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第二章   第12話 「吼える真美」

第二章 12話です。


いつも読んでくれてありがとうございます。


 <(_ _)>

「いい?よく聞いてリン。壁際で応戦しちゃダメよ。出来るだけ道路の真ん中に立って、交差点の中に誘導するの。」

「うん!」

画面の左隅に映る現在位置を確認しながらワーカーを正面に捉えつつ、リンリンはマジカルを後ろにさげる。

ワーカーは両手にサーベルを手に持っている。

「最初からバーニアに頼っちゃだめよ。出来るだけステップを切りながら下がって。そうそうその調子。マジカルのオートバランサーを信じて。多少の機体のブレは完璧にカバーしてくれるから。」

「こう?」

リンリンがそう言うと、マジカルは大きく後ろに飛んでワーカーとの距離を大きくとった。

ワーカーが急いでマジカルを追いかける。



マジカルが交差点の中央辺りにたどり着くと突然

ガシャン ガシャン ガシャン ガシャン

ガシャン ガシャン ガシャン ガシャン

ガシャン ガシャン ガシャン ガシャン

ガシャン ガシャン ガシャン ガシャン

という激しい音がしたかと思うと、交差点を取り囲むように10m以上はある壁が地面から生えてきた。


「なになになに?」

リンリンは慌てて周りを見回した。

ワーカーも辺りを見回しているのが面白い。

マミタン 「檻よ。」

リンリン 「檻?」

マミタン 「そう。相手が強力な武器を装備している場合、被害を抑える為にこうして交差点の中に閉じ込めるの。めったに使わないけどね。」


リンリン 「飛び越えたりしないの?」

マミタン 「まず無理ね。ワーカーにバーニアは付いていないし、付いていてもこの高さは跳べないわ。リンだって自分の身長と変わらない高さを飛び越えたり出来ないでしょ?」

「マミタンちょっといい?」

「いいわよ。」

リンリンは操縦桿(レバー)から手を離した途端、ワーカーの動きが止まった。

どうやら操縦桿(レバー)から手を離すと、シミュレーターに一時停止がかかるようだ。



「前にも聞いたけど、なんでマジカルは飛べるの?」

「軽いからよ。」

 マミタンはあっさりと言い放った。

「そんなに軽いの?」

「目の前のワーカーと比べたら、半分以下じゃ無いかな?」

マミタンはそう言って首を傾げた。

「そんなに?」

「そうよ。マジカルのバーニアの性能も良いんだけど、基本的に軽いから飛べるの。」

「へぇ~。マジカルってつくづく凄いんだねぇ。」

「ただね。軽いから良いってわけじゃないの。」

「え?」

「マジカルはパワーもスピードもあるんだけど、近接格闘になると脆いのよ。」

「どういう事?」

「掴まれたらまずいのよ。軽過ぎて踏ん張りが効かないから、投げられたら飛んでっちゃうわ。」

「そう言う事か…。」

リンリンはそう言うと、口を真一文字に結んだ。



「今のところそんな事例はないんだけどね。これだけロボット技術が進歩してくれば、いずれそう言った場面に出くわすかも知れないでしょ?警戒は必要なのよ。」

「組まれちゃダメって事なのね…。だからみんな距離をとってるんだ…。そうなるとダガーは不安だね…。」

「近接格闘はマジカルの弱点なのよねぇ…。」

真美は残念そうに言った。

「そこも踏まえて練習しなきゃダメなんだね。頑張るよ。」

倫子は笑顔で答えた。




その頃。青葉大の研究室の机にだらしなく突っ伏して寝ている、一人の男子学生がいた。

汚い白衣を着た学生の寝顔はかなり険しく、悪夢でも見ているようだ。

ボサボサの頭にうっすらと生えている無精ひげが、どこか可愛げがある。


学生の眠る机の上は見事に散らかっており、大量の書物は山積みだわ、カップ麺の空容器やおにぎりの包装紙が呆れるほど散乱しているわで、見ていて悲しくなるほど無残だ。 

ゴミに埋もれように床に広がる寝袋が、とてもとても汚く見える。

ピロリン

突然PCから音がした瞬間、学生は体をビクッとさせたかと思うと

「すいません…。もうすぐ出ますぅ…。」

弱々しい声で、蕎麦屋の出前のようなセリフを言った。

一体どんな悪夢を見ているのだろう?



