第四章 2話 「気付かぬうちに再会」
第四章 2話です。
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その日の昼下がり。
谷中聖美が愛車の「スーパーひとくん2号」にまたがり、出前を届けに中央通り走っている時だった。
後ろに荷台がついた古くてボロい自転車を歩道に止め、オロオロしながら辺りを見回す、360度どこからどう見ても困っている男がいた。
『珍しいな~。』
聖美は単純にそう思った。
この島では中央通りを自転車やバイクで走っている人はあまり見かけない。
ドローンや電動キックボードが普及しているのと、自転車やバイクだとロボットが現れた時に邪魔になるからなのだが、基本的に地元の人は有事に備えて中央通りではなく、中央通りを避けてロボットが侵入出来ない細い脇道を選んで走るか、中央通り沿いにある地下の自転車専用道路を走る。
「おじさんどうしたの~。」
聖美はひとくん2号を止め、笑顔で男に声をかけた。
「おじさんじゃねぇ。わしゃまだ24才じゃ。」
男は不機嫌そうに言った。
「ごめんね。30くらいに見えたよ。」
「正直な子じゃのぅ。」
男は思わず笑った。
「山田米穀店ちゅーところに行きたいんじゃが、場所がようわからんのじゃ。」
男は困った顔で言った。
「あぁ。山田さんね。」
「姉ちゃん知っとるんか?」
「案内しようか~?」
「ええんかいの?」
「ちょうど今から出前を届けに行くんだよ~。」
「そりゃ助かるのぉ。島に来たばっかりで、道がようわからんのじゃ。」
男は嬉しそうに言った。
「それじゃあゆっくり走るからついて来て~。すぐそこだから~。」
「すまんのぅ。」
男はそう言って自転車にまたがった。
「ちわ~。熱血屋でーす。」
聖美は岡持を手に山田米穀店の扉を開けた。
「あら聖美ちゃん!いつもご苦労さま。」
店の奥からエプロン姿の女性が出てきた。
「節子さん。もうすぐお客さんが来るよ。」
「え?お客さん?」
節子は首を傾げた。
キキキキキー!
激しいブレーキ音と共に、店の前に自転車が急停止した。
「来た。」
聖美がそう言うと男が言った。
「姉ちゃん飛ばし過ぎじゃ!足がもげる!」
「ゆっくり走ったんだけどなぁ~。」
「ひょっとして岡田屋さん?」
節子が男に尋ねた。
「そうです。親方に言われて来ました。」
「あーはいはい。もち米ね。」
「え?岡田屋さんのところの人なの?」
聖美は笑顔で男に尋ねた。
「姉ちゃん知っとるんか?」
「岡田屋さんのみたらし団子はおいしいよね~。お店再開するの?」
「今は開店準備中なんじゃ。」
「じゃあ、あなたがタツさんね。岡田屋さんから聞いているわ。ちょっと待ってて。聖美ちゃんも出前を置いたら待っててね。」
節子はそう言うと店の奥へと入っていった。
「ここにお店があったんか。姉ちゃん助かったわ。」
タツはお店の中を見回しながら言った。
店内にはたくさんの米袋の他に、年季の入った棚や机が置かれており、壁には古いポスターなどが貼ってあって、昔ながらのお米屋さんといった佇まいである。
「おじさん。中央通りを自転車で走るのは危ないよ~。」
聖美は岡持から料理を取り出しながらタツに言った。
「あんなでかい通りの何が危ないんじゃ?」
タツは不思議そうだ。
「ワーカーやロボットが暴れたら大変だよ~?」
「そりゃそうじゃな。」
タツは納得したようだが、誰がどうやって暴れていたのか思い出してみるがいい。
「今度からは大通りを避けて、脇道から行けばいいよ~。」
「そんなんあるんけ?」
「あるよ~。」
聖美は料理を置き終えると、ポケットから地図を取り出して広げた。
「お店はどこ~?」
「商店街の入口じゃ。ロボットのおる所の横に屋台を出させてもらうんじゃ。」
「だったら、ここからこの道をこういって、ここを曲がれば行けるよ~。」
聖美は地図を指さしながら説明をした。
「なるほどのぅ。」
「この地図あげるよ~。」
「ええんかいのぅ?」
「地図がなくてもわかるしね~。それに知り合いの子供達が、岡田屋さんのみたらし団子が大好きなんだ~。今度買いに行くよ~。」
「そうけぇ。明後日オープンするけぇ来てくれや。サービスするけぇの。」
「明後日だね~。絶対行くよ~。」
聖美はそう言って笑った。
「お待たせ~。」
節子が店の奥から大きな米袋を二つも抱えて戻ってきた。
スリムな体型なのに大した力持ちだ。
「さ、持っていってちょうだい。」
節子はカウンターに米袋を置きながら言った。
「おいくらですかいのぅ。」
タツは財布を取り出しながら節子に尋ねた。
