第1章 第13話「練習」
13話です。
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「今日も無事に終わったなぁ。ハチ。」
山本貫徹はテヤンデーのコクピットの中でハチに語りかけた。
「やりやしたね!おやびん!」
ハチが両手をバタバタさせながら答えた。
「ありがとうよ。ハチ。」
貫徹は満足げに答えたが、急に眉を顰めだした。
今日は久しぶりの出動だったが、相手は乗用車1台だったのでテヤンデーだけで対処出来た。
最近、ロボット犯罪の数が少なくなってきている。
もちろん喜ばしい事ではあるのだが、貫徹の中に物足りなさがあるのも否めない。
『あのピエロみてぇなのが出てきてから、な~んか、街の雰囲気が変わったような気がするんだがなぁ…。』
貫徹はおぼろげながらも、ロボット犯罪が減った現状をそう捉えていた。
貫徹自身もはっきりとした理由はわからない。
ただなんとなく、そんな気がするのだけである。
強いて言えばそれは、10年に及ぶガーディアンとしての経験からの考えかも知れない。
「おつかれさん。またな。ハチ。」
貫徹はそういうとテヤンデーの電源を落とした。
6月の終わり。
倫子が青葉島に来て2カ月が経った。
新しい生活にも慣れ、倫子は青葉島ライフを楽しんでいるのだろう。
と言いたいところではあるが、当の本人は一枚の紙を見ながら呆然としていた。
その紙のタイトルには、こう書いてあった。
「ロボット免許のシミュレーター模擬試験の結果」
つい先日、倫子と真美は初めてロボット免許の試験を受けたのだ。
倫子は学科は満点だったのだが、シミュレーターの方は88点で、合格点に2点足りなかった。
「マジカルのシミュレーターって、本当に凄いんだね…。」
倫子は紙を見ながらポツリと呟いた。
「あんなシミュレーター。気にしなくていいのよ。」
真美はあっけらかんと言う。
「そうかな…。」
蚊の鳴くような声で倫子が呟く。
「あんなおもちゃみたいなシミュレーターじゃ、てんで話にならないわ。あれでロボットに乗れるんだったら誰でも乗れるっちゅーの。マジカルを舐めんなっちゅーの。」
真美はそう言うが、学科実技ともに満点の真美の言葉に説得力などない。
「そうだね…。」
倫子の顔色は悪かった。
見るからにノックアウト寸前だ。
「なによ。あのカクカクの画面。あんなので距離感が掴めるわけないっちゅーの。大昔のゲームじゃあるまいし。」
真美はかなり怒っているようだ。
倫子がシミュレーター試験に落ちたのも無理もなかった。 真美の言う通り、試験で使われたシミュレーターは3Dですらないカクカクのポリゴンであり、距離感などは全く掴めなかったのだ。
もっと言えば、ロボットを操縦しているという感じすらなかったし、しいて言うなら操縦ではなくゲームのような感じだった。
その上ロボットの動作も遅く動きも荒い。
マジカルと比べればまさに雲泥の差である。
実際のワーカーのほうがずっと扱い易いだろう。
マジカルの操縦に慣れている倫子にとってはあまりにもマジカルとかけ離れ過ぎていて、かなり扱いにくかったのだ。
倫子はシミュレーターの違いに戸惑いながらも必死で操縦したのだが、何度かミスをしてしまった結果が88点である。
倫子としてはマジカルの操縦をしているという立場である以上、学科もシミュレーターも一発でクリアしたかったし受かると思っていた。
対して真美は終始顔を顰めながらもロボットを操縦をし、満点を叩き出した。
「あのシミュレーターは駄目ね。でも1回乗ったんだし、次は間違いなく合格よ!」
真美は力強く言った。
「そうだね!」
倫子も力強く言った。
「さ、試験の話はこれで終わり!いつも通り練習するわよ!」
真美はそう言って、倫子の肩をポンと叩いた。
「そうだね!」
倫子はもう1度力強く言った。
倫子の試験のほうは残念な結果に終わったが、マジカルの操縦の方は順調だった。
あれから薫子が2度ほど相手をしてくれたが、薫子は倫子の成長を素直に褒めてくれた。
