0.無魔力傭兵、魔力がないためパーティーから追放されてしまう
「リュディガー、お前は今日限りでこのパーティーとおさらばしてもらう」
きっかけはその一言から始まった。
リュディガーの目の前に立っている、黒に近い茶髪の一部に白いメッシュを入れて逆立たせているロングソード使いの男は、役立たずの無魔力の男をまっすぐに見据えてそう言った。
その横では、彼に賛同している黒髪の二刀流の剣士がうんざりした口調でこう言う。
「そもそも最初から私は反対だったんだ。魔力のないやつをパーティーに入れるなんて」
「仕方ねえだろ。パーティーの人数が少なかったから入れてやってたんだし、しょせんその程度の付き合いだったってこった」
黒髪を短く刈った大柄なバスタード使いの男も、二刀流の男と同じく「もううんざりだ」という感情が透けて見える物言いをする。
そして最後に、パーティーの中ではリュディガーに続いて二番目に下っ端の存在ではあるものの、彼もまた一流の冒険者として認められている金髪の魔術剣士の男が口を開いた。
「まあ、ここまで付き合ってあげただけ僕たちに感謝してほしいもんだね。バルドの友達だったから話を通してあげてただけで、僕たちがバルドと知り合いじゃなかったら君なんてこのパーティーに入れてあげてなかったんだからさ」
「というわけで、俺たちは他の大陸に行くからお前との契約はここで終了。つまりお前をこのパーティーから追放するということだ。あとは自分一人で何とかやってくれよ。それじゃ」
その茶髪の男のセリフを最後に、約一年もの間リュディガーと一緒に活動してきたはずのパーティーメンバーたちは船に乗り込んでいった。
チケットを持たないリュディガーは、黙ってその船の船員が吹く出発の笛を聞くことしかできなかった。
その笛の音が大きくなった直後、帆船はどんどん遠ざかっていく。
それを見ながら、青い髪の毛を持つ若き傭兵のリュディガーは心の中でつぶやいた。
(これで終わり……か)
だが、こんな展開がいつか来るのではないかとリュディガーにも予想はついていた。
自分は普通の人間とは違う異質な存在であり、パーティーメンバーたちにも疎まれているのが少なからずわかっていた。
でも、自分なりにパーティーで懸命に下働きをしたりして自分の地位を確立したと思っていた。
自分が先ほどまで所属していた傭兵集団「闇より現れし龍撃剣」は、ここ数年でメキメキとその名を挙げてきた傭兵たちの期待の星として知られていた。
その集団に入れてもらっていたリュディガーもまた、パーティーの一員として認められていたはずだった。
(そう思っていたのは俺だけだったのか……?)
せっかく親友から紹介してもらったパーティーだったのに、こんな形で終わってしまうなんて。
リュディガーはその親友を責める気はなかった。いや、むしろ感謝している方だ。
魔力がない、というこの世界の人間として生きる上で大きなハンデになる理由を背負っている自分の働き口を、何とかこのパーティーメンバーに頭を下げて入れてくれたのだから。
それまでは魔力がないという理由で幾多もの依頼を断られたり、ギルドでも就職口がなかったりして非常に苦労していたリュディガーを親友のバルドが知っていたからこそ、自分を何とか助けようとしてくれた。
そんな友人を責めることなんてできない。
しかし、このやり場のない怒りはいったいどこにぶつけたらいいのだろうか?
(くそ……俺は普通に生きていくこともできないのか!?)
傭兵の道を選んだのは間違いだったのだろうか。
いいや、それよりも問題はこれから先のことだった。この実力者ぞろいのパーティーから追放されてしまった今、食い扶持を稼ぐだけの働き口を見つけなければならない。
それに、自分にはたった一人の妹がいる。その妹の父親代わりになるのも自分しかいないのだ。
(とにかく、まずは自分の家に帰ろう。トリス……ごめんな)
たった一人の妹、そしてこれからの自分の生活。
自分はこれからどうすればいいのか、混乱したリュディガーの頭ではうまく考えることができない。
幸いにも、これまでの傭兵生活で蓄えた金が少しは手元にある。
それを手にしたリュディガーは、自分の家に帰る第一歩を踏み出した。