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第一章 8話「倫子。似合いすぎる」

第一章 8話です。

「それじゃあ今から、桜子さんのところに行って聞いてくるから。リンはここで待ってて。」 

「はい。」

真美がそう言うと倫子は笑顔で答えた。



二人が出て行ったあと、倫子は一通り部屋を見回すとニヤリと笑い

「ドーン!」と言って、大の字になってベッドにダイブした。

ふかふかのベッドの上で2回バウンドした倫子は、体を大の字にしたまま、ふかふかのベッドに沈み込んだ。

「すごくいい部屋やなぁ。夢みたいやわぁ。ベッドもふかふか~。」

倫子は瞼を閉じながら夢見心地で声を漏らしたが、突然カッと目を開き

『そうや!今のうちにお母さんに連絡しとこ。』

と思い立つと慌ててベッドから跳ね起きた。

『ん?ちょっと待って?』

倫子は考えた。

『お母さんはええけど、お父さんは今頃大騒ぎしてるんとちゃうやろか?慌てふためいてここに来ようとして、お母さんに止められる。ほんで今はしょぼくれながら仕事をしてる…。そんなとことちゃうかなぁ…。』

一抹の不安を覚えながら倫子は鞄の中からタブレットを取り出すと、タブレットの画面に指を滑らせた。

呼び出し音が切れると同時に、タブレットに美智子の顔が映った。



「どうやったん?」

美智子はいきなり問いかけてきた。

「あかんかった。スィートルームまで満室やって言われた。」

出来るだけ悲しそうな顔を作って倫子は言う。

「明日も空いてへんの?」

美智子の質問に、倫子が気まずそうに答えた。

「明日は…。聞いてない…。」

「聞いてへんのかいな?お母さん、明日そっちに行くって言うたのに。」

「ごめんなさい…。」

倫子は俯いた。

「かましまへんけど、そういう気配りは忘れたらあかんよ。」

美智子はやさしく言う。

「はい…。」

倫子は力無く答える。


その時、画面の左からポニーテールの少女がひょこっと顔を出した。

倫子に向かってニッコリと笑う少女はくりっとした目の、見るからに活発そうな女の子である。

「お姉ちゃん大丈夫なんか?」

女の子は心配そうに尋ねた。

「美姫。私は大丈夫やで。」

「ほんならよかったわ。お姉ちゃん聞いてぇな。お母さんが一緒に連れて行ってくれへんねん!」

美姫はご機嫌ななめのようだ。


「あんたは部活があるやないの。お母さんは観光で行くわけやないんやで?」

美智子は美姫の顔を見ながら言った。

「そやかて私も東京に行きたい!行きたい!行きたい!行きたい!」

体を激しく左右に振りながら、美姫は駄々をこねる。  

「美姫。そんなワガママいうたらあかんよ。」

倫子は諭すように美姫に語りかける。

「ほんならお姉ちゃん。代わりにお土産送ってよ。」

美姫はほっぺたを膨らませ、すねたような顔で倫子に言った。

なんの代わりだというのだろう?

