第四章 第9話 「Promise」
9話です。
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「えーっと…。」
倫子はそう言って頭を搔いた。
あまりにも唐突に予想を遥かに上回る提案を受けたのだ。
倫子の心臓が早鐘のように鳴っているのも、しかたないだろう。
「あたしとコンビを組むのは嫌?」
真美は真剣な顔で倫子に尋ねた。
「そうじゃなくってね。私はマミちゃんにそう言ってもらえてすごくうれしいよ。でも、私でいいのかな?」
「どういう意味?」
「私はなんにも出来ないよ?へたっぴだよ?マミちゃんの足を引っ張るよ?それでもいいの?」
倫子は真剣な眼差しで真美を見た。
「今はそうね。リンはマジカルに乗ってからまだ、日も浅いしね。」
「それでもいいの?」
倫子の声は真剣だ。
「構わないわ。あたしは一人で強くなりたいわけじゃないの。リンと一緒に強くなりたいの。足を引っ張られても迷惑をかけられても、あたしは怒らない。コンビを組めばあたしだってリンの足を引っ張ったり、迷惑をかけたりするでしょうしね。コンビってそういう関係じゃない?」
倫子の胸、真に美の一言一言に込められた熱意が、ひしひしと伝わってくる。
「まだまだ日は浅いかも知れないけれど、あたしはあたしなりにリンを見てきたつもりよ。リンから見てあたしはどうなの?あたしはそれが聞きたいわ。」
「私はね…。マミちゃんをすごいなぁって思ってるし、マミちゃんに早く追いつきたいと思ってる。マジカルの操縦だけじゃなくて、他にもいっぱいいっぱい教えて欲しい事がある。」
「あたしもね。リンの事がもっと知りたい。お互いに理解しあってもっともっと成長したい。あたし一人じゃ、絶対に行けない場所に行きたいの。」
「マミちゃん…。」
「あたしはさ、リンも気が付いていると思うけど人付き合いが苦手なの。他人に興味もないし必要以上に関わりたくないと思って生きてきた。それを寂しいなんて思ったことはないし、これから先も思わない。だってそれがあたしだもの。」
「マミちゃん…。」
「でもね。いつも一生懸命頑張っているリンを見ていて思ったの。リンみたいな生き方もあるんだなって。他人にこんな事を思ったのは初めてなの。」
『プロポーズされるってこんな感じなんかな…。』
そう思った途端、倫子の顔が赤くなった。
「あたしはリンから学びたい。もしもリンがあたしから何かを学びたいと思うなら、あたしとコンビを組んで欲しい。」
「私の方こそ、マミちゃんとコンビが組みたい。」
「それじゃあコンビ成立ね。」
真美はそう言うと、倫子に右手を差しだした。
「よろしくね。マミちゃん。」
倫子は真美の手をしっかりと握った。
「一つだけ約束をするわ。あたしは絶対にリンを見捨てたりしない。」
「私も約束する。私もマミちゃんを見捨てたりしない。」
今ここに、真美と倫子の新コンビ「マミリンコンビ」が誕生した。
その日の夜。
真美はベッドに横たわりながら、隣のベッドに眠る真由に語りかけた。
「お姉ちゃん。明日からTVのお仕事だよね。何時に乙女座を出るの?」
「始発の高速艇で行くの。6:00にはここを出ないといけないかしら?」
「港まで送ろうか?」
「明日は頼もしいボディガードが来てくれるから大丈夫よ?」
「そっか…。ねぇお姉ちゃん。」
「なぁに?」
「あたし。リンとコンビを組むことにしたの。」
「あら。よかったわねマミちゃん。」
真由は嬉しそうに言った。
「あたし達。お姉ちゃん達みたいになれるかな?」
「大丈夫。リンちゃんもマミちゃんもすごい子だから、私達以上のコンビになれるわ。」
「お姉ちゃんはリンはすごいと思う?」
「リンちゃんはすごい子よ。マミちゃんと同じくらい。」
「そうかな…。」
「大丈夫。マミちゃんが真剣にリンちゃんにぶつかっていって、いっぱい喧嘩をしていっぱい仲直りをすればいいの。お互いに本気でぶつかり合えば絶対にいいコンビになるわ。」
「そうよね…。」
真美は枕元のおさるのぬいぐるみを手元に引き寄せると、両手でギュッと抱きしめた。
子供の頃からのクセだが治す気はない。
こうするとすごく安心出来るからだ。
『あんなに恥ずかしい事…。リンには言えるのにな…。』
真美は倫子とコンビを組める自信があって、声をかけたわけではない。振られる覚悟を持って倫子にコンビの話を持ち掛けたのだ。
もちろん振られたら振られたで、またチャレンジするつもりではあったが。
『約束…。忘れちゃったのかな…。』
なんとも言葉にしがたい複雑な気持ちが、真美の胸中に湧き上がる。
たまらず真美はおさるのぬいぐるみを、ギュッと強く抱きしめた。
翌朝。
真由と真美が屋上のドローンに向かうと、GジャンGパン姿に野球帽を被った健斗が、荷物も持たずドローンの前に立っていた。
真由は鍔広の白い帽子を被って、サングラスをかけており、真美の方は普段着だ。
「え?真美もいるのか?」
真美の姿を見た健斗は急に慌てだした。
「なによ?あたしがいたら何かまずい事でもあるの?」
「いや。まだ寝てるかなって思ってたんだ。」
朝っぱらから吠える真美。
たじろぐ健斗。
