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君が生まれて、そこから始まる物語

魔族に拾われた子供の話

作者: 仲仁へび



 その日僕は、人間の町を追放されてしまった。


 人間なのに。人間の町を追い出されたのだ。


 どうしてそんな事になってしまったかというと、両親の内の一人が魔族だったからだ。


 人間と魔族は仲が悪い。


 それで何百年も戦が続いている。


 それなのに、魔族と一緒になった人間がいると、周りの人間は悪鬼のようになってその人間を叩く。


 仲間でも容赦ない。


 かつて仲間だった人間を袋叩きにして、一緒になった魔族と共に殺してしまうのだ。


 けれど、僕は運が良かったのだろう。


「子供が倒れているぞー! 誰か来てくれー」


 そいつらから逃げ出す事ができたし、逃げた先で良い人達に拾ってもらう事ができたからだ。


「おい、大丈夫か!? こんなにやせ細って、しかも傷だらけだなんて。かわいそうに」


 いや、人ではなかった。


 頭部のつのに、固い皮膚。赤い目。

 

 その容姿が証明するのは、魔族である事だった。


 人間達の世界では、ハーフは忌み嫌われるもの。


 だから僕は、混血である自分の出生について隠さなければならなかった。


 でも、見た目は魔族よりだから、拾われたその村では誰もハーフであることを疑わなかった。


 しかし気が気じゃない。


 いつバレて、彼等が変貌してしまうのかと思うと、心配でたまらなかった(人間達の世界では、いつもフードをかぶって顔や体をかくしていたけれど、そんな事はしなくてよくなったのは助かったけれど)。


 そんな僕が行きついた魔族の世界は、けっこうシビアだ。


 優しい人達もいるけれど、基本は弱肉強食。


 寝ている間に山に連れていかれて獣と戦わせられたり、ある日とつぜん川につれてかれて怪魚と水泳勝負させられたりした。


 でも、頑張るものには結果がでなくても優しい。


 肩を叩いて励ましてくれた。


 昔の僕は見た目が駄目だったから、そこでそれ以外には全て目を向けられなかった。そんな過去と比べると、天と地ほどの差があった。


 これから僕は、魔族として生きようと思った。


 しかし、人間達が魔族を滅ぼそうと頑張ってしまったから。


 僕が住んでいた場所は、あっという間に焼け野原だ。


 勇者なんてものが来て、一瞬で火の海。


 まるで災害だ。


 せっかく居場所ができたと思ったのに。


 僕の前に立ちはだかるのは、また人間だった。


 僕は犠牲になった者達の前で茫然と立ち尽くした。






 人間は、魔族の事を嫌っているけれど、魔族にとっては人間こそが忌むべきものだ。


 僕は魔族の王である魔王様に願って、人間達と戦う兵士になった。


 元仲間だとは思わないから、人間達とも平気で戦える。


 僕にとっては、魔族が生きる世界こそ、守るべき世界なんだから。


 だから、戦って戦って、戦いまくった。


 ボロボロになるまで戦った僕は、引退しなければならないほどの怪我を負った。


 でも戦いは続いていたから、僕の技を誰かに託そうと思った。


 後継者を探そう。


 そう思った僕は、再び自分が拾われた場所へ足を向けた。


 するとそこに、「おぎゃあ」「おぎゃあ」と泣き叫ぶ赤ん坊が捨てられていた。


 魔族の見た目をしている。


 これも縁だと思った僕は、その赤ん坊を育てる事にした。


 風の噂では勇者は亡くなったらしいから、もうしばらくは人間の軍は大人しくしているはずだ。


 この猶予を使って、立派な魔族に育ててやろう。


 赤ん坊をかかえた僕は、その場を後にした。


 後に、何かを探すそぶりで、その場所をうろつく人間の姿が見られたらしいが、その話はただの噂として消滅していくだけだった。



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