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113.目には目を歯には歯を予想外には想定外を(その2)

 そう、今回の進軍計画だってその傭兵がいろいろとバーレンの事情を知っているからこそ雇ってアドバイスをもらっているのだ。

 それがここまできて、不審な冒険者たちに邪魔をされるわけにはいかない。

 しかし、魔晶石の向こうにいる将軍のファラウスからはさらにこんな情報が。


『それとラシェン、もう一つ気になる話がある』

「まだあるんですか?」

『ああ。その連中の中に金髪の軽装の女がいたって話をさっき俺にしていたが、その密偵がいうには同じような軽装の女が空を飛んで海の方に消えていったって情報があるんだ』

「え?」


 空を飛んだ? 人間が?

 いや、空中浮遊の魔術ならありえない話ではないのだが、できたとしても数十秒かそこらが限界だ。

 しかしその密偵がいうには、空中浮遊で海の方へと迷いなく出ていったその女の存在が確かにあったらしい。

 そこから考えられるのは、その女は魔術の効果が切れて空中浮遊ができなくなった時に海に落ちる危険性を全く考えていなかったということだろう。


『もしくは、その女がどこか海の上で仲間と合流するために空中浮遊の魔術を駆使していたかということになるが……とにかくその似たような女がいたとなれば、その冒険者パーティーの連中はこちらも気に留めておく必要があるだろう』

「わかりました、ファラウス将軍。それではもう少しで進軍開始の時間になりますので、俺たちは予定通りに開始します」

『ああ、武運を祈るぞ』


 そうして通信を終えたラシェンは、出発前の最終確認をするべく自分が寝床にもしているテントへと向かった。

 だが、この時ラシェンは気がついていなかった。

 先ほど自分が追い払ったはずの冒険者パーティーが、とんでもない方法でここに来ようとしていることなど……。



 ◇



「確か、例の密偵の人は緑色の髪の毛を持っている細身の斧使いの人だったわね」

「そうらしいが、緑髪の人間なんてたくさんいるからなあ……アレクシアは探査魔術では個人を判別できないんだったか?」

『ああ。探査魔術はあくまでも魔力で生物がいるかどうかを感知できるものだからな。いつの日だったか……誰かにつけた魔力だったか何かの手がかりを頼りにして足取りを追うことができたことがあったが、それができればなんとかなったかもしれん』


 せめてここに来る前に、その密偵の持ち物なり頭髪なりがあればそこに付着している魔力を追いかけて、探査魔術で一致する人間の元へと迷わず飛んでいくことができるのだが、今の状況ではそれは無理である。

 なので、ファルスの駐屯地に潜入したらあとは手当たり次第にその密偵を捜し出すしかないのだった。

 そして何より、この潜入は大胆かつ一発勝負なので自然とリュディガーたちの緊張感が高まるのも無理はなかった。

 なぜなら今の一行は地上ではなく、空高く浮かんでいるシュヴィリスの背中の上にいるからであった。


「死ぬかもしれないけど、ここまできちゃったんだからやるしかないわね……」

『そうだな。一応わらわはそなたたちに魔術防壁をかけておくが、それも着地に失敗した時に衝撃を全て受け止め切れる保証はないからな』

「本当にやるの……?」


 ゴクリと唾を飲み込むエスティナに、少しでも不安を和らげてもらおうと魔術防壁の話をするアレクシア。

 そしてその横ではトリスが不安そうな表情を浮かべるが、もう後戻りはできない。


「そのために荷物の中からありったけのロープを取り出して、ここまで長くしたんだ。それに合わせてシュヴィリスだって高さを調節してくれてるんだから、やれるだけやるしかないだろう」

『そーだよ。それに僕だって君たちを降ろしたらやるべきことがあるんだからさ』

「……ああ、頼むぞ」


 闇に紛れた上空からの降下作戦。

 それこそが全員で話し合った結果の、ファルスの駐屯地に潜入するための大胆な方法であった。

 もちろん見つかる可能性は高いが、雪山の頂上付近は現在猛吹雪らしい上に、シュヴィリスは水属性のドラゴンだということで氷を操ったり霧を出すこともできる。

 なので、リュディガーたちが飛び降りた後に猛吹雪の中にさらに霧を生み出して相手の視界を最悪にしておくのが彼のもう一つの役目だった。


『目標地点の上空に到達したよ。これ以上高度を下げると向こうにバレる可能性があるから、ここから行ってくれ!』

「よし……ならば俺が最初に行くぞ」


 ここまできて怖気付くわけにはいかない。

 意を決して、両足に巻きつけて縛ったロープが切れないように祈りながらリュディガーは雪の吹きすさぶ暗闇の中へと身を投げた。

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