笑う真由。
今は朝の5:30である。
健斗の言うこともあながち間違いではないと思うが、無論、健斗に抗う術などない。
「早く乗りなさいよ。あたしが港まで送るから。」
真美はぶっきらぼうに言った。
「え?いいのか?」
驚く健斗。
「ドローンを港に置いておいたら、駐車場代がもったいないでしょ。帰りも迎えに行くから電話しなさいよ。」
「はい…。」
「今日もよろしくね。健斗くん。」
真由はそう言って健斗に微笑みかけた。
「よろしくお願いします。」
健斗は深く頭を下げたが、港に着くまでの間、健斗は針のむしろであった。
誰一人口を開かないまま、冷たい時間が過ぎていったからだ。
ドローンが青葉港に到着し、真由と健斗は港に降り立った。
「お姉ちゃん。急いで帰ってこなくていいからね。お仕事頑張って。無理しちゃダメよ。」
「ありがとうマミちゃん。」
「健斗。お姉ちゃんの事頼んだわよ。なにかあったらあたしと真奈美ちゃんが、あんたをタダじゃおかないからね!」
「お、おう!」
もう一人の鬼を思い出して健斗は焦った。
「それじゃあお姉ちゃん。気をつけてね。」
「ありがとうマミちゃん。気をつけて帰ってね。」
真美が操縦するドローンが上昇し真由が手を振る。
健斗は黙ってドローンを見上げている。
手を振りたいところだが、それで真美にキレられてはたまったものではない。
「行きましょうか。」
真由はそう言うと、健斗と腕を組んだ。
「はい。」
健斗が真由のアタッシュケースを手にすると、二人は高速艇へと歩きだした。
二人が高速艇に乗り込むと、いつもの特別室に案内された。
豪華な内装の特別室は、家具も調度品も全て一級品であり、しかもウェルカムドリンクまで準備されている。
「二人とも相変わらずね。」
豪華なソファーに腰掛けながら、真由が健斗に言った。
「正直参ってます。」
健斗は項垂れながら、力無く答えた。
「思い当たる節はないのかしら?」
真由は笑いながら健斗に尋ねた。
「それがちっともわからなくて。真由さんは心当たりがありませんか?」
「リンちゃんに聞いてみたら?」
「倫子ちゃんにですか?」
「ええ。」
「倫子ちゃんには協力を頼みました。」
「あら?そうなの?」
「何かわかったら教えて欲しいと言いました。」
「理由はちゃんと説明したの?」
「それは…。」
健斗は言葉に詰まった。
「それじゃあダメね。」
真由はそう言って笑った。
「ダメですか…。」
健斗は肩を落とした。
「健斗くんは真美ちゃんとの約束を覚えてる?」
「覚えています。忘れたりしません。絶対に。」
健斗は力強く言った。
「私との約束も?」
「もちろんです。」
「マミちゃんとの約束は守れているけれど、私との約束は守れているのかな?」
「それは…。」
健斗は再び俯いてしまった。
「マミちゃんを泣かせたら絶対に許さない。これが私との約束よね?」
「はい。」
「マミちゃんは泣いていないから、約束は守れているわね。」
「え?」
「見た目はね。」
「…。」
健斗は言葉が出ない。
「マミちゃんは強いから、悔しくて泣く事はあっても悲しくて泣く事はないわ。でもそれって、本当に泣いていないのかな?」
「それは…。」
「健斗くん。マミちゃんと私との約束。必ず守ってね。」
由はそう言って健斗に微笑みかけた。
朝食の時、真奈美は非常に元気がなかった。
大好きなきのこのオムレツですらフォークでツンツンとつつくだけで、一切手をつけようともしない。
口をもぐもぐとさせながら、ソーセージにフォークを突き刺した倫子は思った。
『真奈美さんどうしたんやろ?』
チラリと横の真美に目をやるが、知ってか知らずか真美は黙々と朝食を食べ進めている。
「真奈美さん。体調でも悪いんですか?」
倫子がそう言うと
「そうなの!栄養が足りないのよ!」
珍しく真奈美が大きな声で言った。
「栄養?」
倫子は首を傾げた。
栄養が足りなければ、朝食を食べればいいではないか。
「いつもの事よ。」
真美は事もなげに言う。
「いつもの事。いつもの事なのだ。」
未祐もそう言ってきのこオムレツを口に運ぶ。
「真由ちゃん成分が足りないの。」
真奈美は悲しそうに言った。
「真由ちゃん成分?」
女神教徒の倫子にとってはなんとも魅力的な響きの成分ではあるが、教徒である倫子ですらそんな成分があることを知らなかった。
女神教は奥が深い。
「最近、真由ちゃんのマネージメントが出来てないのよねぇ。健斗くんばっかりずるいと思わない?ねぇ?倫子ちゃん。」
どうやら真奈美は倫子以上の女神教徒らしい。
いや、最古参の女神教徒と言うべきかも知れない。
しかし真奈美がおかしな事を言い出しても、この場にいる倫子以外の全員が何も言わずに黙々と朝食を食べているという事は、見慣れた光景ということだろう。
『健斗さん…。真奈美さんにも恨まれてるやん…。さすがにかわいそうやな…。』
倫子は健斗に同情したがもちろん口には出さない。
同じ教徒と喧嘩などしたくはないからだ。
「そうですね。ははははは。」
ソーセージの突き刺さったフォークを手に、倫子はただ笑うことしか出来なかった。
これも告白になるのでしょうか?




