表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/847

第一章 7話「あなたはだれなのだ?」

7話です。

「おかえり未祐(みゆ)。」

真美が金髪の美少女に声をかけた。

「おかえりなさい。未祐(みゆ)ちゃん。」

続けて真奈美も声をかける。

「ただいまなのだ。」

未祐と呼ばれた金髪の少女は静かな声で言った。

「あ、真似っこなのだ。」

未祐は真美の頭を指差しながら言った。

ツインテールのことを言っているのだろう。


「今日はメイドさんだからツインテールにしてるのよ。」

真美はそう言って笑った。

「ならいいのだ。ところであなたはだれなのだ?」

未祐は倫子を見ながら言った。

「おかえりなさい。神楽坂倫子です。しばらくお世話になります。」

倫子はソファーから立ち上がり、未祐に頭を下げた。



六本木未祐(ろっぽんぎみゆ)なのだ。ただいまなのだ。」

未祐もそう言ってペコリと頭を下げた。

「リンちゃんて呼んでもいい?」

「じゃあ、私もミユちゃんって呼ぶね。」

「いいのだ。」

未祐は小さく頷くと、真美を見て言った。

「真美ちゃんママは?」

「桜子さんならお店よ。」

真美の言葉を聞き、倫子は驚いた。

「え!桜子さんの娘さん?」

倫子は思わず大きな声を出した。


「違うのだ。ママはママだけどママじゃないのだ。」

未祐が倫子に視線を動かし、間髪を入れずに言った。

倫子は未祐をまじまじと見た。

背は低くて大きな青い瞳は澄んでいて、話し方も子供っぽくてとても可愛らしいのだが、醸し出される雰囲気には子供っぽさがない。

倫子より年上ではないかと思えるくらい雰囲気が大人びていて、今まで感じたことのない独特の空気感が漂っている。

『そやけど未祐ちゃんは可愛いらしいなぁ。まるで外国のお人形さんみたいやわぁ。』

倫子はしばらくの間、未祐に見とれてしまった。

「じゃあ私はお部屋に行くのだ。」

未祐はそう言って部屋へと続くドアへと向かって歩いていった。


バタン

ドアが閉まると、しばらくしてから真奈美が言った。

「無愛想に見えるかもしれないけど、根は良い子なのよ。」

「あぁ見えて優しいところもあるしね。」

真美も続く。

「はい。私より大人っぽくて驚きました。」

「未祐は中学2年生よ?」

「えぇ!」

倫子は再び驚いた。

美姫(ミキ)と同い年?てっきり小学生かと思たわ…。』


「今思ってる事は本人に言っちゃダメよ。へそ曲げちゃうから。」

真美はそう言うとニヤリと笑った。

「え?」

倫子はとぼけて見せたが、どうやらバレバレのようだ。

「未祐ちゃんは子供扱いされるのを嫌っているのよ。」

真奈美もそう言うと笑った。

「ははははは…。」

倫子の声は渇いている。

「とにかく未祐に子供っぽいとか言っちゃダメよ。へんに気を使うのもダメ。自分と対等に扱ってあげて。」

真美は語気を強めに言った。

「はい。」

倫子は真美の言葉を心に刻み込んだ。

誰だってかわいい女の子に嫌われたくはないだろう。



「未祐ちゃんは社長の知り合いの娘さんで、今は桜子さんの部屋で一緒に住んでいるの。」

真奈美がそう言うと、倫子は未祐の出て行ったドアを見つめながら言った。

「そうなんですか。」

「今は難しい年頃なのよ。リンも覚えがあるでしょ?」

真美は笑いながら言った。

「ありありです。」

倫子はすかさず答えた。

「それじゃあ、そろそろ中を案内しましょうか。」

真奈美の言葉を聞き真美が

「そうね。そろそろ行きましょう。」

と言ってソファーから立ち上がった。

