11.落ちた先は……?
「ん……ん、んんっ!?」
目の前に広がる光景に、リュディガーの頭が一気に覚醒する。
ガバッと起き上がってみれば、そこはどこかの牢屋のような場所だった。
「ど、どこだここはっ!?」
思わずリュディガーは叫んでしまったが、それでも人の気配がまるでしない。
どうやらここはどこかの地下牢らしく、リュディガーは自分が知らないうちにここに居たらしい。
「お、おい! 誰か居ないのか!? おい!!」
鉄格子にしがみつき、すぐそばに見える出入口であろう金属製のドアに向かって叫び声をあげるが、誰も来る気配はなかった。
(くそ……どこだ、ここは?)
いったん鉄格子から離れて牢屋の中に座り込み、眠りから目覚めて冴えている状態の頭で色々と考えを巡らせるリュディガー。
(確か俺はあの館を出た後、黒ずくめの集団に囲まれて……そしてアレクシアが奴らを足止めしている間に逃げて……)
最終的に黒髪の大柄な男に行く手をふさがれて、落とし穴に落ちたことまでを思い出す。
それはいいのだが、肝心の場所がわからない。しかも明かり取り用の窓すらこの地下牢には無いので、今は昼なのか夜なのかもわからなかった。
そして無いと言えば、自分が持っていた薬草やポーションなどを入れていた袋と……。
(あっ、アレクシアは!?)
そう、肝心のアレクシアがどうなってしまったのかもわからない。
彼女は精霊なのだが、出会ってから少ししか経っていないために彼女がここまで来られるのか? という疑問が彼の中に湧き上がる。
そしていったい誰が何の目的で、自分をこの場所に閉じ込めたのだろうか?
そのことで頭が一杯になっているリュディガーの耳に、先ほど見つけた出入り口のドアが開いた音が聞こえてきたのはその時だった。
「目が覚めたようだな?」
「あっ、お前は!?」
薄暗い中でもはっきりと分かるその雰囲気にその声。
ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべながらその出入り口から姿を現したのは、山道を逃げている時にいきなりリュディガーの目の前に現れた、あの大柄な黒髪の男だったからだ。
「どうして俺をこんな所に閉じ込めた!? 俺をこれからどうするつもりだ!! ここはどこなんだ!? 目的はなんだ!?」
「うるせぇ!! 質問ばっかするんじゃねえ!!」
大声で矢継ぎ早に質問が飛び出したリュディガーに対して、男も負けじと大声で怒鳴る。
そして一息ついた男は後ろに控える、眼鏡をかけた白い長髪にやせ身の別の男に目を向ける。
眼鏡の男はそれだけで黒髪の男の意図を察したのか、後ろ手に組んでいた手に握ったリュディガーのソードレイピアを取り出した。
「あっ、それ俺の!?」
「もうこれはてめぇのじゃねえ。俺達のもんになったんだ」
「何だと!?」
眼鏡の男から受け取ったソードレイピアを、鉄格子で仕切られている部屋の中にいるリュディガーの目の前に突き出して嫌らしく、そして誇らしげに笑う男に本来の持ち主の怒りも更に増す。
「武器持ってられちゃ困るんだよ。お前にはまだまだ山ほど聞きたいことがあるんだからな」
「聞きたいこと?」
「ああ。お前は俺たちが目をつけていたあの館に入り込んで、かなりの腕前である魔術師の女を従えていた。ケルベロスが不自然にひっくり返ったり、木が凶器になったりしてたのもさっきちゃ~んと見せてもらったんだぜ。それと……」
そこで一旦言葉を切って、黒髪の男は自分のロングバトルアックスを思いっ切り鉄格子に叩き付ける。
「っ!?」
威嚇の為にパワーを調整していたのか、鉄格子は叩き切れなかったものの、その鉄格子に刃が当たった衝撃で火花が散ったのが見えた。
「その女と共闘して、俺たちの仲間をたくさん殺したってだけで……俺にはお前を殺す理由が十分にあるんだよなあっ!?」
その迫力に若干リュディガーもたじろいでしまったが、それでも彼は引かない。
そしてここまでのやり取りで、この二人とその仲間たちである黒ずくめの集団が何者なのかを察した。
「は……はっ? 元はと言えばそっちから先に俺に対して突っかかって来たんじゃないか。お前たちは騎士団で噂されていた、この辺りを最近根城にしているっていう盗賊たちだな? そしてこの地下牢はお前たちのアジトってところか」
「ふん、察しがいいじゃねえか。だがお前はまだ殺さねえぜ。俺達の仲間が死んでいった時と同じ苦しみを味わいながら、お前をジワジワとなぶり殺しにしなきゃ気が済まねぇ」
それを聞いていた後ろの眼鏡の男も、黒髪の男のセリフに続けて口を開いた。
「それに、あなたと一緒に戦っていたあの金髪の女性……あの女性はおそらく人間ではない。いくら魔術師といえども、地面を簡単に隆起させたり木々を曲げたりするような芸当はできないものです。そこから見るに、おそらくあれは私たちがつかんだ情報に間違いはないでしょう」
「情報だと?」
「ええ。あの女性は人間ではなく、この世界で伝説になっている精霊と呼ばれる存在でしょうね」




