143.急展開(その2)
だが、災いを引き起こし始めたエスヴェテレスの話はどうやら以前から話があったようなので、ファルスに戻る列車の中でそれをリアンから話してもらうことに。
ルザロは今後の予定についてセヴィストと話を進めるので、手が離せないとのことである。
『そなたは話し合いに参加しなくても大丈夫なのか?』
「ええ。私も右翼のルーザスも、基本的には陛下とファラウス将軍のお二人の指示に従うと決まっているんですよ」
ルザロは「最強の将軍」と呼ばれているだけあって、地位も権限もリアンとラシェンの上を行くらしい。
しかし、ルザロと同じ立場にいるはずの警備隊総隊長のシャラードは騎士団とは微妙に違う組織に属しているとのことで、最終的にルザロよりも与えられている権限が弱いとのことだ。
それもあり、全ての騎士団と警備隊の中でギスギスすることもあるらしいのだが、やはり武人国家と呼ばれるだけあって世界でも一、二を争う軍事力は伊達ではなかった。
「ですから、私たちが今回のヴィルトディンとエスヴェテレスの紛争に介入すればすぐに決着がつくことでしょう。最終的にものをいうのはやはり軍事力なのですよ」
『それはそうなのだが……エスヴェテレスの軍勢に関しては海賊を動かせるだけのものがあるとしても、少しおかしいような気がするんだが……』
「何がですか?」
『根本からおかしいだろう。普通なら、国軍と海賊たちはお互いに敵同士のはずだからどう考えても協力するような立場ではないはずなんだが』
「私もそこが気になっているんですよ。まあ、まだ海賊と国軍が協力しているとは限らないですけど」
しかし、リアンはそのアレクシアとフェリシテの疑問も見越していたような口調で話を始める。
「わかりました。では、その点につきましても合わせてご説明いたします。まず、あなたたちはヴィルトディンに滞在していた時にエスヴェテレスのことにつきましてはどの程度お聞きしていますか?」
「んー、全然聞いてないわね。あの時はヴィルトディン国内の話でいっぱいいっぱいだったはずだから」
エスティナがその時のことを回想しながら言うと、リアンは丁寧に一から説明してくれるらしい。
「かしこまりました。では、エスヴェテレスのことについてお話しします。ここ最近で急激にその勢力を伸ばしてきた、新興の軍事国家です」
しかし、新興といってもすでに百年以上の歴史を持っている国であり、なかなかその勢力はあなどれないとの話がある。
全体的な軍事力でいえばまだまだファルスの足元にも及ばないというが、個々の実力だけでいえばファルスの熟練の騎士団員たちにも引けを取らないほどの腕を持っている団員たちが揃っているとも噂されている。
なぜ、このエスヴェテレスがそんな短期間でそれだけの実力を持つ人間たちを集められたのか?
「そこには、エスヴェテレスの皇帝ディレーディの影響が強いんです」
「皇帝の?」
「はい。ディレーディ皇帝は元々、その武力で自身の功績を築き上げてこられた方なんです。腕の立つ者が自然と彼の周りに集まるようになりまして、それをきっかけにして国が発展していったんです」
全皇帝の崩御をきっかけに急速に軍事力が拡大した上に、そうして彼を慕って臣下になった者たちの中には海賊に顔が利く者もいるらしいとの噂まである。
だからこそ、海賊を動かして挟み撃ちにするのも簡単なことなのだろうとリアンはいう。
「でも、そうなるとヴィルトディンは不利じゃないですか?」
「ええ。ですから私たちとバーレンが援軍に回るんですよ。エスヴェテレスはきっと、まず隣国のヴィルトディンを制圧してから徐々に自分たちの国がある大陸を手中に収めるつもりでしょう。それから他の大陸にも手を出すのは容易に想像ができますからね」
そうなると、手がつけられなくなってしまったぐらいに軍事力を拡大したエスヴェテレスがファルスに侵略をしてくる可能性だってある。
だったら、まだ被害の少ない今のうちに叩けるだけ叩いてしまうのが重要だと語るリアン。
そして、ここまでこうして話を聞いてきたリュディガーたちではあるものの、今回の件に関しては自分たちの出る幕はないと考えているので今度はファルスの東の隣国であるシュア王国に向かうということを告げておく。
「かしこまりました。それでは通行証の申請をしておきましょう」
「はい、よろしくお願いします」
こうしてファルスとバーレンの連合軍とはここで別れ、リュディガーたちはシュア王国に向けてそのまま列車に乗って行く予定だったのだが、ひょんなことがきっかけで自分たちもヴィルトディンに向かわざるを得なくなってしまうのであった。
第三部 完




