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119.吹雪の中の激闘

『くっ、これではキリがないぞリュディガー!!』

「まったくだ……」


 シャレドに警笛で増援を呼ばれる。

 この駐屯地にいるファルス騎士団の人間たちを、致命傷を負わせない程度に加減しながらなんとか倒していたリュディガーたちだったが、これでは本当にキリがない。

 しかも、今の自分たちの目の前にいるのはこの駐屯地をまとめているリーダーたちなので逃げづらい。


「お兄ちゃんが気になって追いかけてきてみたけど、さすがにここまでかしら?」

「でしょうね。さぁ、いい加減に諦めなさい」

「嫌よ。今のあなたは私たちの敵だもん!!」


 敵たちを倒しながらリュディガーに追いついたはいいものの、そこでタイミングが最悪の状況に出くわしたトリスとアレクシア。

 なぜなら最初に出会ったシャレドが、ファルス騎士団の軍服を身に纏って変装していたリュディガーに気がついている場面だったからである。

 当然、その横にいるラシェンにもリュディガーの正体が露呈してしまうことになり、一気に戦闘へと発展するまでに時間はかからなかった。


「へっ……まさか部外者が変装してたなんてよ。この俺としたことがうかつだったぜ」

「騙される方が悪いのよ。それじゃ目的も済ませたし、私たちは退散させてもらうわ!!」

「そのセリフは、私たちを全員倒してからにしていただきたいものですね」


 先ほど警笛を吹き鳴らしたシャレドが、余裕のある口調で三人に宣言する。


「この雪山で猛吹雪の中で、あなたたちがどうやって逃げ出すのか非常に興味がありますよ」

「だよなあ。そもそもどうやってここに入ってきたかもわからねえんだが、それも含めてこんなことをしでかした目的とかいろいろと俺がじっくり聞き出してやらなきゃ気が済まねえんだよな」

「それはあなたのご自由にどうぞ。ですがその後の身柄はどうしますか?」

「帝都から応援を呼んで連れてってもらうぜ。それで拷問にかけるしかねえだろ」


 ラシェンとシャレドがそう話し合えるだけの余裕があるということは、リュディガーたちの身動きが取れないということでもある。

 どうにかして逃げようにも、なかなかの人数で囲まれてしまっているこの状況では逃げようがなかった。


「……どうする?」

『よし、ここは次の一手を出すとしようか』

「そうね。そろそろ出力を上げてもいいかもしれないわね。その後はお兄ちゃん、あなたが頼りになるのよ」

「……え?」


 ちょっと待て、何の話だ?

 リュディガーが唖然とした表情になる一方で、彼が頼りになると考えている妹と精霊の二人は上空を見上げる。

 そしてアレクシアがスッと右腕を目一杯天に向かって突き上げたその瞬間、吹雪とはまた違った視界を遮るものがこの戦場に出現した。


「……霧だとぉ!?」

「くっ、見えない!!」


 ラシェンとシャレドを始めとして、一気にあたふたし始めるファルス騎士団の面々。

 ただでさえ視界の悪い吹雪の雪山なのに、霧によって三歩先すら真っ白な視界になってしまっては武器を振るうことすらできない。

 これではラシェンもシャレドも同士討ちを避けるべく、自慢の二刀流をやみくもに振るうわけにはいかなくなってしまったのだ。


「どこだぁ!! 出てきやがれ!!」


 ラシェンの声がむなしく吹雪の中に響き渡るが、すでに侵入者たちはこの騎士団の包囲網を突破して脱出し始めていた。

 それもそのはずで、まったく視界の利かないこの状況で頼りになるリュディガーが妹と精霊を案内して静かに進んでいたからだ。


「こっちだ。ゆっくり進め……」

「う、うん……」

『フェリシテとエスティナには連絡がついたぞ。向こうも無事に密偵を救出したそうだ』

「ならこれで安心ね。合流地点の登山口へと向かうわよ」


 遥か上空を旋回しているシュヴィリスの魔術によって生み出されたこの霧は、先ほどよりも明らかに濃いものである。

 それによって視界を奪われてしまった人間たちは、ラシェンやシャレドのようにあたふたとうろたえることしかできない状況だった。

 しかし、この中で唯一魔術をかけてもまったく効果がないのがリュディガーという無魔力生物だということだ。


(前にどこかで俺にしかできないことをやれって言われたが、それがこれか……)


 以前の記憶を思い出して、リュディガーは複雑な気持ちになっていた。

 確かに自分は魔力が体内にないことで、今までの人生の中で苦労することが多かったものである。

 だが、こういう場合においては魔力がなくて魔術が効かないというのが非常に役に立つことを実感しながら、リュディガーは登山道の出入り口へとうまくたどり着いたのであった。

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