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127.とっさの判断

 一同は思わず攻撃の手を止めてしまう。

 しかし、ロックウルフはそれをチャンスとみなして近くに立っているエスティナを右の前足で払い飛ばした。


「きゃああっ!!」

「エスティナ!」


 幸いにも、吹っ飛ばされた先が森の茂みの中で大したダメージを受けることなく復帰することができたのだが、その説明を聞いたショックもありロックウルフに対して動きにくくなっていた。


「物理攻撃が効かないって……どうして?」

『説明は後だ! 魔術に自信のない者は下がれ! 魔術攻撃でしかこの化け物には勝てない!!』


 人間たちの都合などお構いなしに攻撃を続けてくるロックウルフが相手なので、今ここでそれを説明している暇がないアレクシアは、自分を含めた魔術に精通しているフェリシテとシュソンを中心とした戦法を取ることにする。

 残りの物理攻撃を中心とするメンバーは、今しがた負傷したエスティナの治療に当たってもらう。


「そらっ!!」

「ギャウウウッ!?」


 やはり、魔術攻撃であれば物理攻撃と違ってロックウルフが凶暴化もしなければ、すぐに体勢を立て直して反撃するまでの時間も長くなっている。

 しかし、本当にこんなことがあっていいのだろうか?

 そういえば、今までこの森で倒してきた魔物たちは同じように魔力が変な状態になっていたとはいえ、ザコばかりだったのですぐに倒すことができたこともあって凶暴化に気がつかなかった。

 それがこの森のヌシとなれば話は別なので、攻撃の手を緩めずに一気に畳みかけてしまおうと奮戦する三人。


「エスティナ、大丈夫?」

「うん、なんとか。でもあの魔物はあの人たちに任せるしかなさそうね」


 自分たちではどうすることもできなさそうな状況であれば、できる方に任せるだけである。

 しかし、そんなエスティナやリュディガーたちの元にシュヴィリスから連絡が入った。


『あー、聞こえるかな?』

「シュヴィリス? どうしたのよ?」

『ちょっとごめん、まずいことになった。さっき森の中から出てきたワイバーンと、それに乗っていた人間たちを追いかけていたんだけど……変な液体をかけられちゃって逃げられちゃった』

「ええっ!?」


 トリスが驚くのも無理はない。

 例えワイバーンでリヴァラットとシャレドに逃げられてしまったとしても、空にはシュヴィリスが待機しているために、完全にそっち任せにして大丈夫だとばかり考えていた。

 それがまさか、逃げられてしまうなんて思いもしていなかったリュディガーたちは愕然とした表情を浮かべる。

 しかも変な液体をかけられて逃げられたとなれば、シュヴィリスの身体にも何か異変が起こってもおかしくないだろう。


「ちょっとシュヴィリス、何か身体に異常はないの!?」

『今のところは別に何も。でも、万が一何かあるといけないから知り合いの医者に見せてみようかな。ところでそっちはどうなの?』

「今は……ええと、とりあえずもうちょっとで決着がつきそうわああっ!?」


 魔術のラッシュをかけられてコテンパンにのされたロックウルフが、最後にアレクシアが放った衝撃波によって巨体を吹き飛ばされ、背中と頭から木々に激突して絶命した。

 だが、その激突が思わぬ災難を生むこととなってしまう。


「えっ、あ……うわああっ!!」

「トリス!!」


 その倒れてきた数本の木が、運悪くトリスの頭上目掛けて襲いかかってきた。

 とっさにリュディガーの身体が動き、なんとか逃げようとするトリスを無我夢中で突き飛ばしていた。


「ぐうっ!!」

「ぐえっ!!」


 突き飛ばされたトリスはなんとか無事だったものの、リュディガーは下半身が木の下敷きになってしまったのである。

 もちろん、周囲の人間たちもアレクシアもすぐに木をどかすために動き始める。

 アレクシアが魔術で地面を持ち上げて木をどかし、リュディガーを救出したまでは良かったものの、両足が完全にあり得ない方向へと曲がってしまっていた。


「お兄ちゃん! お兄ちゃん、しっかりして!!」

「くっ、とにかく医者だ!! 医者に見せに行くべきだ!!」

「いや、その前に僕の魔術で……」


 医者に見せるべきだというラシェンと、魔術で何とかしようとするシュソンだが、まだこの二人はリュディガーに魔力がないので魔術が効かないことを知らないままである。

 それを聞き、シュソンはがっくりとうなだれてしまった。


「くっ……こんな状況で見ていることしかできないのか!?」

『いや……まだ手はある。おいトリス、シュヴィリスに連絡してくれ!!』

「う、うん!!」


 こういう時こそシュヴィリスの出番である。

 ドラゴンの彼なら一目散に医者のいるところまで連れて行ってくれるだろうと考えている人間たちだったが、戻ってきたシュヴィリスはこんなことを言い出したのだった。

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