第二章 7話 「倫子よ。マジカルに乗れ。」
第二章 7話です。
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倫子が慌てて振り返ると、サングラスをかけて顎髭を生やした短髪のおじさんが、白いが汚い作業着を着て立っていた。
「電子毛。ですか?」
倫子は普通におじさんに話しかけた。
「こいつは陸戦用ガーディアン。製造番号IMMU-XXXX。通称『ぺケ4』だ。ロボットってのは、動くと大量の静電気が発生してな。普通は地面か空中に逃がしてやるんだが、それだともったいねぇだろ?マジカルは静電気を電子毛に集めて貯めるんだ。電力として使えるようにな。」
「凄いですね!何本くらいあるんですか?」
「一本が太さ2mmでな。数は人間の頭髪と変わらねぇくらいある。10万本ってとこだな。いつもは帽子で隠れてるんだが、今日はメンテナンスで帽子を外したんだ。珍しいもんが見れただろ?」
ヒゲのおじさんはそう言って笑った。
「10万本も!凄いものが見れました。」
倫子も笑って返す。
「あ、源さんいたんだ。」
真美が歩きながらおじさんに向かって言った。
「変態親父なのだ。」
未祐はおじさんを指さした。
「おめぇらがこのお嬢ちゃんを連れて来てたのか?」
おじさんが真美と未祐を見ながら言った。
「そうよ。リン。この人は源さん。マジカルを作った人なの。」
「ロボットバカのダメな大人なのだ。」
未祐は遠慮なくズケズケと言いたい事を言う。
「返す言葉がねぇな。で、お嬢ちゃんは誰だい?」
「神楽坂倫子です。熱血屋さんにお世話になっています。」
倫子はそう言うと頭を下げた。
「なかなか礼儀正しいじゃねぇか。ここにいるってことは、マジカルのパイロットになるのかい?」
源さんは目の前のペケ4を顎で指しながら言った。
「まだ決まったわけじゃ…。」
倫子は困った顔で言った。
「なんでぇ。うちの娘が気に入らねぇってのかい?とびきりの美人だぜ?」
源さんはブスッとしながら言った。
「そういうわけじゃ…。」
倫子は困惑している。
「リンは実際に操縦をしないとわからないって言うのよ。だから実際に乗せてみようって事になったの。」
「シミュレーターの成績は?」
「オールS。」
「お!やるねぇ。で、シミュレーターを使った期間は?2ヶ月くらいか?」
「10日もかかってないの。」
「そりゃ凄えな!大したもんだ。」
真美の話を聞いた源さんは驚いた。
「またまた~。」
倫子はデレデレに照れている。
「あれでS判定が出せるなら、大学の試験なんか寝てても受かるぜ。早速だがマジカルに乗ってみるかい?」
「いいんですか?」
「ついて来な。」
源さんはそういうと、ハンガーの横にある階段を上り始めた。
倫子達も後ろから付いていく。
コックピットに入った倫子はびっくりした。
シートが乙女座にあるシミュレーターと全く同じで、シートの上にはいつも被っているヘルメットも置いてある。
「全く同じですね…。」
「どうだい?同じなのはシートだけじゃねぇぜ。操縦方法も同じだし、性能もまるっきり同じだ。」
源さんは自慢げに言った。
「そうなんですか!」
倫子は驚きの声を上げた。
「マジカルのコックピットって、アニメのロボットみたいにモニターに囲まれていないんですね。」
「VRってやつの応用でな。ヘルメットのバイザーがモニターになってるんだ。モニターで囲んじまうと場所もとるし金もかかるし、何かあった時に怪我するかも知れねぇだろ?」
「確かにそうですね。」
「ヘルメットの動きはマジカルの動きにリンクしてるからな。見たい方角をみれば首も動くし、カメラはマジカルの目とリンクしているからマジカルの目線で見れる。」
「凄いですね!」
「手や腰の動きは操縦桿で、足はペダルで動かす。バーニアもペダルだ。」
「マジカルは飛べるんですよね。」
「飛べるっつっても完全な単独飛行は出来ねぇよ。フルスロットで3分くらいなら上昇出来るって程度だが、これが出来るロボットは今のところマジカルだけだ。」
「それでも充分凄いです!源さんがマジカルを作ったんですか?」
「厳密に言えば俺一人じゃねぇ。俺達で作ったんだ。」
「そうなんだ~。すごいですね!」
「場所は狭いが動かしてみな。実際に動かしてみればシミュレーターと同じだとわかるはずだぜ。」
「はい。ありがとうございます。」
倫子は笑顔で答えた。
「ちょうどいい。ブルーはモーションリンクシステムに換装したから試乗してみな。」
「わかったわ。」
真美がそう言うと未祐が言った。
「プリティは?」
「プリティはやってねぇ。つーか出来ねぇ。あれだけアクロバチックに動くとなると、現行のモーションリンクシステムでは対応しきれねぇよ。」
「けちんぼなのだ。」
未祐がヒゲのおじさんに毒づいた。
「モーションリンクシステムで、あんな動きをしたら大怪我するぞ。だからプリティとグリーンには使わねぇ。その代わりに言われてたようにしといたから自分で確認しな。」
「わかったのだ。」
未祐はそう言って頷いた。
「タイムラグは全くないわね。」
真美は右手を何度も開いたり閉じたりしながら言った。
それに連動して、マジカルブルーも右手を開いたり閉じたりしている。
「よっと!」
真美はそう言って右足一本で立った。
マジカルブルーも同じ動きをとる。
真美の動きにあわせて、マジカルブルーの上半身が左右に細かく揺れたが、右足は微動だにしない。
「動きはいいわね。」
「マミタン調子はどうだ?」
真美のイヤホンから源さんの声が聞こえた。
「反応はいいわね。」
「こいつは向き不向きが激しいからな。1度実戦で試してみてくれ。それでダメなら元に戻す。」
「それよりこの格好はどうにかならないの?」
青いレオタード姿の真美は、機嫌が悪そうに言った。
手にはグローブ。
足には大きなサポーター。
体中には見たことも無い機械が取り付けられている。
「今はまだ無理だ。辛抱してくれ。」
「わかったわ。リンのほうはどう?」
「シミュレーターと全然変わらないよ!見て見て!こんなことまで出来るよ!」
倫子は嬉しそうに言った。
真美がペケ4に目を向けると、ぺケ4は何やら見たことも無いおかしな踊りを踊っている。
なんの儀式の踊りなのだろうか?
