能させてもらいましょうか)


 そう、これから起きる戦いはヴィルトディンとエスヴェテレスの戦争以外にもう一つあったのだ……。

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