第四章 第6話 「手も足もでにゃい。そのにー!」
6話です。
いつも読んでくれてありがとうございます。
m(_ _)m
「さあ。今度はグリーンちゃんが相手よ。かかってきなさい。」
薫子の声はあくまでやさしい。
「はい!」
リンリンはそう言うと、グリーンに斬りかかっていった。
グリーンは大和撫子の乱打をシュパシュパ丸の柄で受け止めていく。
リンリンは上下左右に緩急をつけながらグリーンに打ち込んでいくが、グリーンは難なく大和撫子の放つ全ての打ち込みに対応している。
「ただ闇雲に打ち込むんじゃなくて、次の手を考えながら攻めなさい。」
大和撫子の打ち込みを軽々と捌きながら薫子が言う。
「はい!」
「これは剣道の試合じゃないのよ?刀を打ち込むだけでいいの?」
『そうか!』
薫子の言葉を聞き、リンリンはハッとなった。
『剣道の試合やないねんから、なんでもありやん。』
大和撫子は両手で刀を強く押し込みながらバーニアを噴かしつつ、マジカルグリーンに体当たりをかけた。
「そうそう!その調子よ!」
薫子は嬉しそうに言った。
大和撫子にされるがままに、後ろに押されているマジカルグリーンだったが
「それで次はどうするの?」
薫子はそう言うと、またもやマジカルグリーンの機体を後ろに倒した。
「え?」
リンリンが声をあげた途端
ゴン!
という激しい音と共に、大和撫子の機体が上空へと飛びあがった。
前のめりになった大和撫子の腹部を、マジカルグリーンが下から思いっきり蹴り上げたのだ。
「わきゃあ!」
リンリンは上空に大きく飛ばされながら声をあげた。
マジカルグリーンが右足の脛の裏のバーニアを全開にして、マジカルピンクを思いっきり蹴り上げたからだ。
リンリンが慌ててマジカルグリーンに目を向けると、バイザーには地上でシュパシュパ丸を構え、今にも飛び上がって来そうなマジカルグリーンが見える。
『あかん!追撃が来る!』
リンリンは咄嗟にバーニアのペダルを踏み込んだ。
大和撫子は上空に飛ばされながらもマジカルグリーンの真下から横へと進み、マジカルグリーンの射程圏内から外れた。
「いい判断よ!」
薫子はシュパシュパ丸を肩に担ぎながら、満足そうに言った。
「いまの判断と動きはすごくよかったわ。」
「あ、ありがとうございます。」
リンリンは大和撫子を地面に着陸させると、心臓をバクバクさせながら言った。
あのままだと大和撫子はマジカルグリーンから下からの追撃を受け、串刺しにされていただろう。
たとえシミュレーターであってもピンクちゃんを傷つけたくないリンリンには、ゾッとするしかない話である。
「いいリンリン。これからは今まで以上に、他のマジカルちゃん達とシミュレーターで対戦をしなさい。そうやって少しでも経験を積むの。勝てなくても構わない。勝利から学ぶのではなく、負けから学びなさい。何より咄嗟の判断には、それまでの経験が必ず出てくるものよ。」
『薫子さん。お母さんとおんなじ事言うんや…。』
リンリンはあっけにとられた。
「みんなには私の方からも伝えておくから、遠慮なくみんなの胸を借りなさい。そうやってあなたが強くなることが、なによりの恩返しになるのよ。」
「はい!」
リンリンは元気よく答えた。
『こんな事を言うのは偲びないんだけどなぁ…。あなたがマジカルに乗った以上、これからの先の事を考えると悠長な事を言っている暇はないのよ…。ごめんなさいね倫子ちゃん…。』
薫子は心の中で倫子に詫びた。
「今度はこっちから行くわよ。」
薫子がそう言うと同時に、マジカルグリーンが大和撫子に向かって襲いかかってきた。
『また上?』
リンリンはマジカルグリーンの動きを凝視しながら身構える。
マジカルグリーンは、シュパシュパ丸を両手でしっかりと持ちながら、まるで棒高跳びの助走のようなフォームで突進してくる。
『ピンクちゃんを跳び越えるつもりなん?』
リンリンがそう思った瞬間、マジカルグリーンは地面にシュパシュパ丸を突き、跳び上がった。
『そうくるんやったら!』
大和撫子は刀を大きく振りかざしながら、マジカルグリーンに突進した。
リンリンはマジカルグリーンが高い位置にいる間に落下位置から離れて、着地際に斬りかかられるのを避けようとしたのだ。
うまくいけばマジカルグリーンの着地のタイミングに合わせて、一太刀なりとも入れられるかも知れない。
『思い切りがいいわね。』
薫子は大和撫子の動きを確認すると、マジカルグリーンを空中で停止させながらバーニアで体勢を変えると、大和撫子のがら空きになった胸に向かってキックを放った。
人間には出来ないロボットらしい動きと言えよう。
ガン!
「わきゃあ!」
正面からキックをくらった大和撫子は、後ろに大きく飛ばされゴロゴロと地面を転がっていく。
シミュレーターなので画面が変わるだけで済んでいるが、実機であればたとえシートベルトをしていたとしても、リンリンの体は大変な事になっていただろう。
『手も足も出にゃい~。』
地面に倒れながら、リンリンは泣きたくなった。
実力の差があるのはわかっていたが、ここまで開きがあるとさすがに泣きたくなる。
その気持ちもわからなくはないが、泣いてどうなるものでもない。
「今のもいい判断だったわ。」
薫子は満足そうに言った。
「そうですかぁ~。」
リンリンは情けない声を出す。
「思い切りもいいし、仕掛けるタイミングもよかったわ。キックを受けたのは単純な経験不足からよ。でもこれで覚えたでしょう?」
薫子の声は明るい。
「はい~。勉強になりましたぁ~。」
リンリンは大和撫子の機体を起こしながら言った。
『一度に詰め込み過ぎて、自信を無くされたら逆効果ね…。今回は次で終わりにした方がよさそう…。』
薫子は少し考えた後
「それじゃあ、次で最後にしましょうか。」
「え?まだ全部じゃ…。」
リンリンは名残惜しそうに言った。
「一度に詰め込み過ぎるのもどうかなって思ってね。残りのマジカルは、次のお楽しみにするって言うのはどう?」
「え!次って言うことは、また教えて貰えるんですか!」
リンリンは嬉しそうに言った。
『やだ!リンリンったら、かわいい事を言ってくれるじゃない!』
薫子はキュンときた。
薫子が稽古中に、こんなにかわいいくて嬉しいセリフを聞いたのは生まれて初めてだった。
喜びもひとしおである。
「もちろんよ。それにね。」
「それに?」
「また次があれば、家族でお出かけ出来るでしょ?」
薫子は悪戯っぽく言った。
「そうか!そうですね!それなら私も喜んで協力します!何回、何十回でも、都合がよければ私に操縦を教えてください薫子さん!これってウィンウィンですよね?」
リンリンは嬉しそうに言った。
『この子いいわ。すごくいい。まさに真由ちゃんの言っていた通りね…。リンリンならいけるかも…。』
薫子はそんな事を考えていた。
「それじゃあ次が最後ね。」
薫子がそう言うと、今度はマジカルグリーンから眩しい光が放たれ、徐々にその機体が光に包まれていった。
「え…。」
リンリンは大きく目を見開き、目の前に立つマジカルを見つめながら、気の抜けたような声で一言だけ呟いた。
今年も残り一ヶ月を切りました。
第4章は、年内で区切りがつけばいいなと思っています。




