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116.吹雪の中の作戦

 ピイイイイーッと甲高いその音は、吹雪の音すら切り裂いて周囲の人間たちを眠りから覚まさせるには十分であった。

 その音の元凶である警笛を吹き鳴らしたのは、この場所にいるこの人物だったのだ。


『おい、本当にこれでうまくいくのか?』

「いってくれなきゃ俺が困る」


 敵陣のど真ん中で倒れている一人のファルス帝国騎士団員。

 その騎士団員を近くのテントに運び込み、そこで軍服を奪い取って変装したリュディガーが、持ち物の中から警笛を発見して思いっきり吹き鳴らしたのだ。

 トリスとアレクシアはすでに人目につかない場所へと身を隠し、ここからはリュディガーの作戦に乗ることにしていた。

 それこそが、この駐屯地の人間たちを一気に全員起こして目的の人物を見つけることだった。


「なんだ、どうした!?」

「怪しい奴を見つけました!! 青い髪の男が、吹雪に紛れて仲間を追い剥ぎしたみたいです!!」

「なんだと!?」


 その警笛によってすぐさま駆けつけたラシェンが、防寒のためにフードを目深く被っている騎士団員の報告を受け、頭を抱える。

 まさかの出発前日に侵入者?

 自分が胸騒ぎを覚えた理由とはもしかしてこれだったのか?

 いろいろな考えが頭の中をよぎるラシェンだが、ここは今までの経験を踏まえてなるべく落ち着いて対処することにした。


「落ち着け! お前らよく聞け!! ここに侵入者があったとの情報だ! これからこの吹雪の中で一斉捜索にあたるが、視界はゼロに等しい! 三人一組で行動して、絶対にはぐれないようにしろ!」


 この視界が最悪の中で、駐屯地に入り込んだという賊を捜すのはかなり難しそうだが、緊急事態なのでやらないわけにはいかなかった。

 それにしてもどうしてこんな時にこんな場所に入り込むような人間がいるんだ? と首を傾げるラシェンだが、自分もさっさとその賊を見つけるべく動き出すしかなかった。


「おい、お前は俺と一緒に行くぞ」

「はい」

「それから、この駐屯地に一緒に来ているあの傭兵も一緒に行動だ。それで俺たちは三人一組になるからな」

「は……はい!」


 まずい。この展開は予想外である。

 当初の予定では警笛で総員起こしを行ない、その出てきた一行の中から例の密偵を捜す予定だった。

 もしその中にいないようであれば、空になったであろうテントをアレクシアとトリスがしらみつぶしに調べて、さっさと脱出をするはずだったのに。

 だがここでうろたえてあたふたしてしまっては、自分が警笛を吹き鳴らした張本人だとバレてしまうので、開き直って堂々としてラシェンについていくことに決めたリュディガー。

 その一方では、魔晶石でフェリシテとエスティナに今の警笛の話も含めて簡潔に作戦変更を伝えるトリスの姿があった。


「え? だから今の話が全てなの! 作戦変更! こっちは密偵さえ取り戻しちゃえば問題ないんだから!! うん、そうそう……それじゃそういうことで!」

『……』


 風の音に負けないように声を出して状況を伝えるそんなトリスを横目で見ながら、アレクシアは天を仰いで状況を確認する。


【まだ霧が続いているということは、伝説のドラゴンの魔力っていうのはやはり精霊たちよりもあるようだ……】


 精霊たちだって人間とは比べものにならない量の魔力を体内に有しているのだが、比較対象が伝説のドラゴンとなれば話は別である。

 まさかリュディガーがここで作戦を変えてくるとは思わなかったが、ただでさえ夜の雪山というだけで視界は最悪なのに、そんな状況でちまちまと捜していたら凍死してしまう可能性が非常に高かった。

 それを考えてのリュディガーの作戦変更だが、正直にいえばこの状況ではさらに捜しにくくなったとしかいえない。


【リュディガー……この作戦は失敗だったんじゃないのか?】


 ラシェンと一緒に行動を始めるしかなかったリュディガーの背中を物陰から見ながら、アレクシアは心の中でそう呟く。

 しかし、もう決行してしまった以上は後戻りができないので、ここはさっさとその密偵を捜し出すしかなかった。

 アレクシアは自分のできるだけの範囲で探査魔術を再度発動して、明らかに動いていない生物の魔力を捜し始める。

 すると、ここからすぐ近くのテントの中に気になる存在を見つけた。


『……おい、トリス。この近くにテントの中で寄りかかっている人間がいるようだぞ』

「えっ、どこ?」

『あそこの右側にある少し大きめのテントだ。周囲の生物はみんな動いているから、明らかにその生物だけ怪しい。行ってみる価値はあるだろう』

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