140.一か八かの選択
(きっとどこかに弱点があるはず! でも、あれではまともに近づくことなんてできやしないわ!)
何とかしてこのリザードマンの弱点を探るべく、危険を承知で敵の気を引くことにするフェリシテ。
そして弱点が分かったところで一気に叩き潰す作戦に出た。
それにしても、敵がまさかこんな待ち伏せ作戦までするとは全くの予想外であった。
こんなに力と知恵を持っているだけの魔物がまだまだ生息しているなんて、本当に世界は広いと痛感するフェリシテがリザードマンの攻撃を回避しながら考えを巡らせる。
(さっきから私が自分で張っている魔術防壁はかなり高度なもの。でも、それにも限度があるわ。攻撃を与え続ければ魔術防壁の限界がきていつかは崩れる……そうなると、その時にリザードマンが勝負に出るはず!)
そうなると、どうやって目の前の怪物に近づくかが問題だ。
自分だって杖を持っているとはいえ、相手が振るうあの武器と比べれば攻撃力は段違いに低いし、そもそもが攻撃用の武器ではないので真っ向勝負を挑むのは自殺行為になってしまう。
(まずはどうにかして攻撃手段を奪い去って、そこから噛みつかれそうになるのを覚悟で一気に近づくしか……ん?)
そこでフェリシテがふと閃いた。
そうだ、その手があったか!!
(それだ! それを利用するんだ!!)
早速フェリシテは作戦を開始。下手をすれば、自分がオリの中で食べられて死んでしまう可能性がある。
しかし今はそれしか思いつかなかった。
目の前のリザードマンの動きを見ていて、それが通用するかもと思い立ったなら即座に実行に移してみるだけの価値があったからだ。
フェリシテはその作戦を成功させるべく、一か八かの選択を心の中で決める。
「グルルルッ!?」
「ふん!」
一気に肉迫する目の前の人間。
それを目にしたリザードマンは、何かをしようと画策しているフェリシテを一気に嚙み潰してやろうと口を開いて迎え撃つ。
だが、それこそがリザードマンにとっての命取りだったのだ。
ヤケになって突っ込んできたのであれば、人間なんて自分の牙でひとたまりもない。
そう考えながら口の中めがけて杖を突きだしてきたフェリシテの、その腕ごと食いちぎってやろうとしたリザードマンの頭部が爆散したのは、まさにその時だった。
「うっ!?」
反射的に目をギュッと閉じて爆風から目を守るフェリシテ。
その爆風によって、今まで前に進もうとしていた勢いが一気に後ろに向かって押し戻されるので、その戻る力も利用してフェリシテは急いでその場を離れた。
そして、頭部が爆散して無くなり燃え盛って崩れ落ちるリザードマンを眺めていた。
「や、やった……」
外からの攻撃はいくらでも防げるだけの防御力を持っていても、その「中」からの攻撃には脆かった。
フェリシテはそのことに気が付いたのだ。
それには、リュディガーとファルス帝国で再会した時のことが記憶にあったことも大きかった。
(リュディガーを治療してくれたセルフォンさんから聞いたわ……人間でも鍛えられない部分と鍛えられない部分があるんだって。筋肉を増やして身体を大きくできても、内臓の病気になることも十分にあるって……)
それをヒントにこの作戦を思いついたのだが、人生は何が役に立つのかわからないものだとフェリシテは実感していた。
何はともあれ、これでリーダーのリザードマンがやられてしまったことにより指揮官を失った残りのリザードマンたちは一気に崩壊していくことになってしまった。
リーダーのリザードマンもなかなかの魔力を体内に有していた存在だったからこそ、その魔力が消えてしまったのを肌で感じ取った普通のリザードマンたちは、我先に退却を始める者が現れる。
中には最後の悪あがきとして、雄叫びを上げながら突っ込んでくるリザードマンも数匹いたのだが、結果的には壁の向こうから現れたリザードマンたちの全員がリュディガーたちによって倒されてしまう結果に終わった。
そしてフェリシテを強引に一対一のシチュエーションに持ち込んだ鉄製のオリも、リーダーのリザードマンが絶命してしまったことによって魔力がなくなり、ゆっくりと地面の中に引っ込んでいってしまった。
「フェリシテ、無事だったか!!」
「なんとかね。リュディガーたちも全員無事みたいでよかったわ」
お互いに無事を確認したメンバーたちだったが、まだこの迷宮での話は終わっていなかった。
これだけのリザードマンたちが待ち受けていた理由、金網デスマッチの謎。
それにはきっと何か理由があるはずだ。
知能が発達しているリザードマンたちが、一体こんな場所で何が目的でここまでの設備を備えていたのだろうか?
その答えはどうやら、先ほどリザードマンたちが待ち伏せていた壁の向こう側……中央の壁の奥に設置してあるドアの向こうにあるらしかった。