意味がよくわからない。


「お土産?何がええのん?お菓子?キーホルダー?木刀?」

「あとでメールするけど木刀はいらん。」

「後で?今やったらあかんの?」

「ちゃんと調べてからにするぅ。」

そう言うと美姫は口を尖らせた。

「わかったから、おとなしゅう留守番しとくんよ。」

「やったー!ほな後でメールするねぇ。」

そう言うと美姫は急に笑顔になり、スッと画面から消えていった。



「ほんまに困った子やわぁ。誰に似たんやろうか?」

美智子は呆れた顔で呟いた。

「お父さんの方は大丈夫なん?」

倫子は心配そうに美智子に尋ねた。

万寿夫ますおさんは万寿夫ますおさんで、話を聞いた途端『倫子ー!待っとけよー!お父さんが今行くからなー!』言うて、うるさいのなんの…。」

美智子の話を聞き、倫子は頭を抱えた。

『予想通りやん…。』

倫子はあきれるしかなかった。



「今はどうしてるん?」

倫子が美智子に尋ねた。

万寿夫ますおさんがおらな、お店開けられへんでしょ?代わりに私が行ってくるさかい、店番しといてくださいな。っていうたらトボトボと店に戻って行ったわ。」

美智子はそう言うと、深いため息をついた。

『完璧やん…。予想通りの100点満点やん…。』

倫子も虚しいため息をつく。


「まぁ、入学式にはまだちょっとありますけど、将ちゃんの事も心配やし、ちょっと早めに行くとおもたらよろしおすやろ。」

「ごめんねお母さん。迷惑かけてしもて。」

「何も倫子が謝ることはないんよ。生きてたら思いもよらんことが起こるんは、当たり前の事やねんし。大事なんはそこから何を学ぶかとちゃいますか。」

「ほんまやね…。お母さんのゆうてた意味が、やっとわかったわ。」

倫子はそう言って笑った。


「そうやって少しづつ大人になっていくんよ。明日は朝一番の新幹線でそっちに行くから、昼頃には着くと思いますよってに、お店で待っといてんか。」

「わかった。」

「桜子さんにご迷惑がかからんよう、行儀ようするんやで。」

「うん。お世話になる間はお店のお手伝いをさせてくださいって言うたけど、迷惑やったかなぁ?」 

「気持ちはちゃんと伝えたんやし、それでええと思うよ。あとは桜子が決めはる事やさかいにね。ほなお母さんは明日の準備があるから切るわね。」

「お母さんありがとう。」

「ほなね。」

という美智子の声を最後に通話は切れた。




しばらく部屋で真美と真奈美の二人を待っていると、二人がやって来て真美が言った。

「オッケーだって。でも、無理はしないでねって。」

「はい。頑張ります!」

倫子が元気よく答えると、真美が言った。

「それじゃあ早速、今日の衣装せいふくを選びに行くわよ。何がいいかしらね。」

倫子は期待と不安で胸がドキドキした。




3人は衣装部屋に戻り、今夜の衣装選びを始めた。

「あたしがメイドさんだから、リンは…。」

真美はそう言いながら、ずらりと並ぶ衣装を物色している。

「チャイナドレスなんてどうかな?リンちゃんは何がいい?」

真奈美も衣装を物色しながら言ったが、倫子は何がいいかと聞かれて困った。

残念だが着たい服と着れる服は違うのだ。

ましてや初めてのコスプレなのだから、初手から失敗するのだけは避けたい。



「初めてでよくわからないので、選んで貰ってもいいですか?」

倫子はそう言うので精一杯だった。

「うーん。」

真美が、倫子の頭からつま先までを、じっくりと見ながら唸った。

真奈美も同じように倫子を見ている。

「あ!あれなんてどうかしら?」

真奈美が何かを思いついたらしく、笑顔で部屋の奥に走っていった。




10分後。

衣装に着替えた倫子は鏡の前に立つと、くるりと回って見せた。

「おー!似合う似合う。」

真美が満足げに頷く。

「本当ね!すごくしっくりきてるわ。」

真奈美は感心している。

「似合ってますか…。」

そう言って倫子は肩を落とした。

若干だが声のトーンも落ちている気がする。



「似合ってる似合ってる!」

そう言って真美は倫子を賞賛している。

「まるでタイムスリップしたみたいね!」

真奈美も絶賛だ。

「でしょうね…。」

倫子は聞こえないような声で呟いた。

倫子は鏡に目をやった。

鏡の中には地味~な色合いの、縞の入った着物に格子柄の帯を巻き、たすきを掛けた倫子がいる。

あとは髪を結いあげ、頭に櫛でもさせば時代劇に出てくる女中さんにしか見えない。



鏡の中の倫子は乾いた笑みを浮かべていた。

これで団子とお茶の載ったお盆を持てば、時代劇に出てくる女中さんから『峠の茶屋の娘さん』にジョブチェンジだ。 

特殊スキルは「お茶を溢さずに運べる」だろうか?

『これってコスプレというより、ただの実家の手伝いやん…。』

倫子は心の中で、泣きそうになった。


倫子が実家の和菓子屋で働いている時の格好が紺の着物に赤い帯なのだが、今の格好は色が違うだけで他は何も変わらない。

いや、地味になった分、グレードが下がっているはずなのだが、その地味な柄の着物がまた、自分で見てもしっくりときているのが悲しかった。



「ねぇねぇリンちゃん。私はどう?似合う?」

赤地に金糸で縁取りされた龍が、何匹も刺繍された、鮮やかなチャイナドレスを着た真奈美が倫子に聞いてきた。

チャイナドレスの裾が、膝上までしかないのは、動き易いようにだろうか。

それとも…。

どちらにしても、真奈美のすらりとした体に、チャイナドレスはとても似合っていた。

両脚のスリットからチラリと見える、白く長い脚がセクシーだし、真奈美が掛けている丸い眼鏡も良いアクセントになっている。



「ねぇリン。私はどう?似合ってる?」

体をくねらせながらそう言う真美も、非の打ち所がないほど似合っている。

頭にネコ耳のついたカチューシャを付け、裾にチェック柄のフリルが付いた、黒い半袖のミニのワンピースに、白い前掛けエプロンを掛けたその姿は、まさにメイドさんそのものだ。

