109.伝説のドラゴンとルヴィバー
驚きを隠せない一行の目の前で、ドラゴンの姿になった青い男はあっさりと事実を認めた。
『そうだよ。僕は君たちの言う通り、何千年も前から生きているドラゴンさ』
「……し、失礼いたしました!」
慌てて片膝をつくシェリスたちバーレンの三人組。
そしてその横では、唖然とした表情でドラゴンを見上げているリュディガーたちの姿があった。
もはやこの状況は一種の狂気すら感じてしまうのだが、とりあえずこの流れからこれからの話を説明してもらわなければならないのだ。
「……それで、その……ドラゴンだってのはちゃんと証明してもらえたんだけど、俺とトリスの先祖であるルヴィバーとの関係についても、お前はきちんと説明してくれるんだろうな?」
『もちろんさ。そっちの三人もちゃんと立って話を聞いてよ。なんだったら座ってもいいよ。話が割と長くなりそうだからさ』
「なら、私が椅子を持ってまいります」
リュディガーたちも手伝い、ロオンが人数分の椅子を用意してくれたところでこの巨大生物によるルヴィバーとドラゴンたちとの交流ストーリーの解説が幕を開けた。
「とりあえず最初に言っておくけど、私とお兄ちゃんにとってはルヴィバーっていうのは先祖だからね。嘘つきっていうんだったら、ちゃんとそれなりのエピソードがあるのよね?」
『そうじゃなかったら僕は話したりしないよ。僕たちはそもそも、この世界を看視するために代々この名前を受け継いで何千年も前から生きてきているんだから』
自信満々の口調でそう言うシュヴィリスは、ルヴィバーが自分のもとに来たところから話を始める。
『あの男はねえ、僕に似顔絵を描いてくれって言ってきたの。ほら、普段は僕って画家をやってるからさあ。それが始まり』
似顔絵を依頼してきたルヴィバーは、その似顔絵を完成させたシュヴィリスに対してこんなことを聞いてきたのだという。
人間が今まで到達したことがないような、未知の陸地を知らないか? と。
『僕がドラゴンだってことはその時点では気が付いていなかったみたいだけど、画家だってことで根無し草だって思っていたらしくてさ。だから僕はとりあえず教えてあげたんだよ。この世界の大陸はいくつもあるけど、そのほかにもいっぱい島があるんだから、それを全部回ってみれば? って』
「それで、ルヴィバーは島を回りに出かけたと?」
『そうらしいね。でも、その後の話は他のドラゴンから聞いただけだから、詳しくは他のドラゴンから聞いてよね』
他のドラゴンが言うには、ルヴィバーは他のドラゴンたちにも会いに行って、ついには人間たちが今まで到達したことがなかったという未知の大陸にたどり着いたのだという。
しかし、そのたどり着いた未知の大陸でルヴィバーはとんでもないことをやりだしたのだ。
『人間の欲望って本当に怖いよね。自分が冒険家として未知の大陸を見つけたってことで、その大陸に自分の国を創ろうとしたらしいんだよ』
「はっ? ルヴィバーってイディリークを創っても満足しなかったの?」
そのイディリーク国民であるフェリシテがそういうが、どうやらこの話はルヴィバーがイディリークを創る前のことだったらしい。
『いや、その前のことだね。その大陸で先住民たちの猛反発と抵抗を受けて、やむなくそれを断念して……そしてルヴィバーは自分の知名度を利用してイディリークを建国したんだよ』
「でも、それだけなら別に嘘つきとは思えないわ」
エスティナの言う通り、この話を聞くだけならルヴィバーが嘘をついているというわけではない。
ここにいる人間たち全員が今まで見つかったその冒険日誌に書いてあったことを全部頭の中に入れているわけではないが、巷に広まっているその内容と照らし合わせてみると、別に間違ったことは言っていないはずである。
では、何をもってシュヴィリスはルヴィバーのことを嘘つきだというのだろうか?
『そりゃそうだろうね。でも、あの男は僕たちにとっては危険な存在なんだ』
「危険?」
『ああ。だってその土地には僕たちの大事なものがあるんだ。まさかそこを見つけるとは僕たちも予想外だったんだけど、それを壊してまで自分の国を創ろうとしたんだよ。その大事な部分を書かないで、冒険日誌にはいいことばかり書いてあるんだもん。これを嘘つきと言わずになんというのさ』
後付けで話を盛ることはよくある話だが、都合の悪いことを隠ぺいするのがルヴィバーの性格だったらしい。
シュヴィリスが言うにはこれ以上のことは知らないらしく、後の話はヴィーンラディにいるはずの緑色のドラゴンに聞いてくれとのことであった。
『まあ、僕が話せるのはここまでだね。それでその……僕は冒険日誌を返してどうすればいいのかな?』
「そうですね……それでは、この傭兵たちと一緒にファルス帝国の調査に向かってほしいんです」
今までの罪を不問にする代わりにシェリスが出した条件。
それはスピードを重視する今回のリュディガーたちの任務に、シュヴィリスが協力することであった。




