第三章 第29話 「傷痕」
29話です。
これで第三章は終わりです。
いつも読んでくれてありがとうございます。
m(_ _)m
「失礼します。」
一人の若い男がそう言って、部屋の中に入ってきた。
薄暗い部屋はコンクリートで作られており、あまり広くはなく、備え付けの机や椅子、棚に至るまで全てが実に粗末なものだ。
若い男は黒いキャップを深く被っているので顔は見えないが、声からするとまだ若そうだ。
ジーンズにパーカーという格好から見ても、二十歳そこそこと言ったところが?
「燕の方はどうだ?」
机の前に座る紺のスーツを着た金髪の男は、机に肘をつきながら男に尋ねた。
「先ほど救出が終わりました。燕は無事です。」
「救出に2時間以上もかかったか…。」
「胸部装甲の損傷が激しく、ハッチどころかフレームまでひどく曲がっておりました。」
「複合セラミックをそこまでひん曲げるか…。予想以上のパワーだな…。」
「はい。スピードもありましたから、よけるのも困難だったでしょう。」
「いくら見た目がクマのぬいぐるみとはいえ、無用心に相手に近づきすぎたな。」
「はい…。」
「詳しい話は明日でかまわん。今日のところはゆっくり休ませてやれ。」
「はい。」
「で、鷹の目にはどう見えた。」
「スピードといいパワーといい性能が違い過ぎます。ハンドとレッグでは太刀打ち出来ないでしょう。」
「戦力差はどれくらいだと見る?」
「ピンクだけなら、4機あれば押さえられるかと…。」
鷹と呼ばれた若者は答えた。
「それほどの差があるのか…。」
金髪はそう言って息を漏らした。
「ブルーが相手なら最低でも数が倍になります。」
「なに!そんなにか!」
金髪の男は驚いた。
「明らかにブルーの方が実力は上です。」
鷹ははっきりと言い切った。
「とんでもない逸材だな。ダメ元でスカウトでもかけてみるか?」
金髪は面白くもなさそうに言った。
「出来ればそうしたいところですね。」
鷹も面白くなさそうに言った。
「今後はどうするべきだと思うかね。」
「しばらくは大きな行動は差し控えるべきかと…。今の手駒では何をしても無駄でしょうし。それにまずは機体の改良に専念したほうがよいかと思われます。あのロボットは鹵獲しようとするより盗み出すほうが遥かに楽です。」
「それがベストだろうな。」
金髪はそう言って腕を組んだ。
「盗み出せればの話ですが…。」
「それではまるで泥棒だな…。」
金髪は悲しそうに言った。
「私は諜報部の連中を連れて、しばらく青葉島を離れる事になるだろう。あの方が来られるまで、君には燕と梟と白鳥の指揮を頼む。探索のほうに回ってくれ。留守は任せたぞ。」
「了解しました。あの方が来られるのですか。」
鷹は感情のない声で言った。
「そうだ。」
「と言う事はアレも?」
「なんとか手配出来た。持ってきてもらえるだろう。」
「わかりました。アレが届けばかなり楽になります。」
鷹は少しだけ安堵の表情を見せた。
「いつになるかは断言出来んがな…。早速だが、私は明日には青葉島から出る。留守は頼んだぞ。」
「わかりました。お気をつけて。」
鷹はそう言って深く頭を下げた。
「鷹!」
部屋を出た途端、鷹を呼び止める若い女性の声がした。
「どうしたスワン。スワローの様子はどうだ?」
「スワローは無事よ。そっちは?」
そう答えるスーツを着た黒髪のロングヘアーの女性は、背も高くすらりとした体つきだが、顔をみるとかなり勝ち気な性格のように見える。
「それはよかった。こっちの報告は終わったよ。今日はみんなで旨いものでも食べて、ゆっくり休ませてやってくれ。」
ホークはそう言って、ジーンズのポケットからくしゃくしゃの一万円札を一枚取り出すと、スワンに渡した。
「ホークはどうするの?」
スワンは一万円札を手に、ホークに尋ねた。
「さすがに全員で店に行くわけにはな。」
ホークはそう言って微笑んだ。
「それじゃあ私が買い出しに行ってくるわ。なにがいい?」
スワンは微笑みながら尋ねた。
「チーズバーガーのセットとチキンバスケット。ポテトも欲しいな。」
「ビールもいるわね。」
スワンはニヤリと笑った。
「足りなかったら立て替えておいてくれ。スワンはいつものやつか?」
「ビールは私の驕りよ。私は焼肉弁当にするわ。さすがにホイさん定食は持って帰れないもの。すたみな丼はお持ち帰りをやってないしね。」
「そうだな。悪いけど頼むよ。大佐は明日、青葉島を出るそうだ。残るのは俺達のチームだけになる。」
「そうなんだ。」
「しばらくは情報収集になるだろうが、詳しい話は食いながらしよう。」
「わかった。スワローとアウルにもメニューを聞いてくるね。」
「アウルには注文は二つまでにしろって言っといてくれ。チキンバスケットは別にしてな。ま、ピザは確定だろうがな。」
「間違いないわね。それじゃあ行ってくるわ。」
チュッ!
スワンはホークの頬にキスをした。
「頬だけか?」
ホークが残念そうに言った。
「ここから先はあとのお楽しみよ。」
スワンは悪戯っぽく笑うと、残りのメンバーに注文を聞きに走って行った。
『』あの方に来ていただければ、状況は変わるだろうが、情けない話だ…。』
ホークは少し悲しそうな顔をしながらそう思っていた。
「ありがとうございますリーダー!」
目の前に並んだ特大ピザとハンバーガーにチキンバスケット、それに2㍑の炭酸飲料をまじまじと眺めながら、頭に赤いバンダナを巻き、ジーンズにGジャン姿のアウルは巨体を揺らせながら言った。
旨そうに見ているのはわかるが、ちっともありがたそうには見えない。
これだけ食べてもきっと、寝る前にはデザートと称してバケツのようなアイスクリームを抱え込むのだろう。
「今日はよくやってくれた。スワローは大丈夫なのか?」
ホークはスワローの顔を見ながら尋ねた。
「はい。大丈夫です。心配をかけてすいません。つい頭に血が登ってしまいました…。」
大盛りのカルボナーラとフォカッチャを前に、スワローは申し訳なさそうに言った。
茶髪のショートに丸眼鏡をかけ、白い寝間着を着ている。
「すぐにカッとなるのは悪い癖だな。直した方がいい。それより無事で何よりだ。」
「今日はリーダーの驕りだからね!デザートにプリンも買ってあるからね!」
スワンの声は明るい。
「楽しみだなぁ~。もう食べてもいい?」
アウルは子供のような笑顔でホークに尋ねた。
「温かいうちに食ってくれ。」
「いただきまーす!」
ホークが話しきる前に、アウルはピザを手に持ちパクついた。
「大佐達は明日から留守にされるので、しばらくはロボットでの活動はなしだ。残るのは俺たちだけになるが、引き続き情報収集に務めてくれ。スワローは2.3日大事をとれ。これは命令だ。」
スワン 「はい。」
スワロー 「はい。」
アウル 「はい。」
「ここのピザは美味しいね~。ピザの専門店より美味しいよ。」
アウルはピザを食べながらご満悦だ。
「アウルは食べてる時が一番幸せそうよね。」
スワンは焼肉弁当に箸を入れながら言った。
「食べられる事は幸せだ。」
アウルは満足そうに言った。
「そうだな…。」
ホークは感慨深そうに言った。
明日はおまけを掲載します。
第四章は12月から開始します。




