第三章 21話 「二人の企み」
21話です。
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『なにあの二人?珍しい組合せね。』
その日の夜。熱血屋でアルバイト中の真美は、カウガールの格好でホール中を走り回りつつ、奥の座敷に座る二人組を見て思った。
石田丸夫と蔵太 太がジョッキを交わしながら、から揚げや串カツ。フライドポテトなどの揚げ物オンリーのアテで愉しそうに吞んでたのだが、名は体を表すと言うが、まさにそのまんまの二人にとって、カロリーと言う四文字はこの世に存在しない。
「植物は全て草食動物のもの。」がモットーの二人には、付け合わせのサラダすら要らないのでいつも無しにして貰っているほどだ。
二人は実に愉しそうに酒を飲んでいるが、よっぽど嬉しい事があったのだろう。
「これで障害は全て取り除けましたね…。」
太はニヤリと笑いながら言った。
「そうだね。あとは草案をまとめて実行に移すだけだ…。」
丸夫もニヤリと笑う。
「うまくいくでしょうか?」
「大丈夫!アテはあるんだから。」
「そうですね。」
二人は愉しそうに笑いあった。
あの「フライパンすっかすか事件」以来、丸夫は葛藤し続けていた。
ずっと『ボコボコにしてやんよ!』という衝動に駆られていたのだ。
丸夫はその思いを青葉模型店主、蔵太 太に漏らした。
こんな話を貫徹にするわけにはいかないし、したところで「とんとんは囮じゃねぇか。」と言われて話は終わりだ。
正直な話、生まれ変わったテヤンデーに対する羨ましさもあるので、貫徹には話をしたくなかった。
「僕もロボットに乗りたいんです!」
丸夫から話を聞いた太もまた、丸夫に自分の思いを口にした。
そこで二人は考えたのだ。
互いの欲求を満たすグッドアイデアはないものかと。
二人は幾度となく会合を開き、綿密な打ち合わせを重ねた結果、一つの答えを導き出した。
とんとんをタンデムで操縦し、2体合体ロボットにしてオフェンスとディフェンスに分かれたらどうだろうか?
例えばとんとんの頭が外れ、頭がロボットに変形してこれがオフェンスロボットになり、ボディから頭が生えるなりしてそれがディフェンスロボットになるのはどうだろうか?
これなら二人の夢を叶える事が出来る!
丸夫と太の夢はどんどん膨らみ、二人は一冊のノートに思いの丈を全て注ぎ込んだ。
ノートはみるみるうちに埋まっていき、二人の願いそのものになったが、しかしこれを実行するにはそれぞれに障害があった。
丸夫はとんとんをデザインした娘からデザイン変更の許可をとらなければならないし、太は妻からロボットに乗る許可を得なければならないのだ。
その障害が今日、全て取り払われたのだから、二人が浮かれるのも仕方が無いだろう。
丸夫と太が企てていたのは、次期商店街会長の座を奪うのではなく、ビッグとんとんの改造だったのだ。
「はぁ~。」
今日の朝。朝食のテーブルについた石田丸夫は、コーヒーカップを片手に深いため息をついた。
丸っこい体に短い手足の丸夫は、まさに丸夫と言った風貌だ。
「どうしたのパパ?」
とても可憐な声が丸夫の正面から聞こえた。
その声はまるで、少女向けアニメに出てくるヒロインのようだ。
いや、窓辺で空に浮かぶ月を眺めつつ、愛しい人を思いながら、叶わぬ恋に身を焦がす、深窓の令嬢と言えばよいだろうか?
