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第四章 3話 「フラミンゴvsゴキブリ」

3話です。



いつも読んでくれてありがとうございます。


 m(_ _)m

スーパーひとくん2号とブラックブル号は、ほぼ同時に走り出した。

しかし走り出した瞬間から、スーパーひとくん2号が大きくリードをとった。


車体の重さもあるのだが、スーパーひとくん2号のトップスピードに乗るまでの立ち上げ速度は、ブラックブル号よりも遥かに速くチューンナップされている。

聖美(さとみ)が自分用にチューンしているのだが、もしも輝男がスーパーひとくん2号で聖美と同じ事をしたら、すぐにスーパーひとくん2号はウィリーをして輝男は振りほどかれてしまうだろう。

それほどまでの急加速がかかるのである。

マジカルグリーンですらピーキーなチューンナップを施されているのだから、スーパーひとくん2号の調整もピーキーなのだろう。


全身真っ黒でノンカウルのブラックブル号とは違い、ピンクのボディに黄色く尖ったフロントカウルのスーパーひとくん2号は、その外見から青葉市民に「中央通りのフラミンゴ」と言う通り名をいただいているが、出前用のバイクにしては派手過ぎる気もする。

左右のヘッドライトが目のように見えるのがチャームポイントだ。

ちなみにスーパーひとくん1号は、2号と同型車でエンジンが125ccとなっており、見た目では違いがわからない。



『まずはいつも通りだね~。』

聖美はスーパーひとくん2号を走らせながら思った。

聖美がスーパーひとくん2号で中央通りを進んでいると、輝男のブラックブル号がじわじわと距離を詰めてきたが、聖美の表情に焦りの色はない。


中央通りに車やバイクの姿はあまりなく、バスとトラックなどの輸送車両などの大型車両ばかりが目につく。

なぜなら、大半の車は中央通りに沿って走る道幅が狭い道を走ることが多く、急いでいる時に中央通りを走る程度だからだ。

いつロボットが暴れて通行止めになるかわからないような道を、好き好んで走る車などないという事だろう。


そもそも一般家庭の車の普及率はかなり低い。

乗用ドローンとバイク、自家用車の比率は6:2:2といったところだろうか。

車やバイクを持っている人は、趣味で乗っている部分が大きいのだ。


島の公的交通機関は青葉市営バスしかないが、10~15分に一本と本数もあるし、どれだけ島の外れに住んでいても島内であれば1時間以内に目的地着けるようになっているので利便性も高い。

しかも全区間一律100円と料金が安く、高齢者はもちろんタダになるのだからバスを使わない手は無いだろう。



『残りの信号はあと二つ。この時間帯だと余裕だね~。』

聖美はだんだんと近づいてくる信号機に目をやると、信号機が点滅を始めた。

『これは仕切り直しだね~。』

聖美がそう思った時、ブラックブル号が隣に並んだ。

「勝負はこれからだ!」

輝男はそう言って笑う。


横並びになった2台は同じスピードで中央通りを進んでいく。

チラリチラリと何度もスピードメーターを確認する輝男。

法定速度をきっちりと守っているのだ。


対して聖美はスピードメーターを一切見ずに、加速以外は常に時速60kmをキープしている。

聖美は頭より先に体で覚えるタイプなので、体でスピードを感じているのでスピードメーターを見る必要がないのだ。



やがて信号が点滅を早め、聖美と輝男はスピードを落としていく。

バイクが止まる前に信号が赤に変わり、聖美と輝男はバイクを止めた。

「勝負はまだまだこれからだ!」

「そうだね~。」

聖美は気のない返事をした。

『面倒くさいなぁ~。』

バイクに乗るのは好きだが、レースに興味がない聖美の本心はこれである。


谷中聖美やなかさとみの思考は単純かつ明快である。

興味があることに関しては寝食を忘れるほどにのめり込むが、興味のないことには見向きもしない。

意見を求められれば真剣に頭を悩ませるが、求められない以上は何も言わないし考えるつもりもない。

例えるなら、首輪のない自由奔放な猫と言ったところか。



信号が青になった途端に2台のバイクは走り出したが、先ほどと同じようにスーパーひとくん2号がせんをとった。

『2号の機嫌は悪くないね~。』

聖美はモーター音に耳を傾けつつ、満足そうに笑った。

まるで鳥のくちばしのように黄色く尖ったスーパーひとくん2号の鼻先が、風を切りながら颯爽と通りを走っていく。


しばらく走っていると、また信号に引っかかった。

輝男はイライラしているが、聖美は平然としながら思った。

『いつも通りだよね~。』

聖美は面白くもなさそうだ。

産業地域の入口までに信号は3つあるが、昼間だとどれだけ飛ばしても絶対に全部ひっかかるようになっていることを聖美は知っている。

勝負は3つ目の信号を超えて、次の交差点を左に曲がってからしか出来ないのだ。

勝負はここからなのである。


信号が青になると、スーパーひとくん2号とブラックブル号は三度みたびスタートを切った。

スーパーひとくん2号はスタートダッシュでブラックブル号を今まで以上に引き離した。


物凄いスピードと滑らかさで加速するスーパーひとくん2号。

負けるものかと追いかけるブラックブル号。

じわじわと距離を離しながら、聖美の前に交差点が見えてきた。

「おっ先~。」

聖美がそう言うと、交差点にさしかかったスーパーひとくん2号は車体を左に大きく30度近くまで傾け、かなりスピードが出ている状態で交差点に突っ込んだ。

岡持の出前は大丈夫か!