雨乞いか?
「だろ?プリティはどうだ?」
源さんも嬉しそうだ。
「気に入ったのだ。」
相変わらず抑揚のない声で未祐が言った。
「そりゃよかった。で、嬢ちゃんはどうする?乗るかい?」
「何かが足りないんです…。」
倫子はポツリと言った。
「何が足りないの?」
真美が不思議そうに尋ねた。
「わかんない…。何が足りないんだろう…。」
倫子は悩んでいる。
しばしの沈黙の後、源さんが口を開いた。
「わかった!アレが足りねぇんだな!俺に任せろ。マミタンと嬢ちゃんはマジカルをハンガーに戻して、マジカルの前で待ってな。」
「はい。」
「はーい。」
倫子と真美は返事をした。
倫子達がマジカルの前で源さんを待っていると、源さんがやって来た。
「何その恰好?」
真美は呆れた顔で言った。
「出た。ダメな大人なのだ。」
未祐の視線は氷のように冷たいが、二人がそう言うのも無理はない。
源さんは黒っぽいスーツを身に纏い、サングラスをかけているのだが問題はスーツだ。
まるで特撮に出てくる戦隊物のヒーローの司令官のようなスーツなのだ。
スーツを彩る装飾品一つにしても、何のために付けているのかすらわからない。
その胸にいっぱい付いている勲章は、なんの勲章なのかと聞きたくなるほどだ。
呆れる二人をよそに倫子の目が輝きだした。
「倫子よ。マジカルに乗れ。」
源さんは渋くて格好いい声で、静かに言った。
真美 「はぁ?」
未祐 「はぁ?」
真美と未祐が声をあげたその時、倫子の体に雷が落ちた!
倫子の体がゾクゾクと震える。
『これこれこれ!これが足りひんかったんよ!』
「私!マジカルに乗ります!」
倫子は声高らかに宣言した。
真美 「え?」
未祐 「え?」
真美と未祐は同時に倫子の顔を見た。
真美 「え?なんで?」
未祐 「なぜなのだ?」
そう言う真美と未祐の顔は呆けている。
倫子はマジカルに乗りたくないのではない。
いや、むしろ乗りたいのだ!
とはいえ
『アルバイトだからやってみる?』
『はい。』
というのは違う!絶対に違うのだ!
「君は選ばれた戦士なんだ!」
などと、見た事もないような未知の生物に言われたり
「これがあなたの運命なのです。」
などと、何の神様だかわからないような女神様に言われてもいいのだ。
いきなり戦火に巻き込まれ、偶然ロボットに乗る事になっても文句はないし、そんな過酷な状況ですらむしろウェルカムである。
しかし誘い言葉が『アルバイトでマジカルに乗る?』では倫子はマジカルには絶対に乗れない。
いや、乗りたくないのだ。
そう!ロボットに乗ると言うことは、衝撃的でなくてはいけない!
どんなアニメや漫画を見てもそういうものだ。
倫子が引っかかっていたのはそこだったのだ。
源さんはそこを見事に見抜いたのである。
「リンよ。お前は今日からマジカルのパイロット『マジカルリンリン』だ!」
源さんのこの一言から、源さんと倫子の茶番。いや、寸劇が始まり、真美と未祐はただただ立ちつくしながら二人のやり取りを見ている。
「マジカルリンリン…。」
「そう。『マジカルリンリン』がお前のコードネームだ。」
「はい。」
コードネーム…。なんと魅惑的な響きだろう。
倫子の胸はときめいてきた。
「マジカルは何色がいい?」
「ピンクでお願いします!」
「武器は何がいい?」
「小太刀でお願いします!」
真美 「小太刀!」
未祐 「小太刀!」
真美と未祐は素っ頓狂な声を出した。
「小太刀か…。わかった。一週間後には準備しよう。」
「ありがとうございます。」
倫子は頭を下げた。
「マミタンとプリティは、リンリンに実戦のシミュレーションをしてくれ。リンリンのデビューは一週間後だ。」
真美 「はぁ…。」
未祐 「はい…。」
真美と未祐は呆然としながら返事をした。
「話は以上だ。リンリン。君の活躍を期待している。」
謎の司令官。
いや、源さんはそう言うと踵を返して歩き出した。
やっと寸劇が終わったのだ。
真美と未祐は倫子の顔を見た。
倫子はうっとりとした表情で、去り行く源さんの背中を見つめている。
「今のはなんだったの…。」
真美が呟いた。
「わかんないのだ…。」
未祐もぽつりと呟いた。
とにもかくにも、倫子のマジカルデビュー決定!
やっと「マジカルリンリン」という単語が出てきました。
長かった…。
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