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第4章 16話 「源さん流センスの磨き方」

16話です。



いつも読んでくれてありがとうございます。


 m(_ _)m

「サトミンを弟子にしたのですか?」

変形バカは、目の前に座る源さんに言った。

「あぁ。」

源さんはそう答えたが、どちらも互いの顔など見ていない。

二人ともPCとにらめっこしている。


「見込みはありそうなんですか?」

「あぁ。」

「弟子をとるのは初めてですね。」

「あぁ。」

「あの条件は二つともクリアしたんですか?」

「桜子ちゃんの話だとクリアーしたみたいだな。あれは条件というより、俺なりの判断基準の一つだがな。」

源さんはそう言うと、ニヤリと笑った。


「あの条件の理由が理解が出来ないので、詳しく教えてもらえませんか?」

「おぅ。」

「夢の中で仕事をするって、どういう事ですか?」

「仕事をしてるとわかんねぇ事があったり、上手くいかなくて煮詰まる時があるだろ?」

「ありますね。」

「そんな状態で寝るとよ、無意識に仕事をしてる夢を見る事があんだよ。なんでだと思う?」

「気になってるからでしょうね。」

「普通はそれが気になって眠れなくなるんだが、毎日必死で仕事してると、体のほうが休みたがるから寝ちまうんだ。でもな、頭の方は違う。納得してねぇから頭の方は寝ようとしねぇんだ。」

「頭と体が離れてしまうって事ですか?」

「そうだ。そんな経験ないだろ?」

「ないですね。」

変形バカははっきりと言い切った。


「お前も大臣もないだろうな。これはセンスがない人間にしか経験出来ない事だからな。ちなみに頭と体が離れすぎると金縛りにあうぜ。」

「そうなんですか?」

「頭は起きてるんだが、体の方は寝てるから指1本動きゃしねぇ。そのくせ意識ははっきりしてるんだ。それって金縛りだろ?」

「あなたが言うと妙に説得力がありますね。」


「俺はお前らと違ってセンスがねぇからな。ひたすら経験を重ねてセンスを磨くしかねぇ。」

「センスが無いようには見えませんがね。」


「最も有効的な経験を積む方法ってわかるか?」

「数をこなす事ですかね?」

「それじゃあ40点てとこだな。」

「思いのほか低い点数ですね。」

変形バカはそう言って笑った。


「まずは経験回数を考えるんだよ。」 

「経験回数?」

「きっちりとした数字はわからねぇにしろ、死ぬまでに出来る経験回数ってのは決まってるだろ?」

「そうですね。」

「そいつを意識するようになると、1回の経験でより多くの事を吸収しようとするようになる。そうなると1回の密度が濃くなるから、得る経験値が高くなるわな?」

「確かに。」

変形バカは頷いた。


「それが積み重なると、センスのない奴がセンスのある奴を上回る時が必ず来る。そこで一度追い抜くと、わずかづつでも差が広がっていく。少なくとも追い抜かれる事はねぇ。覚えようという気持ちがなくなってもな。」

「なぜですか?」

「そういう経験の積み方をすると、センス以外の物も磨かれていくんだよ。」

「それはなんですか?」

 変形バカは不思議そうに尋ねた。


「観察力だ。」

「観察力?」

「最も重要なポイントを即座に見抜けるようになる。というより、無意識に見抜こうとするようになる。それはセンスのある奴なら普通に出来る事だろ?」

「それはそうですね。」

「でもな、センスがない奴が努力を重ねていくと、センスのある奴よりもそれを見抜くスピードが速くなるんだ。」

源さんはそう言って笑った。


「確かにそうですね。センスがある人は普通に出来るのでスピードを意識しませんが、センスのない人の方は見抜こうとする意欲が強いので先に動くでしょうね。」


「簡単に言えば瞬発力が上がるんだろうな。人間てのは諦めたらそこで終わるだろ?意欲ってのもなくなればそこで終いだ。だがな、努力でセンスを身につけた人間はそこで終わってもペースは落ちねぇ。年をとって頭がボケたりしねぇ限りはな。」

「頭で覚えた事は忘れないって事ですかね?」


「覚えるのは頭だけじゃねぇんだ。体も一緒に覚えてるからな。スポーツ選手や武術家みたいに複雑で激しい運動じゃねぇから、例え頭が忘れたとしてもいざとなりゃ体が勝手に動きやがるんだ。そこまでいくと勝ちなんだが、そこまでいくのが大変なんだ。これを経験したら90点までいく。サトミンも今からそれを覚えれば、間違いなく出来るようになる。」

「なるほどねぇ…。もう一つの条件は食事中に寝るでしたよね?それってどういう意味なんですか?」


「残りの10点がそれだ。最後に徹夜までして問題が全てクリア出来たとするだろ?で、そのあと飯を食ってると寝ちまうんだ。赤ん坊ならよくある事だが、大の大人がだぜ?なんで寝ちまうかわかるか?」