思わず出前が心配になるような速度と角度である。


対してブラックブル号の方は車体の大きさが仇となり、当然スーパーひとくん2号のようなコーナリングが出来ず、かなりもたついてしまった。

さらにここからは中央通りとは違い、人も車も交通量が多い。

スーパーひとくん2号が車の間をスイスイとすり抜けながら進んで行くのに対し、ブラックブル号はその巨体のせいでなかなか前には進めない。

2台の差は徐々に大きく開いていき、いつの間にか2号は輝男の視界から消えていた。

「また負けか…。」

輝男は泣きそうな顔で呟いた。

「この勝負。何回やっても意味がないと思うんだけどね~。」

聖美はスーパーひとくん2号を走らせながらそう呟いた。


すでにお気づきかもしれないが、このレースに必要なのはスピードでもテクニックでもない。

島の交通状況と信号の切り替わりをどれだけ知っているかと、バイクの立ち上がりの速さが必要となってくるのだ。

聖美はそれを理解しているが輝男は全く理解していないのだから、輝男には万が一の勝機もないのだ。


そう。このままいけば輝男は、聖美に千円を払い続けるだけなのである。

聖美にとって輝男は、まさにキャッシュディスペンサーと言えよう。

だから聖美はこの勝負に乗り気でないのである。



聖美が産業地域の入口の門で入構手続きをしていると、ブラックブル号がやって来た。

産業地域でも大手企業の入っている地区のセキュリティは厳しく、敷地に入るには入構手続きをしなければならない。

聖美は一日に一度は訪れるので、半分顔パスのようなものではあるのだが、今回は守衛さんからの注文なので手渡すだけだ。


輝男はブラックブル号を門の前に止め、ブラックブル号から降りて岡持から出前を取り出すと守衛さんの所に向かった。

「思ったより早かったねぇ~。」

守衛さんと話をしている最中、輝男を見た聖美が言った。


「まーたやってるのか?やめとけやめとけ。輝男じゃ聖美ちゃんには勝てないよ。」

初老の守衛さんが右手を振りながら輝男に言った。

「うるせえなぁ。」

輝男はそう言ってズボンのポケットから千円札を取り出すと、聖美に向かって突き出した。

「毎度あり~。」

聖美はにっこりと笑いながら言った。


「それより輝男。わしの蕎麦は無事なんだろうな?前みたいなのは勘弁だぞ。」

守衛さんは心配そうに輝男に尋ねた。

「安心してくれ。蕎麦は大丈夫だ!」

輝男はそう言って、天ぷらそばとかやく御飯のセットを守衛さんに渡した。


「よかった~。また裸の海老天かと思ったぞ。」

守衛さんは安堵の表情を浮かべながら言った。

以前届いた天ぷらそばは、配達中に海老天の衣から取れてしまい、海老が丸裸のまま恥ずかしそうに蕎麦の上に乗っていた。

衣のない海老天は海老天ではなく、ただの火が通った海老と天かすである。

天かすの浮かんだそばの上に、ただの海老が乗っているだけのそばの味など、想像するのは容易(たやす)いだろう。

海老天にかぶりつくという、醍醐味が味わえないのだから悲しみも大きい。


「んじゃまたね~。」

聖美はそう言って守衛さんに手を振った。 

「ありがとう。気をつけてな~。」

守衛さんもそう言って手を振り返す。

「じいさん800円。」

輝男は仏頂面で守衛さんに右手を出した。

「釣りはいらないからジュースでも飲みな。その代わり代金をネコババするんじゃないぞ。」

守衛さんは輝男に千円札を差し出し、笑いながら言った。

「ガキじゃあるまいし、そんなことしねぇよ。」

輝男は千円札を受け取りながらそう言うと

「でもジュースはありがたく頂戴するぜ。いつもありがとよ。じいさん。」

輝男はそう言って笑ったが、輝男はコーヒーが飲めないのだ。


輝男がブラックブル号にまたがり店へと戻っていくと

『輝男も悪い奴じゃないんだが、色恋に関しちゃ随分とウブだねぇ。まるで小学生みたいじゃないか。見ているこっちが恥ずかしくなるわ。こりゃあ当分の間は無理だなぁ…。』

守衛さん天ぷらそばのセットを手に、大きなため息をついた。

恋心も人それぞれです。


それも若さの成せる技だったんだと、いつか思う日が来ます。



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