第四章 第7話 「我に秘策あり!」
7話です。
いつも読んでくれてありがとうございます。
m(_ _)m
「ピンク…ちゃん?」
リンリンは呟いた。
マジカルグリーンを包む光が収まり、リンリンの目の前に現れたのは、腰に大小を携えピンクの袴を履いた大和撫子だった。
「どうかしら?」
薫子は倫子に言った。
「そのピンクちゃんは…。」
リンリンは大和撫子を呆然と見ながら言った。
「あなたが今まで育ててきたピンクちゃんよ。」
「え?」
「ピンクちゃんのバックアップデータをそのままコピーしたの。こういうのは嫌?」
薫子の問いかけに、リンリンは間髪を入れずに答えた。
「ありがとうございます!すっごく勉強になります!」
『やっぱりリンリンだわ…。』
リンリンの言葉を聞いた薫子の中で、何かが予感から確信へと変わった。
自分の育てた機体に他人が乗る。
それだけで嫌悪感を覚える人は多いだろう。
しかも自分が育てた機体に乗る相手は、明らかに自分より上手に操縦出来る人間である。
力の差をありありと示された上に、惨めな気持ちになるとわかっていて、それを見たがる者などいないだろう。
いるとすればその人は「稀代の変わり者」だ。
ところがここにいたのである。
京都から来た稀代の変わり者が。
事実、薫子の言葉を聞いた瞬間、リンリンは嬉しくなった。
シミュレーターとはいえ、薫子が自分が育ててきたピンクちゃんにわざわざ乗ってくれると言うのだ。
それはパイロットの能力の差がはっきりと出ると言う事であり、薫子が今のリンリンには出来ない事をやって見せてくれると言う事ではないか?
自分にとってこれ以上勉強になることがあるだろうか?
精一杯戦って、後で何度も映像を見直そう。
きっと次につながる何かが摑めるはず。
倫子はなんの打算もなく純粋にそう思ったのだ。
俄然やる気になったリンリンは、喜び勇みながら刀を構えると言った。
「一手御教授願います!」
「それじゃあ遠慮なく行くわよ。」
薫子もそう言って刀を構えた。
大和撫子と大和撫子は互いに刀を構えたまま近づくと、同じタイミングで打ち合いを始めた。
キン! キン! キン! キン!
刀と刀がぶつかり合う音を立てながら、2機の大和撫子は上下左右に激しく打ち合う。
キン! キン! キン! キン!
『薫子さんは剣道の有段者だ。それも凄く強い…。』
『リンリンは剣道の経験者ね…。』
激しい打ち合いの中、リンリンと薫子は互いに互いを分析しあう。
その分析はリンリンも薫子も間違ってはいない。
『薫子さんは強い。でもこれは剣道とは違うんや。』
キン!
2機の大和撫子が鍔迫り合いになった瞬間、リンリンが右足を振り回し、薫子の左脇腹めがけてミドルキックを放った。
薫子は思いっきり左足で地面を蹴り、大和撫子の機体を右に流しながら肘の辺りでリンリンのキックを受け止め、そのまま大きく機体を右へ流した。
『当たってへん。流されてる。』
リンリンがそう思ったと同時に、薫子は右足で地面を蹴ると、左手で刀を横に構えながらリンリンに襲いかかった。
薫子の狙いはリンリンの首だ。
リンリンは腰を落としながら右に旋回しつつ、薫子の攻撃を避けると、伸びてきた薫子の左の手首をめがけ左手に持った刀を下から跳ねあげた。
薫子は腰を左に大きく捻り、攻撃を避けつつ右手でリンリンの顔めがけてパンチをくりだしたが、リンリンは反射的に首を捻ってパンチを避けると意外な行動にでた。
刀を戻しながら右膝を地面につき、右肩に刀を乗せて両手で刀を握ったのだ。
「!?」
薫子の顔に緊張が走った瞬間、薫子は大きく後ろに跳んだ。
ビュン!
リンリンの放った横凪の一閃は、薫子の胴のギリギリの所で虚しく宙を斬った。
「ふぅ。ふぅ。ふぅ。」
リンリンは大きく肩で息をしながら固まっている。
「今の『担ぎ胴』は考えてやったの?」
薫子は真剣な口調でリンリンに尋ねた。
担ぎ胴とは肩に刀を担ぐようにしてから打ち込み、タイミングをずらす技である。
剣道の試合でもなかなか使いどころの難しい技であり、実戦ともなるとほとんど見る事はない。
「いえ。何も考えてませんでした。担ぎ胴は偶然です。」
リンリンは答えた。
「考えなかったの?」
「考えていたら間に合いませんから、流れに任せました。」
「なるほどね…。それじゃあ、続きを始めましょうか。」
薫子はそう言うと正眼の構えをとった。
リビングで真美が倫子を待っていると、どんよりとした顔の倫子が戻ってきた。
「どうだった?」
真美が倫子に尋ねた。
倫子はうなだれながら、ゆっくりと首を横に振った。
「次はあたしね。」
真美がそう言うと倫子は俯いたままスッと右手をあげた。
パン!