「あー。今回はいいのよ。うちからの開店祝い。」
「え?ええんですか?」
「いいのいいの。困った時はお互い様よ。また岡田屋さんの和菓子が食べられるようになって、みんな喜んでるんだから。あ、これ飲んで。」
節子はエプロンの左右のポケットからペットボトルを1本づつ取り出すと、にっこりと笑った。
「節子さん。いつもありがとう~!」
聖美は嬉しそうにペットボトルを受け取ると、すぐに蓋を開けて一気に飲み干した。
「プハーッ!おいしかった~!ありがとう節子さん。それじゃあ行くね~!おじさんも頑張ってね~!」
聖美はそう言うと空のペットボトルをゴミ箱に捨て、ヘルメットを被りスーパーひとくん2号に乗って走り去っていった。
「わしゃまだおじさんじゃねぇ!それにしても、忙しない子じゃのぅ。」
「あの娘はいつもこうなのよ。元気な娘でしょう?」
節子は笑顔だ。
「そうですなぁ。」
「熱血屋さんの所の娘は、みんないい娘ばかりなのよ。」
そう言って節子は笑った。
『どうしよっかな~。ビッグとんとんの頭がとれちゃったら、子供達が泣くかも知れないしなぁ~。でも、あれだけ手が短いと岡持なんて持てないしなぁ~。』
次の出前を受け取り、中央通りで信号待ちをしている間、聖美は頭の中でビッグとんとんをバラバラにしていた。
どうやってビッグとんとんを、2機のロボットにするかを考えていたのだ。
『うーん…。元のフォルムを崩し過ぎるのもなんだし、かと言って、今のままだと無理があるし…。』
キュィィィィィーン
静かな音を立てながら、1台のバイクがスーパーひとくん2号の右隣に停車した。
かなりの大型バイクだ。
1000ccはあるだろう。
「「おい熱血屋!どこまで出前だ!」
全身黒いレーシングスーツ姿に、黒いヘルメットを被った大柄な男が聖美に声をかけた。
「産業地域のお得意さん~。」
聖美はため息交じりで答える。
「よし!産業地域の入口まで勝負だ!」
男は意気揚々と言った。
「もうやめときなよ~。これ以上巻き上げるのは気が引けるなぁ~。」
聖美はうんざりとした顔だ。
「いや!今日こそは『青葉の黒い稲妻』と呼ばれるこの俺と、『ブラックブル号』が勝つ!」
そう言って男は豪快に笑った。
この男、一見ガラの悪そうなライダーに見えるがそうではない。
商店街にある「ジェットサンダー庵」というふざけるにもほどがある名前の蕎麦屋の次男で、矢沢輝男という今年で22才になる出前持ちである。
その証拠にブラックブル号の後部に乗った岡持には、黄色い稲妻のような文字で「ジェットサンダー庵」と大きく書かれている。
ジェットサンダー庵という蕎麦屋。
名前こそふざけきってはいるが、味と評判は大したもので、青葉島でも蕎麦の名店と謳われているのだから不思議だ。
先代が新潟の出身で、青葉島で採れた海藻を練り込んだ新潟名物の「へぎそば」の店を開いたのが始まりで、へぎそばと天ぷらのセットが店の名物となっている。
店名は開店当初から変わっていないらしいのだが、先代が変わり者かも知れない。
「しょうがないなぁ~。無理だと思うけどなぁ~。また父ちゃんに叱られるよ~。」
「いや!前回の勝負で勝機が見えた!今日こそは勝つ!」
輝男は鼻息も荒くのたまったが、聖美に勝てた事などは一度もない。
見えているのはあやふやな勝利ではなく、記念すべき100連敗目である。
輝男は見るべきものを見誤っているのだが、本人はまるで気がついていない。
「ん~。しょうがないか~。」
聖美はそう言うと、スーパーひとくん2号のアクセルを回した。
ギュン!
いかにもパワーのありそうな音が短く響く。
「よし!勝負だ!」
輝男も嬉しそうにブラックブル号のアクセルを回す。
キュィィィーン
先ほどと同じ静かな音がした。
『やっぱり、ゴキブリだからしつこいのかな~。』
聖美は信号機を見ながら思った。
輝男は自分の事を「青葉の黒い稲妻」などと言っていたが、周りの人達は輝男の事を「青葉のゴキブリ」と呼んでいる。
まぁ、年がら年中黒一色の格好なのだから、ゴキブリと呼ばれるのも仕方ないのかも知れない。
同じ黒でもカブトムシと呼ばれないのは、自業自得というやつだろう。
やはり日頃の行いは大切だということだ。
聖美と輝男は共に信号機を見つめた。
やがてチカチカと点滅し始める信号機。
アクセルを握る手に力が入る聖美と輝男。
信号が青になった瞬間、二人は同時にアクセルを噴かし、出前レースのスタートがスタートした。
第四章はサトミンからスタートです。
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