「丸子…。パパ、丸子に話があるんだ…。」
丸夫は沈痛な面持ちで語った。
「どうしたのパパ?」
深窓の令嬢。
いや、石田丸子15才は心配そうに答えた。
「ビッグとんとんの事なんだけど…。」
「とんとんがどうしたの?」
「とんとんのデザインを変えてもいいかな…。」
丸夫は申し訳なさそうに言った。
「とんとん変わっちゃうの?」
丸子はつぶらな瞳に涙を溜めながら言った。
「ごめんよ丸子!最近はロボットも強くなっちゃって、今のままだと、とんとんが…とんとんが危ないんだよ!」
丸夫は泣きながら言った。
「それじゃあ仕方ないね。わかった。変えてもいいよ。」
「丸子~!」
「パパ~!」
二人は同時に席を立つと、がっちりと抱き合った。
いや、がっぷり四つを組んでいるようにしか見えない。
残念な事に丸子と丸夫は顔から体までそっくりなのだ。
昔、石田精肉店の包み紙に描かれたリアルなぶたさんを見て、幼稚園の丸子は泣き出した。
妖怪のようなタッチで描かれたぶたさんのイラストが、丸子はあまりにも怖かったのだ。
その日、丸子は画用紙にクレヨンで絵を描いた。
一生懸命、額に汗を掻きながら描いた。
「パパ~。これ見てぇ~。」
丸子は笑顔で丸夫に書き上がった画用紙を見せた。
「パパを描いてくれたのかな?」
丸夫は笑顔で画用紙を見つめたが、そこにはコックコートを着て、サングラスをかけた丸々と太ったぶたさんが描かれていた。
「丸ちゃんこれはなぁに?パパかな?」
丸夫は丸子に尋ねたが、どうやら自分の事は理解しているようだ。
「とんとん!」
「え?とんとん?」
「お店のぶたさん。こっちの方がかわいいよ?」
「そうだねぇ。でもなんでサングラスをかけているの?」
丸夫は疑問を口にした。
「強そうでしょ~?」
丸子は満面に笑みを浮かべながら言った。
丸夫はしばらくの間、ぶたさんを眺めていたが
「そうだ!このぶたさんをお店のぶたさんにしようか?」
丸夫がそう言うと
「やったー!」
丸子はぴょんぴょんと跳ねながら喜び、丸夫はすぐに行動に移った。
丸子の描いたぶたさんを清書すると、看板を作り直し包装紙を変えたのだが、するとお肉のとんとんの客足が伸び始めたのだ。
意外な事にお店のマスコットを変えた事で、お店の人気が出たのである。
それから「お肉のとんとん」は青葉島一のお肉屋さんだと自他共に認めるお店になり、CATVでCMを打ち、とんとんそっくりのロボットまで持てるようになった。
オリジナルのぬいぐるみの売れ行きも好調で、中にはプレミアの付くものまで出てきた。
丸子の描いたぶたさんは、お肉のとんとんの福の神になったのである。
「相変わらず、朝から暑苦しい親子だこと。」
丸夫の妻、石田晶子はそう笑いながら言った。
ちなみに晶子は3人の中で唯一痩せており、中肉中背である。
旦那と娘のように家で映画を見ながらアイスクリームを1リットルだの、パーティー用の大きなポテチを食べないのだから太るはずもないが。
一方、太は太で妻の登美子と二人で店番をしている時、勇気を振り絞って登美子に言った。
「ロボットに乗りたいんだ…。」
蚊の鳴くような声だ。
「え!運動音痴のあんたがロボットに?」
登美子は驚いた。
「ロボットに乗りたい…。」
日頃から店を任せっきりにしている負い目と、婿養子という立場もあり、太は登美子にそう言うので精一杯だった。
「ダメダメダメ。そんなの危ないわよ。」
登美子は手を振りながら言った。
「乗りたいんだ…。どうしても乗りたいんだよ。」
「あんたは運動神経がないんだし危ないよ。怪我でもしたらどうするのさ?」
登美子はあきれ顔で言った。
「副会長がとんとんに乗せてくれるって。」
必死に訴えかける太。
「なんで副会長が、あんたをとんとんに乗せてくれるのさ?」
登美子は不思議そうに尋ねた。
「とんとんを二人乗りにするんだって。だから乗ってくれないかって。」
「とんとんねぇ…。」
登美子は悩んだ。
とんとんが硬くて囮な事は登美子も知っている。
テヤンデーやマッスルワンダホーのように戦闘に参加するなら不安だが、囮のとんとんなら大丈夫な気もするし、模型屋の店主がロボットに乗れないのもかわいそうな気がする。
太がロボット好きなのを昔から知っている登美子は、太の気持ちもわからなくもない。
登美子と太幼なじみで、太は元々青葉模型の常連客だったのだ。
「とんとんならいいかな…。」
「え!いいの!」
太の顔がパッと明るくなった。
「でも乗っていいのはとんとんだけよ?危ないのはダメだからね。」
「登美ちゃんありがとう!」
太はそう言うと登美子に抱きついた。
「ちょ!ちょっと!こんな所で何を…。」
登美子は慌てて店内を見回したが、平日の11時の模型屋に客などいない。
「本当に困った旦那だねぇ。」
登美子はそう言うと、少し照れながらやさしく太を抱きしめた。
そろそろ動きが出てきそうです。