学生はゆっくりと体を起こしながらマウスを手に持つと、寝ぼけ眼でメールを開いた。

差出人    クソオヤジ

件名   「起きろバカタレ」


本文 

てめえ今寝てたろ。さっさと仕事を終わらせて、熱血屋(みせ)のバイトに戻れや。ホイさんから毎日のように連絡を受ける、偉大なお父様の気持ちにもなれ。それから模型屋の蔵太さんからも、いつ戻ってくるんですかとマシンガンみてぇな催促の嵐だ。そっちにも顔を出しとけ。 偉大なるお父様より。


 

寝ぼけ眼でメールを読んでいた学生の顔が、メールを読み進めるうちに険しいものになっていく。

「あんのクソオヤジ!誰のおかげでこんな目に逢ってると思ってんやがる!」

怒りに燃えるこの学生の名前は宮村健斗。

青葉大の2回生になったばかりの19才の若者である。

健斗はタブレットを取り出し、恐るべき速さで画面をタッチし始めた。


健斗 「誰が偉大なるお父様だクソオヤジ。」

返事はすぐに返ってきた。 

オヤジ 「起きたか馬鹿息子。」 

健斗 「寝てねぇ!」

オヤジ 「嘘つけバカタレ。寝言はよだれを拭いてからぬかせ。」

健斗は慌てて口元を拭った。

オヤジ 「ちゃんと飯は食ってるか?」

健斗 「毎日フルコースだクソオヤジ。」 

オヤジ 「おにぎりとカップ麺を、いつからフルコースと呼ぶようになったんだ馬鹿息子。」

「なんでメニューまでバレてんだ?」

健斗は思わず驚いた。

オヤジ 「てめぇの行動パターンなんざ、とっくにお見通しだ。お父様を舐めるな小童が。」

「く~!あったま来た!」

健斗は物凄いスピードで画面をタッチしていく。


健斗 「うるせえ。大きなお世話だクソオヤジ。」

オヤジ 「アルバイトを休み過ぎると、熱血屋(みせ)の寮から追い出されるぞ馬鹿息子。」

健斗 「上等だ!あんな汚ぇ寮。こっちから出て行ってやらぁ。」

オヤジ 「贅沢抜かすなバカタレ。雨風凌げて飯まで食わして貰えるんだ、ありがたいと思え。」

健斗 「女子寮との差が納得いかねぇ!格差があまりに酷すぎる!」

オヤジ 「こちとら忙しいんだ。てめぇの愚痴を聞いてる暇なんざねぇ。とりあえず用件は伝えたからな。近いうちに熱血屋(みせ)に顔出せ。それとな。アーサーもたまには動かさねぇとヘソ曲げちまうぞ。わかったか、愚かな馬鹿息子よ。」

