第4章 第15話「師匠と弟子」
遅れました。
15話です。
言い訳は後書きで…。
いつも読んでくれてありがとうございます。
m(._.)m
この日の乙女座のシミュレーションルームは大盛況だった。
昼過ぎから17:00までは真美と倫子が入り浸り、夕食後から22:00くらいまでは聖美と未祐が入り浸ったのだが、どうやら聖美と未祐もコンビを組んだようだ。
真美が素早くそれを察知し、それとなく二人に聞いてみたが
「内緒。」
と言って二人は笑った。
内緒と言う時点で答えを言っているようなものだが、真美はそんな二人を見てニヤリと笑うだけだった。
この時期の聖美は驚くほど忙しかった。
未祐との練習練習を終えるとお風呂に入り、そのまま自室に篭もって、ビッグとんとんの図面を引いた。
とはいえちゃんと源さんの言い付けを守り、日が変わる前には床についた。
朝は目を覚ますと真っ先に机に向かい、昨晩引いた図面を確認した。
そうすることで昨晩には思いつかなかった事を思いついたり、これでいいと思った箇所の改良点が見つかったりした。
仕事中は仕事に集中してビッグとんとんの事は頭から消し去るようにしたし、未祐との練習中は練習に集中した。
完全に頭を切り替えたのである。
そんな生活をしばらくしていると、聖美の生活に一つの変化が現れた。
いつもは朝食の時間ギリギリまで寝ていた聖美が、朝食の一時間前には起きるようになり、起きてすぐに図面を見直すと、真美と倫子と共に朝風呂を楽しむようになったのだ。
新たな生活のルーティーンが生まれたのだ。
些細な変化は更なる変化を聖美にもたらした。
寝ているあいだにビッグとんとんの図面を引く夢を見だしたのである。
特に行き詰まった夜はよく夢を見た。
聖美は度々突然、夜中にベッドから飛び起きると「あそこがおかしかったのか~。」と呟き、にんまりと笑って何事も無かったように再び眠りについた。
後日、聖美が源さんに
「でね~。起きてから夢でみたところを見直したらさ~、本当におかしかったんだよね~。」
と言って笑うと、源さんは
「そうか。」
と言って満足そうに笑った。
聖美はビッグとんとんの改修に力を入れていた。
聖美は源さんに食い下がり、今回の改修プランを一発でクリア出来たら弟子入りさせて欲しいと言ったのだ。
源さんはこの提案を聞き入れ、聖美は図面を引き始めた。
もう2カ月にもなるが丸夫と太の了解は得てある。
これで源さんを納得させられれば、念願の弟子入りが叶うのだ。
聖美はもし源さんの弟子になれるのなら、熱血屋を辞めてもいいとさえ思っている。
給料はマジカル手当てだけで充分だし、住む所は格納庫に押しかけて一室占領してしまえばいいのだ。
あそこにはお風呂もあるしベッドもある。
生活に困る事なんかないだろう。
なんならマジカルの格納庫にテントを張ってもいい。
それほどまでに聖美にとって、源さんは尊敬すべき人なのである。
勿論、ダメな大人である事を充分に理解した上での話だ。
その日の午前中。
聖美は分厚い図面のすべてに目を通した後、大きく息を吐いた。
図面の見直しは今日だけで5回目である。
トータルで言えばとっくに100回は超えている。
「よし!行こう!」
聖美は決心した。
これも本日5回目である。
聖美は意を決して図面を鞄に入れた。
「やるだけやったもんね!これでダメだったら仕方ない!」
聖美はそう言うと鞄を背負って部屋を出た。
その表情はまさに真剣そのものだった。
「源さんいる?」
ハゲタカ急便の事務所に入った聖美はノン子に尋ねた。
事務所にはノン子しかいない。
「源さん?どこかに出かけてるわよ。」
「じゃあ下で待たせてもらうね!」
聖美は鼻息も荒くそう言うと、大股で事務所の奥へと向かった。
「どうしたのサトミン?えらく興奮してるわね?」
ノン子は心配そうに言った。
聖美 「天王山!」
ノン子 「天王山?」
聖美 「関ヶ原!」
ノン子 「関ヶ原?」
聖美 「桶狭間でもいい!」
「天王山?関ヶ原?桶狭間?ん~?どしたサトミ~ン?何を言っている~?」
ノン子は不思議そうだ。
それはそうだろう。
誰がどう見てもノン子の言っている事は正論だ。
「ボクは負けない!」
聖美はずいぶんと気合が入っている。
「が、頑張れサトミン!」
ノン子は少し怯えているようだ。
「ありがとう!ボクは頑張った!」
そう言ってサトミンは、意気揚々とエレベーターの中へと消えていった。
「どうしたんだろ?何を頑張ったんだろう?」