「よろしくお願いします。」

倫子も立ち上がるとペコリと頭を下げた。



真美と真奈美に寮の中を案内してもらった倫子は、見るもの聞くもの全てに感嘆の声をあげた。

まず最初に案内してもらったのはお風呂場であった。

入り口には紺色の大きな暖簾がかかっており、大きな白文字で『乙女湯』と書かれている。

中に入るとまるで、町内にある大きな銭湯のようだった。

最近は銭湯の数も減ってしまったが。


大きな脱衣所の棚には脱衣籠がいくつも置いてあり、脱衣所の一角がランドリースペースになっている。

壁には大きな鏡が掛かっており、ご丁寧に体重計まで置いてあったが、倫子に人前で体重計に乗る勇気はない。

しかも脱衣所の隅に置かれたガラス張りの冷蔵庫には、瓶に入ったコーヒー牛乳やフルーツ牛乳、いちご牛乳にメロン牛乳まで冷やされていてた。

『うわぁ!まんま銭湯やん。』

驚く倫子に真美が言った。



真美 「ここは三食賄い付きだけど、掃除と洗濯は自分でするの。私達はお風呂に入る前に洗濯機を回しておいて、お風呂上がりに持って帰るの。その方が時間を有意義に使えるでしょ?」

真奈美 「ちなみに冷蔵庫の飲み物はタダなのよ。飲み終えた瓶は水で洗ってね。誰かさんみたいに飲み過ぎてお腹こわしちゃ駄目よ。」

真奈美がそう言うと

「そんな10年も前の話、今言わなくてもよくない?」

真美はそう言ってヘソを曲げた。

「そうね。ごめんね真美ちゃん。」

真奈美はペロリと舌を出した。

『マミさんお腹こわしたんや…。でも、私も10年前ならおんなじ事してたやろなぁ…。

え?と言うことは、マミさんは乙女座に10年は住んでるってこと?小っさい時から乙女座(ここ)に住んではんねんなぁ。』

倫子はそんなことを考えていた。




次に3人は浴場へと向かった。

浴場は全面総タイル張りになっており、壁には白タイルが、床には濃い青のタイルが張られている。

浴槽は薄い空色のタイル張りで、一度に10人は入れそうなくらい大きい。

お風呂大好き倫子にとって、大きな浴槽は最高である。

ここに住みたいという気持ちがグッと込み上がってきた。


洗い場の壁には、鏡とシャワーのセットが左右に4つづつ並んでいた。

鏡の前には、緑色のカエルがプリントされた黄色いプラスチックの洗面器が置かれていて、色彩的にも目を引くが、どこか懐かしさを感じさせるのはなぜだろう?

正面の壁に富士山が描かれているのは、太古から脈々と続くDNAの成せる技だろうか?

富士山も含めて100点満点のお風呂だと倫子は思った。

 


浴室を出て次に向かったのは娯楽室だった。

10畳ほどの畳の敷かれた大きな部屋には、60インチの大型モニターがあり、壁際には棚が並んでいる。 

棚には漫画やBD(ブルーレイ)がずらりと並んでいて、部屋の中央には炬燵が置いてある。

ご丁寧に籠に入ったみかんまで置いてある。


畳の上には数種類のゲーム機とコントローラーが無造作に散らばっているが、ゲーム機のところどころにガムテープが貼ってあったり、コントローラーがへこんでいるのは何故だろう?

自宅にゲーム機がなかった倫子にはよくわからなかった。



「ここの漫画とBDは、寮の中だけならレンタル可能だからね。借りる時はハルさんに言ってね。」

 真美がそう言うと天井から声がした。

「真美さんの情報には補足が必要です。BDのレンタルの枚数は一度に3枚まで。漫画は1タイトルまでですが、一度に全巻レンタル出来ます。レンタル期間は共に1週間です。尚、返却が終了しないと、次のレンタルは出来ません。真美さんがレンタル中のBDは明日が期限です。返却をお忘れ無きようお願いします。」