「体が疲れ果てているからですか?」

「それだけじゃねぇ。満足と安心だ。」

「満足と安心?」

「問題がクリア出来たという満足感と、上手くいってよかったという安心感で、飯食いながら箸を持ったまま寝ちまうんだ。すげぇ充実感に包まれながらな。そんな経験ないだろ?」

「ありませんね。」


「出来て当たり前のやつに、こんな経験は絶対に出来ねぇ。出来なくて必死になったやつにしか、見えない世界なんだよ。」

「サトミンはその世界を見たと?」


「朝、桜子ちゃんから連絡があってな。朝食の時にサトミンがすごく眠そうにしてたから理由を聞いたんだと。そしたら徹夜したって言うんだと。なんで徹夜したか聞いたら、図面を何回も見直してたら、いつの間にか朝になってたんだと。で、飯食ってたらいつの間にか寝ちまってて、起こそうとしたらすげぇ幸せそうに笑ってたんだとよ。ソーセージの突き刺さったフォークを握りしめたままだぜ?」

「まるで赤ちゃんですね。」


「桜子ちゃんにはサトミンの監視を頼んでたんだ。ちゃんと寝てるか心配だったからな。」

「あなたにも優しい所があるんですね。」

「こう見えても俺は紳士だぜ?」

源さんはニヤリと笑った。


「それは知りませんでした。」

「サトミンはたった1回の徹夜であれを経験しやがったんだ。さすがの俺も驚いたぜ。図面のほうはまだまだ荒いが、押さえるべき所はしっかりと押さえてやがった。弟子入りを認めるしかねぇだろ?おかげでチャーシュー麺を食いそびれたぜ。」

「ちょっとお待ちなさい!」

変形バカはいきなり叫んだ。

「なんだなんだ?いきなりどうした?」

驚く源さん。

「今、チャーシュー麺と言いましたね…。」

鬼気迫る変形バカ。

「おぉ…。」

狼狽え始める源さん。


「ひょっとして、あなたが作った『シムラーメン』ですか?」

「あ、あぁ。今日の為に準備してたからな。」

「あなたはそれを私に黙っていたのですね?」

変形バカの眼鏡が光る。

「別に黙ってたわけじゃあ…。」

源さんはオロオロしだした。


「まぁいいでしょう。もちろん私の分もあるのでしょうね?」

変形バカの眼鏡が再びキラリと光った。

「あ、あるよ。」

 源さんは頷いた。

「ならばよろしい。大臣の分もあるのですよね?」

「あ、あるけど、あいつは忙しいからよ…。」

源さんはタジタジになっている。

「すぐに連絡をしてあげなさい!」

変形バカは厳しい声で言った。

「お、おう!」

源さんは慌ててタブレットを取り出し、大臣に連絡をした。



「昼頃には来るそうだ…です。」

タブレットを切った源さんは、慣れない敬語を使った。

「ならばよろしい。」

変形バカはそう言って、大きく頷いた。

『こいつら…シムラーメンとなると人が変わりやがる…。毎度のことながらおっかねぇなぁ、おい。』

シムラーメンとは何か?

それを語るには、青葉島の歴史を紐解かなければならない。



今から20年ほど前。

青葉島に「シムラ軒」という名前の屋台のラーメン屋があった。

メニューはラーメンとチャーシュー麺とビールのみ。

無口な頑固親父が一人でやっている屋台で、なぜか人目につかない細い路地に屋台を出していた。

かなりディープなラーメンマニアですら、知る者がいないほどの隠れた名店であった。

かなり昔に屋台は出なくなったのだが、その理由は未だにわかっていない。

ひとつだけ確かな事はシムラ軒が無くなった時、3人は静かに涙したという事だけだ。


シムラ軒ロスに見舞われた源さんは、シムラ軒の味を再現すべく奮起し、何度も試行錯誤を重ねた末に、なんとかシムラ軒の味に近いラーメンの開発に成功。それが「シムラーメン」である。


シムラーメンはその後も進化を続け、今のシムラーメンでマーク8になる。

源さんは近々、マーク9をリリースする予定だ。

シムラーメンは進化し続けていくのだ!

ちなみにシムラ軒と言う名前の由来は定かではない。 

屋台の親父が無口故に、親父の名前を誰も知らなかったからだ。



「サトミンは、あなたの初弟子になるのですね。」

「あぁ。そうなるな。」

「しっかり育ててあげてくださいよ。」

「師弟関係ってのはそういうもんじゃねぇよ。」

「え?」

「互いに成長しあうために結ぶのが師弟関係ってやつさ。」

源さんはそう言って、ニヤリと笑った。


「相変わらずの浪花節ですねぇ。」

変形バカもそう言ってニヤリと笑う。

『瓢箪から駒になりそうですがね…。』

変形バカはそう思ったが、口には出さなかった。



数年後、変形バカの予想は見事に当たる事になるのだが、その話はまた別の機会にさせてもらおう。

しかしただ一つだけ言えるがある。

この日、一つの歯車ががっちりと噛み合い、人知れずゆっくりと回り始めたのだ。

誰も思いもしない角度から、予想も出来ない方向に向かって…。

「けんちゃんラーメンの秘密」っていうタイトルでも、よかったかもしれない…。

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