それも超かわいくて超有能なネコ耳メイドさんだ。

首元の大きな赤いリボンが、目を引く。

とにもかくにも、二人とも峠の茶屋の娘よりは100倍も可愛くて、おしゃれなのは間違いない。

「お二人とも、すっごく似合ってますよ。」

倫子は笑顔で答えた。



真美 「ありがとうリン。」

真奈美 「ありがとうリンちゃん。」

真美と真奈美は倫子に礼を言ったが、倫子の姿をまじまじと見ると

真美 「でもリンにはかなわないわ。」

真奈美「やっぱり、リンちゃんが一番似合っているわ。」

2人は何度も倫子を見ながらと言った。

『私は二人から賞賛されるほど、昔の人の体型ってことなのね…。アホアホアホ!お父さんのアホ!』

神楽坂万寿夫も死ぬほど心配している娘に、恨まれているなどとは夢にも思うまい。

悲しいがこれが現実なのだが、万寿夫には知らぬが仏でよかったのだろう。


「それじゃあ、今からレクチャーするわね。」

真美の言葉を皮切りにそれから1時間の間、倫子は2人からアルバイトのレクチャーをみっちりと受けた。

倫子は終始、真剣な面持ちで2人からのレクチャーに耳を傾け、あっという間に1時間が過ぎていった。



夕方の熱血屋の店内は週末という事もあり、サラリーマンや家族連れのお客さん達でごった返している。

当然仕事の方は忙しくなり、店内はバーゲン会場さながらの戦場と化した。

「特製ガーリックステーキセットのライス大盛りが一人前と、ポークジンジャーセットが一人前に、チーズハンバーグセットが一人前、フライドポテトの大盛りが一つ、ジョッキの生が三つですね?かしこまりました~。」

オーダーを受けてローラーブレードで店内を滑走する真美は、時折、口元まで伸びたマイクに向かって

「リン。8番テーブル片づけて。そう。中華のテーブル。

くるくる回るやつよ。」

と倫子に指示を出しているが、その間も決して笑顔を崩さない。


「炒飯が二つにチンジャオロース一つ。エビチリと酢豚に麻婆豆腐が一つづ津にライスが一つですね?春巻き一つ追加で?はい、かしこまりました。」

真奈美も笑顔でオーダーを受けながら、店内を滑走している。

真奈美のものは衣装に合わせて普通のインカムだ。


対して倫子は料理の載ったワゴンを押しながら歩いていた。

倫子はローラーブレードに乗れないので普通に歩いているが、着物姿にローラーブレードと言うのも如何なものか。



テーブルに着いた倫子は「お待たせしました。焼き鳥の盛り合わせと、串カツの盛り合わせに枝豆です。ジョッキの生おかわりで?はい。二つですね?」

とまぁ、終始配膳に回っている。


真美と真奈美は忙しなく店内を縦横無尽に走り回り、オーダーを取りつつ手が空けば配膳に回る。

その姿は実に手際良く、お客さん達を相手に笑顔を振りまきながらそつなくこなしている。

倫子の方は初めてということもあり、お客さんに笑顔を振りまく余裕こそないが、それでも一生懸命仕事をこなしているのが、傍目で見ても伝わってくる。



真美と真奈美はテキパキと仕事をこなしながらも、倫子の動きに注意を払っていた。

「見てよ。リンが笑ってるわ。なかなかやるわね。」

真美は真奈美とすれ違いざまに立ち止まり、真奈美に話かけた

「そうね。着物であれだけ動けるのも大したものだわ。」

というと、真奈美も真美に言った。

「あとは慣れね。」

真美がそう言うと

「マミちゃん!オーダーよろしく!」

遠くのテーブルに座るサラリーマン風の男が、真美に向かって手を振りながら言った。

「はーい!すぐ行きまーす!」

真美は笑顔で元気よく返事をすると、床を蹴りオーダーを取りに向かった。

地獄のような忙しさは23時まで続き、3人は休憩も無しで5時間働き続けた。

休憩をとる暇が無かったのだ。




23時になった時

「交代しまーす。真奈美さんチームはあがってくださ~い。お疲れさまでした。」

真奈美のイヤホンから若い女性の声が聞こえた。

「はーい、あがりま~す。お疲れさまでした~。」

真奈美は口元まで伸びたマイクに向かってそう言うと、真美と倫子と共に、店の奥にあるスタッフルームに入っていった。

ぱんつの道は険しく、困難が多い事を知りました…。


全く知識がない…。


そろそろ「創世のファンタジア」も更新したいのですが…。

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