『ハルさんはこんな事もしてくれるんや。』

倫子は驚いた。


「あ、忘れてた!後で持ってくるわ!」

真美はしまった!と言う風に言った。

「タイトルは『サルでも…。』」

ハルが話始めると、真美が慌て始めた。

「わー!わー!わー!大丈夫!覚えてるから大丈夫!」

『サルでもってなに?真美さんは何を借りてはるんやろ?タイトルからして気になるなぁ…。』

倫子は笑いながら、そんな事を考えていた。



その次に向かったのは衣装部屋だった。

様々な衣装が、所狭しと並んでいる様はまさに圧巻だ。

『ぎょうさんあるなぁ。中には見たこともない衣装もあるわ。あの派手な衣装は、アニメのキャラクターの衣装やろか?』


「衣装は定期的に入れ替えしているの。心配しなくてもきわどい衣装はそんなにないわ。着る人もいないしね。」

真奈美の話を聞きながら衣装を見ていた倫子が、衣装棚の僅かな隙間に何かが挟まっているのを見つけた。


倫子はおもむろにそれを引き抜くと、それはトラ柄のビキニと2本の小さなツノが入った、ビニール袋だった。恐ろしいほどにきわどい衣装である。

「なんの衣装なんでしょう?」

倫子の問いかけに、真美と真奈美は首を傾げる。

「こんなのあったっけ?」

真美がビニール袋をまじまじと見ながら言った。

「初めて見たわ。」

真奈美も不思議そうだ。

「誰が着るんでしょう?」

倫子の質問に、真美と真奈美が同時に答えた。

真美 「さぁ?」

真奈美 「さぁ?」

2人はそう言って首を傾げた。




最後に自分の部屋に案内してもらったが、部屋に入るなり倫子は目を輝かせた。

「素敵なお部屋!」

倫子は思わず大きな声を出した。

8畳ほどのフローリングの部屋には備え付けのベッドはもちろん、家具一式にエアコン、TVにAV機器、パソコンまである。

ベッドのうえは収納が付いていて、ベッドの横には机と椅子が置いてある。

かなり機能的だがコンパクトにまとめられている所が素敵だ。

住む予定だったアパートとは比べものにならないほど綺麗な部屋だし、小さいがキッチンと冷蔵庫があるのも嬉しかった。


「トイレもあるのよ。」

真奈美がクローゼットの隣にある、トイレのドアを開けながら言った。

一畳くらいの狭いトイレだが、白い壁紙の内装がおしゃれだ。

ありがたいことにウォシュレットまで付いている。


「すごいすごい!こんな素敵なお部屋が無料(タダ)なんですか?」

倫子は興奮しながら言った。

「社長の方針なのよ。社長が言うには『同じ釜の飯を食べて、整った環境を用意するのが経営者の最低限守らなければならない義務だ。』だそうよ。不謹慎だけど、アパートが壊れてよかったって思ってない?」

真美が悪戯っぽく言う。

「ちょっとだけ?んー?半分くらいかな?」

倫子も悪戯っぽく答えた。

「そういう正直なところは好きよ。マジカルブルーに感謝しなさいよ。」

真美がそういうと、真奈美が下を向いて笑いを堪えだした。


「え?マジカルブルー?」

倫子はキョトンとしている。

「この街に住めばわかってくるわ。」

真美はそう言って笑った。

「他にも部屋はあるのだけれど、今日案内するのはこれで終了ね。あとはお部屋でゆっくり休んでおいて。」

真奈美がそう言うと、真美が言った。



「私達は18時から店でバイトなの。夕食は19時だから時間までにリビングの隣のダイニングに来て。」

「私も一緒に働かせて貰っていいですか?」

倫子の申し出を聞き真美が驚いた。

「え?なんで?」

真美は不思議そうに倫子に尋ねた。

「お世話になるのに何もしないのはおかしいですよ。私は母からそう教わっています。」

倫子ははっきりと言い切った。

「わかったわ。桜子さんに聞いてあげる。先に言っておくけど、か・な・り・忙しいわよ?覚悟しててね。」

「はい!なんでも頑張ります!」

倫子の返事を聞き、真美はにっこりと笑った。

登場人物がどんどん増えていきますが、覚えてもらえるだろうか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