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13.さっさと脱出……かと思いきや?

「へえ、なかなかいい作戦じゃない。よく脱出できたわね」

「っ!?」


 突然聞こえてきたその声にリュディガーは驚く。

 先ほどの男たちが消えていったドアが突然開き、一人の女が現れたのだ。

 ピンクがかった赤いロングヘアー、明らかに戦闘用に見える軽めの防具、そして右手には魔術師の証と思わしきロッドを握っている若い女。

 この状況と今のセリフからすると、どうやらこの女も自分の味方ではないらしいと判断したリュディガーは、素手の状態で身構えながら尋ねる。


「誰だお前?」

「誰でもいいじゃない」


 その女は今、間違いなく彼の目の前にこうして立っている。だが、今のリュディガーにはあいにくいちいち戦っている時間はない。

 死刑にされる前にここから逃げ出さなければいけないからである。

 もしこの女が自分の逃走の邪魔をするというのであれば、当然リュディガーはこのまま強行突破を考えていた。


「ならばさっさとそこをどけ! 俺の邪魔をするなっ!」


 警告のつもりで女にそう叫ぶリュディガーに対して、女は彼が全く予想していなかったセリフをその口から吐き出した。


「そう興奮しないでよ。私はあなたをここから逃がすためにここにこうして来たんだから」

「……え?」


 リュディガーは一瞬、自分の時が止まったような感覚に陥った。

 今、この女はなんと言った?

 自分を逃がすためにここに居るだって?

 時間が再び動き出したリュディガーは、鼻で笑って女のセリフに耳を貸そうとはしない。


「何を言っている? 人をバカにするのも大概にしてもらおうか。俺を逃がす? 一体お前に何のメリットがある? さっきの白黒コンビの仲間なんだろ?」


 それでも女の態度は冷静なものだった。


「ふうん、あくまでも信じないつもりなのね。それじゃ勝手にすれば良いわ。だけど一つだけお情けで教えてあげる。ここの階段を上がってから左斜め前に向かってまっすぐ進んでいけば、大きく生い茂っている植え込みの死角に続く穴が開いているわ。丁度人間が一人通り抜けられるぐらいのスペースがね」

「なんだと?」

「そこを抜けたらこのアジトの裏口に続く道に出る。その道を道なりに進んで裏口を抜け、先の林からアクティルの街に向かって下りることができるわ。信じるも信じないもあなたの勝手だから、私は案内しないわよ。それじゃ」


 謎の女はそれだけ言い残して、地下牢の方に向かって素早く立ち去って行った。


(何だったんだあの女……っと、こんなことを考えている場合じゃない。俺も逃げなければな!)


 自分の逃走劇はまだ終わっていないのだ、と思い直して足を踏み出そうとするリュディガーだが、今の女が言っていた説明の内容が気になっていた。


(あの女、一つだけって言っていた割には結構長く説明してくれたんだな。……けど、初対面の相手にあんなに長々と説明するか、普通?)


 もしこれが敵の罠であり、デタラメな情報を教えるにしてはやけに詳しく説明してくれた。

 しかも、まるで最初からこの地下牢がある場所のことを知り尽くしているような口ぶりだったし、ルートの説明も戸惑いが無いハッキリとした声だったので、リュディガーはどうしてもそこが引っかかるのだ。

 とりあえず行く当てもないし、武器もないのでリュディガーは女が示していた左斜め前方へと駆け出す。もうこうなったら、あの女のセリフを信じて抜け道があると言うルートに向かうしか無さそうだ。

 そうして女の説明の通りに進んでいった結果、教えてくれたルートはどうやら本当にここから脱出できるルートだったようである。


(あの女……俺を本当に逃がす為に?)


 リュディガーは困惑しながらも、ここまで来てしまった以上は引き返すこともできないので女が教えてくれたそのルートを再び思い出しながら進む。

 当然、女に対しての疑問で頭の中が一杯になるリュディガーは、足を動かしつつ考え続けた。


(どうしてあの女は、俺にこうやって脱出するためのルートを教えてくれたんだ?)


 そう考え始めるとリュディガーの思考は止まらない。

 リュディガーは頭をフル回転させ、女の行動の理由を自分なりに考える。


(俺を何かに利用する為にここから逃がす……? でもあの女と俺は初対面だ)


 考えれば考えるほど、女の行動の意味がわからなくなってくる。

 それに、じっくり考えられる心の余裕が今の自分に無い事に気がついたリュディガーは、今はとにかく自分の身の安全が最優先だ! と思っていた。

 その矢先、ようやくこのアジトの裏口に着いたようで視界が開け、久しぶりに太陽の光を浴びることができた。


(ふう、やっと出られたな)


 緊張から一時的に解き放たれたリュディガーは、ハーッと安堵の息を吐いて後ろを振り返る。

 追手がいないことを確認し、自分の目指す方向に再び目を向けて走り出した。陽が射し込んで、暗めのコントラストで彩られている林の方向に。

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