133.進む話と進める場所
そのころ、遠く離れた場所ではニルスがシャレドからの報告を受けていた。
「で、結局あのリュディガーに邪魔されてそのまま帰ってきたっていうんですか?」
「申し訳ございません……まさかドラゴンを味方につけていたとは思いもよらず」
さすがにドラゴンを持ち出されてしまうと、いくら策を練っても圧倒的な力の前には無力なものだと思い知らされてしまうのが現実であった。
その報告を聞き、ニルスはいろいろと事を急がねばならないと考え始める。
「まあ、いいです。ファルスとバーレンをぶつけさせるという作戦は失敗してしまいましたが、こちらには「アレ」がありますから」
「アレですか。ですがまだアレはこちらの言うことを聞いてはくれないでしょう」
「だからこそですよ。少し気が早いですが、今まで少しずつ手なずけてきたこともあってきちんと役目は果たしてくれるはずですよ」
ドラゴンを向こうが味方につけたというのであれば、こちらとしてもそれ以上の力を出すものを味方につけておかねばやられるだけである。
今回はあの森の中でヌシが運良く現われてくれたこともあって、何とか逃げ切ることができた。
ドラゴンも新開発の薬品を浴びせたことで振り切れたが、次に遭遇した時には果たしてどうなるかはわからない。
それを考えると、アレを出すのは急ぎの仕事になる予感しかしないのだ。
「あの連中はどうやらリュディガーがケガをしたことでどこかで足止めを食らっているみたいだし、その間に俺たちの方も体勢を立て直そう」
「言われなくてもそのつもりですよ。それでは次は……シュアですか?」
「そうですね。シュアではこちらも手塩にかけたあれがありますからね。あれを使ってみてどうなるかを確かめてみましょうか」
ちょうどシュア国内に反乱分子もいることですし……とシャレドがニルスとリヴァラットにそう言い、この一行はシュアに向けてそれを使うための準備を始めるのだった。
◇
そんな話が進んでいるとは知る由もないリュディガーたちは、気分が回復したリュディガーを先頭にして洞窟の出入り口の前にたどり着いていた。
といっても、その出入り口は今とんでもないことになっている。
「何、これ……?」
「参ったな、これじゃあ入れないぞ」
出入り口となっているのは縦に長い大きな楕円形の穴。
その穴には虹色に輝くモヤのようなものが張られている。これこそが魔力による結界なのだが、内部への侵入者を阻むように張られている以上通ることができないのだ。
……ただ一人を除いては。
「え? 普通に通り抜けられるだろう?」
「ちょ、ちょっとリュディガー?」
通り抜けようとしてもその結界に塞がれて先に進むことができないはずなのに、リュディガーだけは最初から何もないかのようにスルッと通り抜けることができてしまった。
これはいったいどうなっているのだろうか?
『……そうか。元々リュディガーは魔力がないからな。だから魔力による結界を張っていたとしても、それが魔力に反応しなければそのまま通り抜けられるってことだ』
「重大な欠陥にもほどがあるじゃねえか。だったらリュディガー以外の魔力がない人間とか魔物でも通り抜けられるってこったろ?」
肩をすくめて呆れた口調で言うカリフォンだが、そんな彼も普通に魔力を持っているのでここを通り抜けることができなかった。
つまり、この洞窟の探索はリュディガー一人で行なうことになる。
「内部で何かこの結界を解除できるような装置とかがあれば、それを動かして私たちも中に入れてね」
「わかった」
フェリシテからの要望を背にして、リュディガーだけが洞窟の最深部に向かって進んでいく。
とりあえず魔術通信は外のメンバーたちと通じるようなので、何かあればすぐに連絡をするという約束をして進み始めたリュディガーは、さっそく妙なことに気が付いた。
(地面が凍り付いている……妙に寒いと思ったらこれが原因だったのか)
そう、この洞窟は地面が凍り付いている上に全体的に薄暗いため、どこから何が出てくるかわからない恐怖感とツルツル滑る足元の感覚をコントロールしながら進まなければならないのである。
普段は動きやすさと戦う時のスピードを意識しているリュディガーだが、寒いのでマントをしっかりと羽織って少しでも防寒を上げて歩いていく。
エントランスのような広場を抜け、細長い通路へと入ると前方から何かが歩いてくる音が聞こえる。
「……!!」
暗闇からぬっと現れたのは、今まで傭兵として遭遇した中でも厄介な部類に入る魔物だった。
それもそのはずで、右手にはこん棒のようなものを持っており、左手には古めかしい盾を装備している古代の戦士……のようないで立ちをしている……。
(ガイコツ……スケルトンか!?)
そう、このスケルトンは最終的に魔術でなければとどめを刺せないのだ。
洋平パーティーを組んでいたころに得た情報として、魔術で死者の魂を浄化させるとか何とかでとどめを刺さない限り、いくら切り刻もうが粉々にしようが最終的に復活してしまうという恐ろしい魔物。
つまり、今のリュデイガーができることは一つだった。
(……逃げるしかない!)
この短時間で、魔力がないことのメリットとデメリットを痛感させられつつ、リュディガーはスケルトンから逃げるしかなかった。




