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第三章 11話 「蠢く影。二つ」

第三章 11話です。



いつも読んでくれてありがとうございます。


m(_ _)m

電気すら点いていない暗い病室の中で、2人の男が聞き慣れぬ外国語で囁き合うように話をしていた。

「どうだった…。」

ベッドに横たわる男の重く威圧感のある声がした。

「やはり性能の差に開きがあります。それもかなりの。それを考慮しても、(ブルー)のパイロットの操縦センスはかなりのものです。思い切りもいい。」

ベッドの側らの椅子に座る男の声はずいぶんと若い。


「それにしても、腕を持っていかれたのはまずかったな…。」

「すいません…。私のミスです。」

「まぁいい…。終わった事は仕方がない…。次はしくじるな…。」

「はい…。」

「向こうは2機だ…。さすがに1人では心許(こころもと)ないだろう…。チームを呼んだ…。お前も加われ…。」

「本国から呼び寄せたのですか?」

「あぁ…。」

()()()は来られるのですか?」

「いや…。奴はまだだ…。準備が出来次第…呼び寄せ…る…。準備を…進めろ…。」

「はい…。」

「あの方達は…どこに…いる…。尻尾が…掴めん…。」

 会話はそこで終わり、部屋は静寂に包まれた。




『フンフンフ~ン』

鼻歌でも歌いだしそうなほど、倫子は機嫌良さそうに乙女座のキッチンで包丁を振るっていた。

今日は「感謝の日」と呼ばれる月に1度、乙女座の住人達がみんなで料理を作り、日頃の感謝を込めて桜子をおもてなしする日である。

残念な事にマインズのメンバーはアイドル活動が忙しいため不参加なのだが、マインズはマインズで桜子をおもてなししていて、初参加の倫子は妙にテンションが高い。

食事の後はみんなでお風呂に入るのだがそれも楽しみだ。


カカカカカカッ

小気味よい音と共にまな板の上の大きなキャベツが、瞬く間に千切りにされていく。

倫子はコールスローサラダを作っているのだが、初めて作るので少し不安だ。


「おいしく焼けてるかなぁ~。」

聖美(さとみ)はそう言ってオーブンの前に立ち、心配そうに中の様子を伺っている。

オーブンの中には2kgはありそうな大きな牛のサーロインの塊がドーンと乗っており、肉の焼けるおいしそうな匂いを漂わせている。

『いい匂~い!』

素晴らしくおいしそうな匂いに鼻をくすぐられ、倫子は急激にお腹が空いてきた。

この匂いならいくらベジタリアンだって、お腹が空いてくるはずだ。

いや、空いてこないほうがおかしい。


「味付けはこんな感じかな?」

真奈美は味見を終えてからそう言うと、おたまで鍋の中をゆっくりとかき混ぜだした。

とうもろこしの甘~い香りがするところから考えてみると、どうやらコーンスープを作っているようだ。

焦がさないように、ゆっくりと丁寧にかき混ぜているのだろう。



「リンちゃんは包丁を使うのが上手ね。」

真由はエビやイカ等の魚介類を包丁で捌きながら、倫子に話かけた。

その包丁捌きは倫子とは比べものにはならない。


「真由さんに教えてもらっているおかげです。」

「リンちゃんの筋がいいのよ。美智子ママもお料理が大変お上手だし。」

真由はそう言って笑った。


「これで下ごしらえは終わりね。」

魚介類を切り終えた真由は、そう言って切った魚介類をボウルの中に入れ始めた。

「なんのパスタを作るんですか?」

「ペスカトーレを作ろうかと思って。」

『魚介類のパスタの事を、ペスカトーレって言うんや…。』

「ペスカトーレですか。いいですね。」

「メインディッシュがローストビーフだから、パスタは魚介類でどうかなって思ったの。リンちゃんはペスカトーレは大丈夫?」

「大好きです!」

倫子は元気よく答えたが食べた事はない。

外食時にがっつり派の倫子の選択肢に、スパゲッティはないのだ!

