134.リュディガーの活躍
『スケルトンがいた?』
「ああ。それもわりと大量にな……」
最初の一体を始めとして、スケルトンが次から次へと湧き出てくる状況に遭遇したリュディガーは、適当にそれらをあしらいつつ地下一階まで進む。
どうやら洞窟内の魔物たちにもテリトリーがあるらしく、地下一階に下りてしまえばスケルトンが追ってくることはなくなったので、ようやく一息つくことができてこうして外のメンバーたちと連絡することができている。
だが、地下一階はさらに寒気を感じる不気味な雰囲気が漂っていた。
「地下一階も相変わらず凍っているんだが、それとは別に邪悪な気配を感じる。注意して進む」
『わかったわ。お兄ちゃん、無理しちゃだめよ』
「わかってる」
トリスとの通信を終了したリュディガーは、さらに薄暗くなって視界がほぼゼロに近い地下一階の凍りついた洞窟を進んでいく。
地図も何もないこの状況で、頼れるのは自分の方向感覚と今までの戦場での経験しかなかった。
ソードレイピアを構えて気を張りつめさせた状態が続くため、精神的にもなかなかしんどい状況ではあるものの、地下一階は一階よりも造りが広くないらしく少しの探索で終わりそうだった。
(あと調べていないのは……こっちか)
隅々まで調べ、時折り遭遇する小さな魔物を倒して緊張感の源を一つずつ潰しながら進んできた洞窟探索もようやくこれで終わりか……と一息つくリュディガーは、最後に残っている正方形の広い部屋へと踏み込んだ。
そこは上の方から光が差し込んでくる部屋になっており、今までの空間よりも視界が利くのは嬉しいことだった。
だが、そこで待ち受けていた最後の敵はリュディガーにとってぜんぜん嬉しくなかった。
どこから敵が出てきてもいいように、自分の周囲全体に注意を払って視線を巡らせるリュディガーだが、彼の耳が不穏な音をキャッチしたのはその時だった。
「……!?」
バッとその音の方を振り向くリュディガーだが、特に何もいる気配はない。
気を張りつめすぎたから気のせいだったか……と一息ついたその瞬間、再び前を向いた自分のその方向から一気に殺気が膨れ上がった。
「くっ!!」
自分の感覚だけを頼りにして、リュディガーは右へと横っ飛びをする。
そのまま受け身を取るべく地面を転がり、素早く立ち上がった彼の目の前に現れたのは、またもや異形の存在だった。
(くそっ、厄介なのが出た!!)
頭部がライオン、身体はヤギの四足歩行。そして生えている尻尾が大きなヘビ。
それはまさに、見た目だけでかなりの難敵だとわかるキマイラだった。
自分のテリトリーに入ってきたリュディガーをごちそうと感じ、その瞬発力で仕留めようと襲いかかってくるキマイラだが、だからといってリュディガーも負けるわけにはいかない。
恐ろしいほどの殺気を感じつつも、強靭な足腰で飛びかかってくるキマイラの動きをよく見てどこにチャンスがあるのかを見極めようとするリュディガー。
(くっ、機動力では負ける!)
素早さでは敵わない。
しかし見方を変えてみれば、その素早さが時には弱点になるかもしれない。
そう考えるリュディガーは、ここでレイピアを構えていた手を下ろして棒立ち状態になる。
まさにノーガードの構えとなったリュディガーを見て、キマイラはチャンスだと判断して勢いをつけ、一気に飛びかかる。
そこをリュディガーは狙っていた。
「ふっ!!」
「ギャウウウアアアッ!?」
リュディガーのソードレイピアが斜め上に向かって突き出され、キマイラの柔らかい腹部に深々と突き刺さった。
驚異的な跳躍を見せたキマイラの下に一気に潜り込んだリュディガーは、そのままガラ空き状態になっている腹部をこうして最初から狙うつもりで考えていたのだ。
その作戦は見事に成功し、大量の血がキマイラの腹部から流れ出す。
ソードレイピアを引き抜いてバックステップで飛びのいたリュディガーは、今度は隙だらけのライオンの顔面目掛けて突き攻撃を仕掛ける。
「ギャアアッ!!」
右目へと吸い込まれたソードレイピアによって、視界の半分を奪われて激痛と距離感の違いに暴れ、ゴロゴロと凍っている地面をのたうち回るキマイラ。
そんな魔物に対してもリュディガーは容赦せず、何度も何度も上から下へと向かってソードレイピアを振り下ろして、キマイラが息絶えるまでその動きを続けていた。
「ふう……」
完全に動かなくなって身の安全を確保できたと確信したリュディガーは、ソードレイピアの刀身についている血を振り払って鞘に収める。
するとその瞬間、外にいるメンバーたちから通信が入った。
「……誰だ?」
『あっ、リュディガー! 出入り口の結界が消えたんだけど……何かした?』
「エスティナか。今しがた、ここでキマイラをだな……」
どうやらこのキマイラが出入り口の結界を出していた原因だったらしく、それがなくなったことによってメンバーたちが合流できることになったのは大きな進展だった。




