第三章 第2話 「ええのん?」
第三章 2話です。
いつも読んでくれてありがとうございます。
m(_ _)m
「わわわわわわ!」
操縦桿を動かしながら、倫子は焦っていた。
それほどまでにマジカルブルーの猛攻は激しかったのだ。
マジカルブルーは左手に丸い盾を持ち、右手に持ったサーベルでマジカルピンクに斬りかかっているのだが、そのスピードが早い。
マジカルピンクは両手に持った刀でマジカルブルーの猛攻を捌くので精一杯だ。
『うわ!マミちゃんまだまだ全然余裕やん!』
マジカルブルーの動きを見ながら倫子は思った。
動きに余裕があるのが見ていてわかる。
「そうそうその調子よ。はい交代。」
真美の声が倫子の耳に響く。
マジカルブルーが動きを止めると、今度はマジカルピンクが刀を構えた。
対してマジカルブルーは構えもせず、ただ立ち尽くしているだけだ。
「よーし!いくよー!」
マジカルピンクはブルーに袈裟がけに斬りかかった。
カン!
マジカルブルーは左手を上げ、シールドで難なくピンクの攻撃をはね返した。
マジカルピンクは何度も何度もブルーに打ち込むが、ことごとくシールドではね返されていく。
カン! カン! カン! カン!
「はい。はい。はい。はい。」
真美はテンポ良く声を出しながら、シールドでマジカルピンクの攻撃を捌いていく。
「その調子、その調子。」
真美はそう言いながらマジカルピンクの攻撃を全て捌ききった。
「ダメだぁ~。」
コンテナの待機部屋のソファーに座り、ストローでドリンクを飲みながら倫子が言った。
「ん?何が?」
真美は棒状のプレッツェルにチョコレートのかかったお菓子をポリポリと食べながら、倫子に尋ねた。
「攻撃が全然当たんないね~。」
やんなっちゃう。
とでもいう風に倫子は言った。
「3年よ。」
「へ?」
「3年もかけてやっとここなの。」
真美は右手の指を3本立てながら言った。
「3年?」
「マジカルブルーは3年かけて私が育てたの。でもまだここなの。やんなっちゃう。」
真美は残念そうな顔をしている。
「まだって…。あれだけ動かせるのに?」
倫子は不思議そうに言った。
今のマジカルピンクにブルーと同じ動きは出来ない。
「お姉ちゃんも真奈美ちゃんも、もっと上手に動かせるの。あの二人に比べたら、私なんてぜーんぜん下手っぴよ。」
「そんなに?」
倫子は体が震えそうになった。
綺麗で優しくて料理も上手くて、さらにロボットの操縦まで上手いというのか?
美女神はどこまで完璧なのだ!
いやいや倫子よ。
驚くのはそこではないはずだ。
「3年かけてまだここだけど、もっと上手になりたいの。そうじゃないとブルーにも悪いからね。」
「マジカルブルーに?」
「ブルーはもっと凄い事が出来るはずなの。せっかく出来るのに、させてあげられないのは可哀想でしょ?」
「マミちゃんは凄いねぇ。」
「源さんに言われたの。物にも命はあるって。」
「命…。」
「私達のご先祖様はそういう考えを持っていたんだって。だからこの国には八百万の神様がいるんだって。」
「なるほど…。」
言われてみれば確かに、神様が八百万もいる国なんて他に聞いた覚えがない。
単純に倫子がそういう話に興味がないから、知らないだけかも知れないが。
「だからロボットにも神様がいて、ロボットにも命があるんだって。源さんて変な事言うでしょ?」
「変…?」
なんだろう?