健斗 「うるせえ!今から帰るわ!」

オヤジ 「留年なんかしたらタダじゃおかねぇからなこの野郎。うちに余分な金なんかねぇ。死なねぇ程度に達者で暮らせ。」

「あーほーかー!言いたい放題抜かしやがって。」

健斗は叫んだ。

言いたい放題はお互い様のように思うが。

「しかし…。さすがに毎日、学食とこれだけじゃあ体が持たねぇか…。」

健斗はそう言うと、散乱しているカップ麺とおにぎりの包装紙を集め始めた。

「久しぶりに、汚ぇ我が家に帰るか…。」

健斗は深いため息を一つついた。




その日の夜。

アルバイトに勤しむ真美は、入ってきたお客さんに向かって

「いらっしゃいませ~!」

と笑顔で言った途端、露骨に嫌な顔した。

「えらく愛想の悪い店員さんだなぁ。」

「あんたも同じ店員でしょうが!」

真美は歯を剥いて客に噛みついた。


「今はお客さんだろ?スマイルスマイル!」

お客さんはそう言って笑った。

「そうね~。さっさと座れば~。」

真美は引きつった笑顔を浮かべ、気が立っている猫のようにお客さんに噛みつく。

 ネコ耳の付いたメイドさんの格好をしているのだから、そう見えても仕方がないだろう。


お客さんがテーブルにつくと、真美は顔を引きつらせながら言った。

「お客様ぁ。ご注文はお決まりでしょうか~。」

「焼肉定食。大盛りでよろしく!」

お客さんはそう言って真美に笑顔を見せた。

「かしこまりましたぁ~。」

真美はそう言うと、引きつった笑顔のままお客さんから急いで離れていった。



「あ、ちょっとそこの店員さん!」

お客さんは少し離れた場所にいた倫子に声をかけた。

「はい?」

倫子はお客さんの元へと向かった。

『格好いい人やなぁ…。』

倫子はお客さんを見てそう思った。

白いシャツに黒いスラックス姿のお客さんは、顔も整っており清潔感もあるなかなかの好青年だ。

「悪いんだけど、お冷やを貰えないかな?」

「はい。ご注文の方は?」

「注文はもう終わってるんだけど、お冷やが来そうにないんで頼みたいんだ。見かけない顔だけど新人さん?」

「はい。よろしくお願いします。」

倫子はそう言って頭を下げた。

「こちらこそよろしく。」

「すぐにお冷やをお持ちしますね。」

そう言って倫子はキッチンへと向かった。

「着物姿ってのもグッとくるねぇ。」

倫子の背中を見ながらそう言って微笑むお客さんこそ先の学生、宮村健斗であった。




倫子が厨房へお冷やを取りに行くと、真美がニヤニヤと笑いながらホイさんと話をしていた。

真美は倫子を見つけると手招きをした。

何やら慌てているようだ。

倫子が真美の元へと向かうと真美が言った。

「リン。あそこに白いシャツの男がいるでしょ?」

「今、お冷やを頼まれたよ。」

「あたしが持っていくから、あの(バカ)には近づいちゃダメよ。」

「なんで?」

「あいつは変な奴だから。」

真美は嫌そうな顔で言った。

ホイさんは笑顔で真美を見ている。

「前に言ってた人?格好いい人だね。」

「外見だけはね。とにかく節操のない男だから気をつけてね。」

「わかった。」

倫子は素直に頷いた。

「後は私がやるから、リンはホールに戻って。」

「うん。」

倫子はそう言うとホールへと戻っていった。




「お待たせしましたぁ~。」

真美は満面に笑みを浮かべて健斗にそう言うと、お冷やを先に置いてから定食の載ったお盆を健斗の前に置いた。

「やりやがった…。」

健斗はお盆を見るなりテーブルに両肘をつき、顔を両手で覆うとそう呟いた。

お盆の上には大盛りのライスとスープ。

それに小鉢とてんこ盛りの青椒肉絲(チンジャオロース)が載っている。

 

「ご注文通りですよねぇ?あれぇ?違いましたぁ?」

真美は嫌味ったらしく、ニコニコしながら言った。

なかなか器用な娘さんだ。

「焼肉定食が青椒肉絲(チンジャオロース)定食になっちまった…。」

健斗は悲しそうな声で言った。

「ホイさんの前でお残しする気か?」

大きなお冷やの入ったポットを手にしたホイさんが、ドスの効いた声で健斗に言った。

「いやいやいや!まさかまさか!」

健斗は慌てて言った。

「なら良いね。温かいうちに早く食べるね。」

「ごゆっくりどうぞ~。」

真美は機嫌良さそうにそう言うと、スキップでもしそうな勢いでホールへと戻っていった。



「親父さんからの頼まれ事の目処はついたか?」

「おかげで何とかなりそうです。迷惑をかけてすいませんでした。いただきます。」

健斗はそう言いつつ、青椒肉絲(チンジャオロース)に箸を伸ばした。

「あの親父さんからの依頼じゃしょうが無いね。それよりちゃんと食べてたか?」

「まともな食事は久しぶりです。あのクソオヤジ!熱血屋(おみせ)にまで迷惑かけやがって!」

「あの人は昔から変わらないね。今日からアルバイトに入れるか?」

「はい。あらかた済んだんで今日から復帰します。」

「それは助かるね。商店街のみんなも喜ぶね。」

「さっき蔵太さんに泣きつかれました。」

健斗はそう言って笑った。

「今日からよろしく頼むね。」

ホイさんはそう言うと、ポットをテーブルの上に置いて厨房へと戻って行った。

健斗はホイさんがいなくなると慌てて水を飲み干し、空になったコップに水を注いだ。

子供の頃と比べると随分マシにはなったが、ピーマンの苦味はやはり苦手だ。

真美はそんな健斗を遠くから見ながら、ほくそ笑んでいる。その顔は実に嬉しそうだ。

「汚ぇぞ。」

健斗は真美に向かって、聞こえないようにぼそっと言った。

第二章は20話以内に終わる予定です。

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