「あとは桜子さんが帰ってくるタイミングに合わせて仕上げをするわ。」

「はい。」

倫子は元気よく答えた。



 一方、食堂には真美と未祐がいた。

「うりゃー!」

掛け声と共に、真美が大きなボウルに入った生クリームを、泡立て器でかき混ぜている。

ハンドミキサーを使えば早いのだが、泡立て器の方が格別に美味しいらしい。

もちろん科学的根拠などはない。


「がんばるのだ名人。」

未祐は氷の入った大きなボウルを両手で押さえながら、抑揚のない声で声援を送る。

ボウルを冷やしながら生クリームを泡立てているので、溶け出した水が飛び散らないように未祐が氷の入ったボウルを押さえているのだが、これがなかなかの重労働だ。


テーブルの上には、3つにスライスされたスポンジケーキや白桃と黄桃の缶詰。桃のリキュールやシロップなどが並んでいる。

2人で桃のケーキを作っているのだろう。



しばらくしてから桜子が帰宅し、テーブルの上に出来上がった料理が並べられた。

「すごいわね~。とってもおいしそう。」

桜子は満面に笑みを浮かべながら嬉しそうに言った。

メインディッシュのローストビーフはこんがりとおいしそうに焼き上がり、周りに色とりどりの野菜達を従え、威風堂々とテーブルの真ん中に鎮座している。

誰がどう見ても美味しいに決まっている。


次に桃のケーキだ。

真っ白な生クリームの大地に、スライスされた白桃が連なりながら、ケーキの中央に(サークル)を描いている

(サークル)の周りを、見事な姿勢で生クリームの兵隊が取り囲み、ケーキの壁面まで完璧にガードしているのは、未祐の力作である。

きっと中には、桃がぎっしりと詰まっているのだろう。

想像するだけで楽しくなってくる。


 

次に各々の席の前に置かれたメニューを見て見よう。

まずは真由の作ったペスカトーレだ。

大ぶりなエビやイカ等の魚介類が、パスタをその身に纏いつつ存在感を醸し出している。

そこにおいしそうな匂いが加わるのだから、食欲はそそられる一方だ。


真奈美の作ったコーンスープはお皿の上で海となり、クルトンとパセリの島を浮かばせている。

コーンスープは見るからにトロットロであり、粒のまま投入されたコーンが泳いでいるのが見える。

温かそうな湯気と共に広がる香りを嗅いで、飲みたくない生き物などいるはずがない。

まさにとうもろこしバンザイである。


コールスローサラダもおいしそうだが、いかんせんサラダである。

正直なところ褒めるポイントが見つけにくい。

倫子の為にも言わせてもらうが、彩りもいいしおいしそうなのは間違いない。



倫子が待ちに待った夕食が始まり、倫子は早速ローストビーフにナイフを入れた。

ほんのりとピンク色の肉はおいしそうだ。

『なにこれ!めちゃくちゃ美味しい!焼豚(チャーシュー)とは全然違う!』

初めてのローストビーフに倫子は感動した。

倫子よ。

ローストビーフは牛肉だ。

ぶたさんでもなければ、出来損ないの焼豚(チャーシュー)でもない。



楽しい夕食は続いていくが、食卓にはなぜか見た目に違和感がある。

みんなお皿の上にパンが載っているが、倫子のお皿だけはご飯が山盛りなのだ。

おしゃれライフに憧れパンも大好きな倫子なのだが、シチューやパスタがおかずであっても、倫子の主食は必ずご飯なのだ。


関東の方には理解出来ないかもしれないが、関西には「お好み焼き定食」と言う、お好み焼きにご飯とお味噌汁のついたポピュラーな定食がある。

関西出身の倫子がお好み焼きを食べる時などは、必ず関西の神様が倫子の頭の中に降臨されて「お好み焼きとご飯はセットやろがい!」と天啓を下されるのだ。


この天啓は焼きそばバージョンもあるのだが、もちろん倫子に天啓を抗うすべなどないし最初から抗う気もない。

現に今の倫子はローストビーフをご飯の上にたっぷりとのせ、「ローストビーフ丼」にしたい衝動に駆られているのだからどうしようもないだろう。

まさに白米万歳である。



「このローストビーフはおいしいね~。いっぱいあるから、明日の朝はローストビーフサンドだね。」

聖美は嬉しそうにニコニコ笑いながら言った。

真美 「それいいわねぇ。」

真奈美 「いいわね~。」

未祐 「楽しみだ。」

桜子 「明日は楽が出来そうだわ。」

などと皆で笑いあう中。

「楽しみですね。」

と笑顔を浮かべながら平然と嘘をつく、一人の女の子がいた。

あえて名前は伏せるが、その女の子の内心はこうだ。

『食べ過ぎたらあかん…。考えて食べな…。明日のローストビーフサンドが無くなる…。』

どうやらその女の子は、目の前のローストビーフを全部やっつけるつもりだったようだ…。



その頃、石田丸夫と蔵太太(くらふとふとし)という、あまり見かけないメンツが熱血屋の隅の席で酒を酌み交わしながら、何やら話込んでいた。

「でね…。…がね。…でしょう?」

丸夫は聞き取れないような小さな声で、太に話かける。

「でも…。…なら…じゃないですか?」

答える太の声も聞き取れないが、時折みせる悪そうな笑顔が怪しい。非常に怪しい…。

もしやこの二人!近々行われる商店街の会長選挙に向けて、何やら怪しげな企みでも相談しているのだろうか?


『なーに楽しそうに話し込んでんだ?あの2人は?』

ホールで働く健斗は2人を見て不思議に思ったが、それ以上は気にかけず、何もなかったかのように仕事に戻った。

健斗は少し気になっただけたで、太ったおっさん2人の飲み会になど、毛ほども興味が湧かなかったのだ。

危うし!会長!

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