変かと問われてみれば、変かも知れないし、変ではないかも知れない。
なんとも言えないおかしな感覚だ。
「あたしは最初、源さんは変な事言うなぁって思ったの。そもそもあたしは無信心だからね。でもブルーに乗ってるうちに源さんの言葉の意味が、少しずつだけどわかってきたような気がするのよ。」
「私も私だけのマジカルピンクを育てなきゃね。」
「マジカルはあたし達の相棒だからね。」
「マミちゃん!休憩が終わったらまたやろう!」
「いいわよ~。」
真美はそう言って笑った。
『マミちゃんが3年も頑張って、ここまで上手に動かせるんやったら、今の私が下手っぴでも当たり前やん。そんなマミちゃんが教えてくれてるんやから、上手になれへんかったら私がサボってるだけやん。大丈夫!不器用やけどサボってはいいひん!絶対に上手になるはずや!』
倫子は自分にそう言い聞かせた。
倫子と真美が模擬戦をしていると出動要請がかかった。
どうやら中央通りを2機のワーカーが暴走しているらしい。
2人は慌てて現場に向かった。
「げ!あいつがいる!」
現場に着いて早々、真美は嫌そうな声をあげた。
「あいつ?」
倫子は道路の前方に立つ2機のロボットを見た。
1機はテヤンデーだが、もう1機は初めて見る機体だ。
「なにあのロボット?」
倫子は目を細めながら見慣れぬロボットを見つつ、思わず真美に尋ねた。
「あれがヘンなやつのヘンなロボット。『ナイトアーサー』よ。」
真美はだるそうに答えた。
「確かに…。ヘンなロボットだねぇ…。」
倫子はナイトアーサーを見ながら言った。
ナイトアーサーはお金持ちの家に置いてあるような、西洋のフルプレートの甲冑を着たようなボディをしているのだが、見た目がおかしい。
何がおかしいかというとまずはそのバランスだ。
数本の溝が入ったフェイスガードの付いた兜を被った頭と胴体、丸い球状の肩から生えた上腕は普通サイズなのだが、下腕も上腕も太い。
足も同様に膝から下が太く、全体的にアンバランスなボディだ。
しかも背中には大きな鞘だけを斜めに背負っていて、なぜか鞘の中に剣は入っていない。
持っているのは鞘だけで、他には武器も盾も見あたらないのだ。
「なんで鞘だけ持っているの?剣は?忘れてきちゃったのかな?」
倫子は不思議そうに言った。
「あれが普通なのよ。でも、アーサーが出てきたって事は、あたし達の出番はないわね。」
「そうなの?」
「ま、しばらく黙って見ていましょ。」
「うん。わかった。」
「じゃじゃ馬娘が来やがったか~。」
健斗はモニターに映るマジカルブルーを見ながら頭を掻いた。
バイザーで顔は見えないが、嬉しいわけではなさそうだ。
「健斗!いつも通りに頼むぜ!」
貫徹の声が聞こえる。
「はいはい。お任せください会長。頑張りますからねぇ。」
健斗はそう言うと、中央通りを北から南下してくる2機のワーカーに目をやる。
2機とも足元から白煙が立ち上っている。
「車輪付きか…。」
健斗は面倒くさそうに言葉を吐いた。
ワーカーは中央通りをガーディアンのいる方向に向かって、真っ直ぐ南下してくる。
ナイトアーサーとテヤンデーは交差点の中に入り、迎撃態勢をとった。
軽快に歩くテヤンデーに対して、ナイトアーサーの足取りは重く、ずいぶんとゆっくりと歩いている。
『動きがすごく遅いな…。なんか重そう…。』
倫子はナイトアーサーの動きを見てそう思った。
「リンは西側の交差点の入口に向かって。あたしは東側に向かうから。」
真美はそう言うと、マジカルブルーを交差点の東側へと移動させた。
「うん。わかった。」
倫子もそう答えると、交差点の西側へとマジカルピンクを移動させる。
「ん?こんな所で何してんの?」
倫子は交差点の南東の角にあるビルの屋上を見て驚いた。
もえぎ色の法被を着た5人の男達が、サイリウムを両手に持ち、激しく踊りながらこっちに向かって大声を張りあげている。
『こんなとこにいたら危ないなぁ…。って、この人ら熱血屋の常連さんやん!こんなとこで何してんの?』
間違いない。
あのもえぎ色の法被は、毎日のように店に入り浸り、「特製すたみな丼」一杯で一日粘る常連さん達だ。
何度か注文を取りに行った事もある。
もえぎ色の法被を着て、おかしな踊りを踊る5人が叫ぶ。
「リンリンちゃん頑張れー!」
「ブルーちゃんサイコー!」
「リンリンちゃんがこっち見たー!」
「うおー!ブルーちゃーん!」
「……。」
「マミちゃん。ビルの屋上に人が…。大丈夫かな?」
倫子は心配そうに言った。
「あぁ。もえぎ色の法被を着た人達でしょ?」
「うん…。」
「放っておいて大丈夫よ。手を振ってあげたら大喜びするわよ。」
「そうなの?」
倫子がそう言うと、マジカルピンクが5人に向かって手を振ると。
ウォォォォォー!