倫子自身もわずかではあるが確かな手応えを感じていたし、着実に階段を登っている感覚はあったが、それと同時に目指す場所がまだまだ先にある事を痛感していた。
そんな状況においての今回の試験の結果である。
倫子は慢心する事の怖さを痛烈に感じたのだ。
真美は真美でリンの相棒になってから、少しづつ変化し始めていた。
今まで以上に倫子を観察するようになったし、マジカルの操縦も今までより直感的な動きが少なくなってきた。
倫子の動きを観察するようになった事で冷静さが生まれ、考えてから行動するようになってきたのである。
「何でもそうだけど、出来るようになるのは当たり前の事なの。人に教えられるようになって、初めて一人前になれるのよ。」
これが薫子から真美に与えられた、アドバイスの一つである。
正直な話、普通は二十歳にも満たない、まだ若い真美にかけるような言葉ではないだろう。
しかし真美は倫子より3年経験がある。
この3年を長いと考えるか、短いと考えるかは真美自身だ。
真美は、倫子より経験が3年もあると受け止めた。
そう思うと倫子がミスをしても、少しも気にならなかった。
自分だってミスを繰り返してきたのである。
真美がミスをしても真由も真奈美も1度も怒らなかった。
一緒になってミスの原因を探しだし、一緒に対策を考えてくれたのだ。
そうやって育ててもらった自分が倫子を怒るのはおかしな話だと思うし、ましてや倫子は相棒である。
相棒のミスを相棒がフォローしなくて、誰がしてくれると言うのだろう。
真美は倫子とコンビを組んで確実に変わっていったのだ。
倫子は倫子で変わりつつあった。
真美を相棒として認識する事で、今まで以上に真美の動きや行動を観察するようになった。
倫子の観察は予測に繋がっていった。
予測はいつも当たるわけではないし、外れる事の方がまだまだ多い。
それでも予測を続けていると、少しづつだが当たるようになっていった。
とはいえ相手は真美である。
時折、とんでもない動きを見せては倫子を驚かせる。
そんな時は何度も録画した画像データを見直した。
どうしてもわからない時は、真美に理由を尋ねた。
真美はちゃんと説明してくれたが、中には「咄嗟にこうしたからわからない。」「勝手に体が動いた。」などと抽象的な答えが返ってくる事もあったが、それ以上深追いはしなかった。
ロボット犯罪が少なくなってきた今、実戦で経験を積めない倫子はシミュレーターで経験を積む事にした。
マジカル当番の日も、早々にピンクちゃんに乗り込んで真美と二人で練習するようになった。
一ヶ月前に出来なかった事が出来るようになって喜び。
真美の操縦を見てその差を痛感してへこむ。
毎日がその繰り返しである。
『3歩進んで2歩下がるんやね…。よう出来た言葉やなぁ。』
倫子は演歌の歌詞に感銘を受けた。
今はまだよくわからないが、将来は演歌が好きになるかも知れない。
いつものように真美と練習をしていた時、倫子が真美に言った。
「いつもごめんねマミちゃん。」
「何が?」
「いつも練習に付き合ってくれてありがとう。」
「なんで?」
「なんでって…。」
倫子は言葉に詰まった。
「付き合ってるんじゃないわ。あたしも練習したいだけよ。」
「え?」
「リンと一緒に練習してると、あたしもいい練習になってるのよ。別に無理してリンに付き合ってるわけじゃないから気にしないで。」
真美はそう言って笑った。
「そうなの?」
倫子はキョトンとしている。
「一人で練習して技を覚えることが出来ても、実践的な事はあんまり身につかないのよね~。いくら技を覚えても実践出来なかったら意味がないでしょ?」
「そうだね…。」
「やっぱり誰かと練習するほうが身につく気がするわ。」
「わかった。早くマミちゃんの相手が出来るように頑張るよ。」
倫子はそう言って笑った。
「お互いがんばりましょ!」
真美はそう言って、嬉しそうに笑った。
「魔法が使えない俺が、大賢者と呼ばれるようになった理由」は毎週、水曜日と日曜日の更新に変更となりました。
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