真美は倫子に勢いよく倫子にタッチをすると
「行ってくるわ!」
と言って鼻息も荒くリビングから出て行った。
真美はやる気満々のようだ。
『手も足もでにゃかった~。』
倫子は悲しくなった。
担ぎ胴の後の倫子は散々であった。
致命的な一撃こそ食らわなかったが、何度も倒され何度もこかされた。
薫子の操るピンクちゃんはまるで水を得た魚のように活発に動きまわり、リンリンは攻撃に出るどころか防御すらおぼつかない状態に陥った。
まさに絵に描いたようなワンサイドゲームだったのだ。
コテンパンどころか、コテンコテンのパンパンパンだった。
『ピンクちゃんはあんな動きも出来るんやね…。ごめんねピンクちゃん…。今の私には無理…。これから頑張るから許して…。』
顔に翳りを見せながら、ソファーに座る倫子の様子がおかしい。
テーブルの上に置かれたお菓子に、倫子が手をつけないでいるのだ!
倫子が食べてもいいお菓子を目の前にしながら、手を伸ばさないなんて事はない!
そんな事はあり得ないのだ!
そう。今この瞬間、目の前で小さな奇跡が起こったのである。
ガチャ。
ドアが開き、ブレザーを着た未祐がリビングに入ってきた。
「ただいまなのだ。」
未祐がそう言うと倫子が力なく言った。
「おかえりミユちゃん。あれ?学校は?」
「帰ってこいって言うから、おなか痛い痛~い。って言って早引けしたのだ。桜子ママはどこなのだ?」
「キッチンでまさみちゃんとケーキを作ってるよ。」
バン!
今度は大きな音と共にドアが開き、聖美がリビングに入ってきた。
「桜子さん。何かあったの!」
聖美はリビングに入るなり言った。
「聖美ちゃん。」
倫子が聖美に声をかけた。
「あれ?桜子さんは?」
聖美はリビングを見回しながら尋ねた。
「キッチンにいるよ。」
「何かあったの?」
「薫子さんが来ててね、今はマミちゃんの相手をしてくれてるの。マミちゃんが戻ってきたら、次はミユちゃんが行ってね。」
「そういう事か…。よ~し!今日こそ勝つ!」
聖美が闘志を燃やし始めた。
「頑張るのだ。」
珍しく未祐までもがやる気のようだ。
「リンちゃんは終わったの?」
未祐が倫子に尋ねた。
「さっき終わったよ…。」
「どうだった?」
聖美は興味津々だ。
「じぇんじぇんダメだった~。」
倫子はそう言うと、ふにゃふにゃとソファーの上に崩れ落ちた。
「薫子さんは凄かったか?」
未祐が倫子に尋ねた。
「凄かったよ…。なにがなんだか、訳がわからないくらい凄かったよ…。気が付いたらこけてたよ…。ピンクちゃん傷だらけだよ…。」
倫子は力なく答える。
「ふっふっふ…。ボクには秘策があるんだ…。」
聖美は不敵な笑みを浮かべた。
「私もあるのだ~。」
未祐もそう言ってニヤリと笑った。
『えぇ~!二人とも対策済みなん!ずっこ!ずっこくないけどずっこいわ!』
倫子は思わずのけ反った。
倫子が言うずっこくないのにずっこいとは、どういう意味なのかわからないが、「ずっこい」と言うのは「ずるい」と言う意味だ。
それから20分ほどが過ぎた頃
ガチャ
小さな音をたててリビングのドアが開いた。
倫子と未祐と聖美は、一斉に慌ててドアの方を見た。
笑顔の真美が部屋に入ってくる。
「マミタンどうだった?」
聖美が真美に尋ねた。
「次は誰?」
真美は笑顔で言った。
「次は私なのだ。」
そう言って未祐が右手を挙げた。
真美は笑顔で未祐に近づいていくと
パン!
「頑張って!」
未祐にタッチした後、真美はどんよりとした顔で倫子の隣に座った。
『マミちゃんでも、あかんかったんかぁ…。』
倫子もどんよりとした顔でうつむいた。
倫子と真美。共に撃沈。