5人は歓声をあげた。
『変わった人らやなぁ…。』
「そろそろ来るわよ。」
「うん!」
この瞬間、倫子の頭はマジカルリンリンへと完全に切り替わった。
ナイトアーサーは交差点の真ん中に立ち、テヤンデーは交差点の南側に立った。
2機のワーカーが交差点に近づいてくる。
「はーい!そこのワーカーさん達。暴走行為は大変危険でーす!速やかに止まってくださーい。」
健斗は明るい声で言うと、ナイトアーサーはゆっくりと両手を前に出し、ワーカーをなだめるかのような動作をしたが、ワーカーはナイトアーサーのゆっくりとした動きをあざ笑うかのように、二手に分かれてナイトアーサーの横をすり抜けようとした。
明らかに自分達の方がスピードはあるのだから、さっさと追い抜いてしまおうと思ったのだろう。
気持ちはわからなくもないが、ずいぶんと露骨な態度である。
ワーカーがナイトアーサーをすり抜けようとした瞬間だった。
「止まれって言ってんだろうが!」
健斗はコクピットの中で叫んだ。
無論、スピーカーは切ってある。
ガン!ガン!
立て続けに大きな音が2回した。
「え!」
倫子は大きく口を開けて驚いた。
ワーカーとすれ違う瞬間、ナイトアーサーが両手を横に広げたのだ。
普通のロボットならこんなことをしたら、弾き飛ばされてしまうか腕がもげるだろう。
ナイトアーサーが硬く重く、さらにパワーもある証だ。
2機のワーカーは胸にラリアットをくらい後ろに倒れかけたが、ナイトアーサーは2機のワーカーを抱え込むように抱きしめた。
とんでもないパワーである。
ナイトアーサーは2機のワーカーから手を離すと、左右のワーカーの腕を掴み
「青いお嬢さん。手伝って頂けませんか?」
と言って、おもむろに1機のワーカーをマジカルブルーのいる方へとぶん投げた。
ぶん投げられたワーカーは、地面を転がるようにマジカルブルーの近くにやってきた。
「あら?あたくしでよろしいのかしら?」
マジカルブルーが澄ました声で言った。
「せっかくお越しいただいたのですから是非。」
「そうですか。では、お気遣いありがたく賜りますわ。オホホホホ。」
マジカルブルーはそう言うと抜刀し、スパスパとワーカーをバラしていった。
「こちらこそ大変助かります。それでは私も失礼して…。オホホホホ。」
健斗がそう言うと、ナイトアーサーが左手でワーカーの右肩を掴み、おもむろに右手でワーカーの左腕を掴むと。
ブチブチブチ!
ケーブルが切れる音を立てながら、オイルや冷却水を撒き散らしつつ、ワーカーの腕があっさりと毟り取られた。
まるで食べ放題のカニのようだ。
「えぇぇぇ~!なにあれ?」
倫子は思わず声をあげた。
ナイトアーサーはまるで蟹の足を毟るかのように、ワーカーの関節をを毟っていく。あまりにも雑だ。
『毟るの?毟っちゃうの?そんなやり方もあるのん?それでええのん?ロボットって、そんなもんなん?』
倫子は呆然としながら、ナイトアーサーを見ていた…。
だんだんと寒くなって参りました。




