101.追われる精霊と追う人間たち
また二手にわかれて行動することになったリュディガーたちのうち、先にその騒ぎに気がついたのはフェリシテとエスティナのグループだった。
バタバタと忙しない足音と怒号に思わず視線を向けてみると、そこには明らかにただ事ではない雰囲気を醸し出しているバーレン皇国騎士団員たちの姿があった。
トレードカラーである二色のうち、緑色の制服に身を包んでいるその姿が目に入った二人は、あくまでここは部外者という立場で騎士団員たちの一人に話を聞くことにする。
「何かあったんですか?」
「ああ、城に侵入者が出たもんでね。その侵入者を追いかけて捜索中なのさ」
「そんなに大勢で追いかけなければいけないの?」
「そうだよ。何しろ陛下が怪我をされてしまったからね。なんとしても捕まえなければならないんだ!」
それだけ言い残して走り去っていく騎士団員たちの背中を見て、フェリシテとエスティナは顔を見合わせてうなずいた。
「どうやら、本当に大ごとになっているみたいね」
「ええ……これはいろいろな情報を集める前に捕まる可能性が高いわ」
当初はアレクシアを見つけるだけ見つけて、距離を取って様子を見ているだけのつもりだった。
しかし、ここまで事が進んでしまっているとわかった以上は一刻も早くアレクシアを連れて出て行くしかない。
その考えは、別の場所で情報収集をしているハイセルタール兄妹も同じだった。
「男が侵入した?」
「男と女だな。青い髪の男と金髪の女が、図書館の秘密の通路を通ってその先に置いてあるお宝を奪ったらしい」
騎士団の人間たちが大声で話していたから、嫌でも耳に入ってきたよというのは水路のゴミ拾いをしている掃除業者の中年男性だった。
それとは別に、最近は気になる人間がこのネルディアに現れるようになったのだという。
「なんでも、自分は画家だっていって大きな絵を描く板とか筆とかを持ち歩いていた人間を最近見かけるんだよ。インパクトのある見た目だから割と覚えてるんだ」
「どんな人間だった?」
「一言でいえば、青かったな。青がとにかく目立つ人間だったよ」
「青……」
目撃者の男いわく、髪の色も目の色も青で着ている服も青を基調としているものだったという。
その目撃証言と侵入者の情報……二人のうちの一人がアレクシアだと仮定して、もう一人の人間はおそらくその男ではないだろうかと考えるリュディガーたち。
しかし、まだいろいろと情報が足りないし実際にその画家の男に会ってもいないのでわからないことだらけである。
「とにかくアレクシアと一緒にその男も逃げているってことになると、アレクシアとその男を捜すしかなさそうだな」
「そうね。それじゃ他の二人にも連絡を入れておきましょう」
魔術通信でフェリシテとエスティナに青い男の特徴を伝えてから、ハイセルタール兄妹は騒ぎの音が聞こえそうな場所に向かって歩き出す。
そんな二人の姿を、近くの建物の陰に隠れながら眺めている一つの人影があるとは知らずに……。
「ふうん、あれがルヴィバーの子孫って言われている兄妹か……。まあ、とりあえずこのことはあっちにも伝えておかなきゃねえ」
ブツブツとそう呟く青い髪の男は、何かを決意しながらその場所を離れる。
足元にはなぜか、氷がところどころに張り付いている靴を履きながら……。
そんな人影のことは微塵も感じていないハイセルタール兄妹は、水路にかかる橋を渡ってバタバタと足音が聞こえる方へと進んでいた。
「お兄ちゃん、あれっ!!」
「あれは……!!」
騎士団の団員たちに追われているアレクシアの姿が、確かにそこにはあった。
しかし、ここからどうやってアレクシアと合流するべきか?
なにせ、アレクシアか謎の男かはわからないがこの国のトップの存在に怪我を負わせた上に逃げているのだから、その実行犯の仲間だと知られれば自分たちも極刑に処せられる可能性があるのだ。
しかし、だからといってアレクシアを見捨てて自分たちだけ脱出するわけにはいかないリュディガーとトリスは頭を抱える。
「お兄ちゃん、どうする!?」
「どうするといわれても……ん?」
どうにもできそうにないと言おうとしたリュディガーの目に、あるものが目に入った。
それを使えば、今アレクシアを追いかけている十人ほどの騎士団員を一気に撒けるかもしれない。
アレクシアをどうにかして助け出し、さっさとこのネルディアから脱出するためにはこれぐらいしかやれそうな手立てが見当たらない今、ハイセルタール兄弟はその作戦を実行するべく見つけた物体の元に向かって駆け出した。




