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102.おとり

 どこの世界にも、八割は働き者がいて残りの二割は怠け者になるという法則があるといわれているが、それはバーレン皇国騎士団の中でも同じだったらしい。

 ふと目を向けた路地裏の中。

 そこには、こんな非常事態なのにもかかわらず酒を呑んで居眠りをしている騎士団員の姿があった。

 どうしてこんな場所でこんな状態になってしまっているのかはわからないが、これは好都合だと考えたリュディガーはその騎士団員が着ている制服の上着の内側をゴソゴソと漁ってみる。

 するとお目当てのものを発見することができた。といっても金目のものではない。


「お兄ちゃん、それってもしかして……」

「ああ。今からこれを使ってアレクシア救出作戦を始めるぞ!」


 そのためにはこの妹を始め、自分たちの仲間の協力が必要不可欠なのだ。

 まずは手短にトリスに説明を始めつつ、リュディガーは通信用の魔晶石を荷物の中から取り出した。



 ◇



『はぁ、はぁ……』


 人間としてこうして走り回る機会は余りなかったので、アレクシアはさすがに息切れを抑えられない状態にまで追い込まれていた。

 なんとかこうして裏路地に逃げ込んで物陰に身を隠すことはできたものの、ネルディアの街中には騎士団員たちがウロウロしているので、このままではいつまでたっても埒があかない状態である。

 ところどころから聞こえる騎士団員が吹き鳴らしている警笛の音が、そのどうしようもない状況を嫌でも教えてくれる。


【まずいな……】


 このままでは囲まれてしまうのは時間の問題だし、探査魔術も大して役に立たない。

 探査魔術は確かに魔術の届く範囲でどれだけの生物がいるのかを知ることができる魔術ではあるものの、その対象となっている生物の詳細まではわからない。

 種類は把握できてもどんな服装なのか、どれぐらいの大きさなのかまではわからないのが実際のところなので、ここでネルディア中に探査魔術を発動しても騎士団員たちと一般の住人たちとの違いが把握できない。

 つまり、味方がやってきたと思って飛び出したら実はそれが敵だった……という最悪のパターンも十分に考えられる。


【リュディガーたちに連絡がつけばいいのだが……】


 これだけの騒ぎになっているので、必ずリュディガーたちの耳にも自分が逃げているという情報は届いているはずだ。

 しかし、こちらから連絡しても向こうの状況がわからない以上、思わぬトラブルを引き起こしてしまう可能性がある。

 例えばリュディガーたちのそばに騎士団員たちがいて、魔術通信の内容でこちらの居場所を知られてしまっては終わりだ。

 そういうパターンを考えると、やはりここは連絡したい気持ちをグッとこらえてこのまま身を隠しているしかないだろう。

 しかし、そう考えていたアレクシアの元にその魔術通信で連絡が入ったのはその時だった。


【ん!?】


 懐の魔晶石が震えて、通信が入っていることを教えてくれる。

 こんな時にいったい誰なんだ……と周囲の視線を気にしつつ魔晶石に浮かび上がる相手の名前を確認すると、それはまさにリュディガーではないか。


【リュディガー……いったいどうして?】


 しかし、ここで通信に応答していいものかどうかアレクシアは迷ってしまう。

 なぜなら先ほど考えた最悪のパターンと似たようなもので、リュディガーたちが騎士団員に捕まってその騎士団員が代わりに自分に連絡をしてきているかもしれないからだ。

 それを考えると、素直にこの通信に応答する気にはなれないアレクシア。

 そんな彼女の耳に、再び警笛の音が聞こえてきた。

 先ほどよりも大きく聞こえているということは、どうやらすぐそこまで自分を捕まえるべく騎士団員が近づいてきているという事実らしい。


【……仕方ない!!】


 このまま捕まるよりはマシかもしれない。

 こうなったら一か八かと決意したアレクシアは、思い切ってその通信に出てみる。

 するとその石の向こうから聞こえてきたのは、リュディガーでも知らない騎士団員の声でもなかった。


『あっ、出た!! アレクシア!』

『トリス!?』


 なぜ彼女がリュディガーの魔晶石で通信を?

 いや、それはリュディガーの代わりに魔晶石を借りて通信をしていると考えれば自然だが、ではどうしてトリスが通信をしているのだろうか?

 その答えは、魔晶石の向こうにいるトリスが話し始めてくれる。


『今、私たちであなたと合流するために動き始めたの! お兄ちゃんが騎士団の人たちを引きつけているから、今どこにいるのか教えて!』

『引きつけている?』

『そうよ! だから私がお兄ちゃんの石で代わりに連絡しているのよ! 今どこにいるの?』

『ええと……』


 いきなりそう聞かれても、自分はこのネルディアに詳しくないからわからない。

 とりあえず見える範囲でどんな目印があるのかを説明すると、トリスからは自信に満ち溢れた声が返ってきた。


『わかったわ。それじゃあ笛の音が三回聞こえたら「聞こえた!」って返事をしてね。そうしたらまた三回鳴らすわ!』

『鳴らすって……そなたたち、いったい何をしているのだ?』

『お兄ちゃんがおとりになっているのよ! 騎士団員の笛を借りて、それを吹いて撹乱してくれているわ!!』

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