第三章 28話 「お願いします!」
28話です。
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「聖美ちゃん!お願いします!」
「お願いします!この通り!」
商店街の基地のロボット格納庫の床に座りこみ、聖美に土下座をしている中年男が2人いる。
石田丸夫と蔵太 太である。
『参ったな~。』
と思いながら聖美は岡持を手に、頭を掻きながら笑っている。
「商店街ガーディアンチームのご指名ね。」
そう言ってホイさんから岡持を渡された時から嫌な予感はしていたが、ここまで予想通りに的中すると笑うしかない。
嫌な予感ほどよく当たるものだ。
「話が全然わかんないんだけど、とりあえず土下座はやめてよ~。それで。ボクはなにをすればいいの?」
聖美の顔には「勘弁してください」と書いてある。
「これを見て!2人で考えたんだ!」
太はそう言うと一冊のノートを聖美に手渡した。
「ビッグとんとん強化計画書?」
聖美はノートの表紙の文字を読んだ。
ご丁寧に赤い文字で㊙とまで書いてある。
聖美はノートを開くと、パラパラとページをめくりながら中に目を通す。
「どうだろう?無理かな?」
太は心配そうに聖美に尋ねた。
「出来ないブー?」
丸夫はなぜかとんとんになってしまっている。
「う~ん…。」
聖美はノートをめくりながら唸った。
2人が固唾を飲んで聖美を見守る中、聖美はノートを閉じると言った。
「結論から言うと出来るよ。」
聖美の言葉を聞き、2人の顔がパッと明るくなった。
「この岡持が変形して、ロボットになるアイデアも面白いね。」
太の顔がさらに明るくなったのは、岡持ロボットは太のアイデアなのだろう。
「でもね。とんとんの体長はだいたい8mでしょ?そうなるとこの岡持ロボットが変形して6mになるとしても、構造上、ひょろひょろの薄っぺら~いロボットになるよ?間違いなくコクピットは前か後ろに出っ張るね。安全性が確保出来ないし、ワーカー相手でも太刀打ち出来るかどうか…。」
聖美は険しい顔で言った。
ビッグとんとんはわざと体長が低く作られているのだが、それは囮として、相手に威圧感を与えないためにだ。
体が丸く、かなり幅がかなりあるのも同じ理由で、少しでもコミカルに見せて殴られやすくする為である。
2人の顔が一気に暗くなった。
「それでも作ろうと思えば作れるよ。」
2人の顔がまた明るくなった。
「とんとんを今の倍の大きさにすればね。」
2人の顔がまた暗くなる。
まるで点滅信号だ。
「そうなると、とんとんは16mになるでしょ?体重は倍以上になるよね?重すぎて今みたいに車輪で移動は出来なくなるから、歩く度に自重で道路にヒビが入る可能性が高いね。」
2人の顔がさらに暗くなった。
ロボットの平均体長が10m程度なのに、16mのロボットなど完全な規格外である。
アニメや漫画じゃあるまいし、そんな大きなロボットを見たことも聞いた事もない。
ちなみにマジカルはとんがり帽子を入れて10m近いが、本体は9mほどだ。
そもそも自分よりかなり大きなロボットを、袋叩きにする気になるだろうか?
いくら語尾にブーをつけて挑発しようが、それは挑発ではなく、強者の余裕と捉えられてしまうだろう。
挑発された方も腹が立つのではなく、ただただ不快感が募るだけだ。
そうなるととんとんは囮でも、サンドバッグでもなくなってしまう。
ただの嫌味なロボットだ。
「何より資金がかかり過ぎるよ。どれだけ頑張っても確実に億越えだね。それでも造る?」
億である。
「置く」ではなく、1の後ろに0が8個もつく億だ。
2人で折半しても最低で5000万円…。
2人に向かって絶望が襲いかかってきた。
いくら愛し合って一緒になった夫婦でも旦那が
「ロボット造るから5000万円ちょうだい。」
と言ってくれば奥さんはどう思い、なんと言うだろうか?
