第三章 22話 「ハリーさん登場」
22話です。
新キャラの登場です。
いつも読んでくれてありがとうございます。
m(_ _)m
翌日の昼下がりに、それは突然やってきた。
産業スパイらしき一団が大型のロボット運搬車両2台に分乗し、中央通りを南下しながら爆走してきたのだ。
「久しぶりの出番だぜハリー!」
貫徹はマイクに向かっていった。
テヤンデーの目の前の格納庫のシャッターがゆっくりと開いていく。
「久しぶりですねぇ。腕が鳴りますよ。」
ハリーと呼ばれた男の重厚な声が貫徹の耳に響いた。
「相手は大型車両2台だ。あんまり力むなよ。」
貫徹はそう言って操縦桿を操ると、テヤンデーは滑らかな動きで格納庫から出て交差点の中へと入った。
「もちろんですよ。それでは発進!」
ハリーは操縦桿を強く握りしめペダルを踏み込んだ。
ロボットはゆっくりとした動きでシャッターから出ると、久しぶりに太陽の光を浴びた。
そのロボットは見た目から変であった。
コミカルなボディは、テヤンデーに近いディフォルメ体型なのだが、おかしいのはそこではない。
分厚い胸板に逞しく太い腕。足もかなり太い。
頭は金髪のオールバックで角張った顔に整った眉。
そして、左右にピンと伸びたヒゲ。
肌色のボディが日の光を反射してまぶしい。
しかし、おかしいのはそこでもない。
このロボットは黒いパンツしか履いていない。
そう。パンツ一丁のロボットなのだ。
逆三角形の上半身は下半身に比べて異様に大きく、見るからにアンバランスである。
武器も携帯していないようで、全体的におかしなロボットなのだ。
「今日はハリーさんか!」
モニターを見つめながら、サラリーマンの男が声をあげた。
「久しぶりのハリーさんだな。」
隣でモニターを見つめる、同僚らしきサラリーマンも言った。
「こりゃ、一騒ぎあるぜぇ。」
「だな。」
そう言うと、二人のサラリーマンは笑いあった。
ロボットはゆっくりとした動きで交差点へと向かう。
「急げハリー。ちんたらすんじゃねえ。」
「HAHAHAHAHAー!」
ハリーは貫徹の言葉をものともせず、笑いながらゆっくりと交差点へと向かう。
胸を張り大きく肩を揺らしながら歩くその様はまるで、リングへと向かう花形レスラーのようだ。
きっと彼には大歓声が聞こえているのだろう。
「ったく。いっつもこれだ。」
テヤンデーのコクピットの中で、貫徹はあきれ顔だ。
「さぁ。私のステージに着きましたね。」
交差点の真ん中に辿り着いたハリーはそう言うと、ピンと伸びた自慢のおひげを指でそっと撫でた。
「リラーックス!」
ハリーがそう叫ぶと、ロボットは直立不動のまま両手を軽く広げ、軽くくの字に曲げた。
まるでリラックスしているようには見えないが、これはボディビルのポージングの一つである。
人間の場合、全身に力を入れるのだが、ロボット場合は無理だろう。
全身に力を入れてリラックスというのも不思議な話だが。
「でた!リラックス!マッスルワンダホーのポージングショーの始まりだ!」
モニターを見ていた、ガリガリのサラリーマンが嬉しそうに叫ぶ。
他の観客達もざわつき始めたところを見ると、ハリーさんはなかなかの人気者らしい。
ハリーことハリー日下は、商店街で「マッスルパラダイス」というトレーニングジムを経営する、ボディビルダーだ。
クォーターらしいが生まれも育ちも東京なので、日本語しか話せない。
彼の愛機である「マッスルワンダホー」は、彼の姿を模して作られており、身体的特徴はよく似ている。
「フロントラットスプレッド!」
ハリーがそう叫ぶと、マッスルワンダホーはくの字に曲げた腕をそのまま腰に当てた。
本来なら背中の筋肉を大きく左右に広げ、背中の横幅を強調するポーズなのだが、当然ロボットに筋肉はない。
「フロント ダブルバイセップス!」
マッスルワンダホーは両腕を曲げたまま上にあげた。
これでもかと言わんばかりに、上腕二頭筋を見せつけているのだ。
マッスルワンダホーは両腕を上げたまま、くるりと振り返って背中を見せると
「バック ダブルバイセップス!」
ハリーはまた叫んだ。
今度は後ろから見せてくれているのだ。
『あれはなにをしてんのやろ?』
格納庫で待機中、お菓子をつまみながらモニターを見ていた倫子は露骨に顔をしかめた。
『ボディビルのポーズ?ロボットやんな?筋肉無いやんな?そのポーズに意味はあるのん?』
倫子の言うことは間違っていない。
間違ってはいないが、モニターの前で興奮している人達がいるのも事実だ。
「なにあれ?なにしてるの?」
倫子は隣で、ポリポリとお菓子を食べる真美に尋ねた。
「ハリーさんね。ま、儀式みたいなものよ。」
「ハリーさん?儀式?」
「商店街でトレーニングジムをやってる人なの。ボディビルダーでね。ボディビルじゃ有名人なのよ?出動する度にあれをやるのよ。」
「そうなんだ…。」
妙に乾いた声で倫子は答えた。
モニターの中ではマッスルワンダホーが、サイドトライセップスを決めている。
「さすがにトラック2台じゃ出番がないわね。今日はこのまま待機かな。」
真美がそう呟いた時
「海浜公園の近くにまた出やがったそうだ。今度は2機だ。」
真美 「え!」
倫子 「え!」
真美と倫子の顔に緊張が走った。
そう。
それは突然やってきたのである。
風雲急を告げる。