ノン子は不思議そうに首を傾げた。
昼前になって源さんが、かなり年季のはいった岡持を片手に事務所に戻ってきた。
「あ、おかえり源さん。サトミンが下で待ってるよ。」
ノン子は源さんの顔を見てすぐに言った。
「もう来てたのか。えらく早ぇな。」
「なんか様子がおかしいのよ…。」
ノン子は心配そうだ。
「どんな様子だった?」
「天王山がどうとか、関ヶ原がどうとか…。」
「なるほどな。」
源さんはそう言って笑った。
「めぐちゃんはまだか?」
「もうすぐ帰ってくるよ。」
「そうか。これは差し入れだ。」
源さんはそう言うと岡持の蓋を開けた。
「ひょっとして!ラーメン?」
ノン子の目の色が変わった。
「残念!チャーシュー麺大だ。」
源さんはそう言うと大きなラーメン鉢を二つ、ノン子の前に置いた。
「キャー!ステキー!源さん愛してる~!」
「俺も~。」
源さんはおどけて見せた。
するとノン子がタブレットを取り出し、慌てて電話をかけ始めた。
「もしもし!めぐ?早く帰ってきな!源さんのラーメンだよ!しかもチャーシューだよ!大だよ!」
「キャー!わかったわ!すぐ帰るわ!お姉ちゃん!私の分まて食べちゃだめよ!」
タブレットからめぐの甲高い大きな声が聞こえてきた。
「ありがとう源さん~。」
ノン子は嬉しそうだ。
「ありがとう源さーん!愛してるわ~!」
「愛してるのはラーメンなんだろ?伸びないうちに帰ってきな。」
「あと二分で帰る!」
「あせって事故はするなよ。」
源さんはそう言って、エレベーターへと向かった。
「出来たか?」
源さんは部屋に入るなり、挨拶もなしに聖美に言った
「うん!」
分厚い図面を前に聖美は力強く頷いた。
「やり切ったか?」
「うん!」
聖美は大きく頷いた。
「後悔はないな?」
「ないよ!」
「よしわかった。見せてみな。」
「はい!」
聖美はそう言うと図面の束を源さんに渡した。
図面を受け取った源さんは、パラパラとめくり始めた。
重い空気の中、息の詰まるような沈黙の時間が流れる。
時間にして10分もかからなかったが、聖美にとってはとても長く感じたのだろう。
聖美の額にはうっすらと汗が浮いている。
図面を見終えた源さんは、丁寧に図面の束を整えると大切そうに聖美に返した。
「どうですか?」
この一言が聖美には怖くて言えなかった。
源さんは黙って岡持から木の蓋が乗った、大きなラーメン鉢を一つ聖美の前に置いた。
『なに?』
聖美は不思議に思った。
「この鉢に入っているのが普通のラーメンだったら、今回の話はなしだ。」
「え?」
「だが増し増しチャーシュー麺だったら、試験は合格だ。わかったか?」
「はい!」
「開けてみな。」
「はい!」
聖美はおそるおそる丸い木の蓋を両手で持った。
「フーッ!」
聖美は大きく息を吐くと蓋を一気に開けたが、それと同時に目を瞑ってしまった。
聖美はおそるおそるゆっくりと目を開けた。
「あ…。」
聖美は言葉を失った。
ラーメン鉢の上には麺のめの字も見えないくらい、山盛りのチャーシューが乗っていたのだ。
「ちきしょう。チャーシュー食い損ねたぜ。」
源さんはそう言うと、岡持からラーメン鉢を取り出し蓋を開けた。
そこには1枚だけチャーシューがのったラーメンがあった。
「まだまだ実力不足だが、弟子入り試験は合格だ。」
源さんは聖美の前に箸を置きながら言った。
歓喜のあまり聖美の体がブルブルと震えた。
源さんの弟子になれたのだ。
叫びだしたいほど嬉しかった。
「どうした?早く食え。伸びちまうぞ。」
「源さん!」
「源さんじゃねぇ。今日からは師匠だ。」
源さんはラーメンを食べながら言った。
「師匠!師匠!師匠!師匠!師匠!」
聖美は嬉しそうに師匠を連呼した。
「詳しい話は食ってからな。」
「はい!」
聖美は満面に笑みを浮かべながら、増し増しチャーシュー麺を食べ始めた。
今まで食べた事がないほど、世界一美味しい増し増しチャーシュー麺だった。
いいわけー!
実は、文章自体は昨日のうちに出来上がっていました。
ですが読み返すうちに、書きすぎだという事に気がつきました。
だって1万文字を超えたんだもの。
読むだけでも大変だもの。
と言うわけで、3000文字程度に抑えました。
書くより減らす方が大変でしたが…。
ネタを詰め込み過ぎたので、小分けにしました。
それが私の言い訳です。
ちなみにネタバレを一つ。
マジカルリンリンのタイトルですが、英語の場合は意味があります。