おととい来やがれ!どころの話ではないだろうし、味噌汁で顔を洗うレベルの話でもないはずだ。
奥さんが旦那に向かって、無言のまま包丁を投げつけても過失は0だろう。
少なくとも私が裁判官なら、そう審判を下す。
「ダメか…。」
「ダメだったか…。」
丸夫と太はがっくりと肩を落とした。
その瞳にはありありと絶望の色が見える。
聖美は2人が哀れに見えてきた。
「しょうがないなぁ~。このノート借りていってもいい?」
聖美はノートを右手で持ち上げながら言った。
「やってくれるの!」
「やってくれるの?」
2人はハモった。
「うーん。かなり難しいけど、出来るかどうか相談してみるよ。」
「いいのかい?」
「いいの?」
「ダメ元だからあんまり期待しないでね。それでもいい?」
「いい!全然いい!」
「何卒ご検討を願います!」
太は銀行に融資をお願いする時のように畏まっている。
「わかった。それじゃあこれ、預かってくね。」
聖美はそう言うと、ノートを手に部屋から出て行った。
『さすがにこれはしそーでも無理だなぁ…。』
聖美はかなり悩んでいた。
その日。
仕事を終えた聖美は岡持とノートを持って愛車の「スーパーひとくん1号」にまたがり、ハゲタカ急便へと向かった。
「ちわー!源さんいますかぁ?」
事務所のドアを元気よく開けた聖美は、大きな声で言った。
「あら聖美ちゃん。源さんなら下よ。」
ソファーに座るノン子は、聖美の顔を見ながら言った。
「お店が終わったらすぐに潜っちゃったわ。」
メグもそう言って聖美の顔を見た。
「それじゃあ下に行ってくるね~。これ差し入れ。2人で食べて~。」
聖美はそう言って2人に近づくと岡持の蓋を開け、中から焼肉定食の大盛りを二人前取り出し
テーブルの上に置いた。
「あら?いいの?」
ノン子が嬉しそうな声をあげた。
「サトミンナイス!丁度お腹が空いてたんだ~。ごちっす!」
メグも嬉しそうだ。
「いつもお世話になってるからね~。たまにはね~。」
聖美はそう言ってお皿を並べていく。
ノン子 「ありがとう聖美ちゃん。」
メグ 「ありがとうサトミン~。」
「それじゃあ下に行ってくるね。」
「サトミンが帰るまでには食器は洗っておくね。」
「はーい。帰りに持って帰るよ~。」
聖美はそう言って事務所の奥へと向かった。
「ちわーっす!」
源さんを見つけた聖美は、元気よく声をかけた。
「お?サトミンか。こんな時間にどうした?」
「源さんに相談があってさ~。これ差し入れ。一緒に食べようと思ってさ~。」
聖美は岡持を持ち上げながら言った。
「おぉ!なかなか気が利くじゃねぇか。しょうがねぇ。食いながら話を聞こうじゃねぇか。」
源さんは笑いながら言った。
聖美は源さんとホイさん定食を食べながら、これまでの経緯を話した。
源さんはしばらく、ノートをパラパラとめくりながらラーメンをすすっていたが
「やるなぁホイさん。ここにきてラーメンの味を変えやがった。前より旨くなってやがる。」
と呟いた。
「源さんよくわかるね~。」
聖美には全然わからない。
いつも通りに美味しいと思うだけだ。
「作り手ってやつは、ちょっとした変化も見逃さねぇもんだ。それが機械だろうがなんだろうがな。」
真剣な面持ちでラーメンをすすりつつ、ノートを読み進めながら源さんは言った。
「話は変わるがテヤンデーはよくやったな。」
「え!褒めてくれるの!でもあのエンジンもモーターも全く手が出せなかったんだよね~。オーバーホールだけで手一杯だったんだ~。」
聖美は残念そうに言った。
「今のサトミンには無理だ。今のサトミンにはな。」
「源さんはテヤンデーをバラしたことあるの?」
聖美は驚いた。
「昔ちょっとな。サトミンにあのエンジンがバラせるようになったら、弟子にしてやるよ。若さに任せて焦るんじゃねぇ。焦りと思い込みは仕事の敵だ。階段てのは一段づつ登るから意味があるんだぜ?俺が褒めてるのはそこじゃねぇ。オーバーホールもちゃんと出来ていたし、刺叉もギミックもよかった。よく頑張ったな。いい音してたぜ。」
「やった!源さんに褒められたら嬉しいよ。で、源さんはそのノートを見てどう思う?」
「子供の落書きだな。」
源さんは笑いながら言った。
「え?」
聖美はキョトンとした顔になった。
「こいつは子供の書いた落書きそのまんまだ。だがそこがいい。純粋で真っ直ぐな気持ちがこもってる。」
そう言って源さんは嬉しそうに笑う。
「だよね~。」
聖美も笑った。
「こいつの図面を引いてみるか?」
源さんはから揚げを食べながらさらりと言った。
「え!いいの!」
聖美は驚いた顔を見せた。
「岡持の方は俺の知り合いに聞いてやる。落書きが得意な変形好きのバカを一人知ってるんだ。とんとんの方は図面を引いてみな。わからない所は俺がサポートしてやる。旨い差し入れのお礼だ。」
「ボクが図面を引いてもいいの!」
聖美は嬉しそうに言った。
「ただし夜更かしは厳禁だ。睡眠不足は頭が回らなくなる。煮詰まったら頭を完全に切り替えて、ショッピングに出るなり旨いもんを食うなり、違う事をやるといい。絶対に日が変わらないうちに寝ろ。」
「うん!」
満面に笑みを浮かべ、聖美は元気よく返事をした。
「岡持がロボットになるのは面白いアイデアだが、他の方法も考えてみな。ロボット技師の目で見てな。」
そう言うと源さんは笑った。
「ロボット技師の目で…。」
聖美の目つきが真剣なものに変わった。
もうすぐ第三章が終わります。




