第二章 2話 「新しい力」
第二章 2話です。
いつも読んでくれてありがとうございます。
m(_ _)m
「これが新しいテヤンデーか…。」
青葉シティロード商店街会長 山本貫徹は、納入されたばかりのテヤンデーを見上げながら感慨深げに言った。
ハンガーにそびえ立つテヤンデーは、以前とは大幅に型が変わっている。
以前は丸かった顔は面長となり、太い眉と大きなどんぐり眼は、すっきりとした眉と凛々しい眼に生まれ変わり、おでこには分厚い額当てが付いている。
頭の上のちょんまげがまぶしいのは、相変わらずであるが。
以前よりも、シェイプアップされたボディには逞しさが溢れており、外装の色は紺色のままだが、襷を掛けている。
何より、腰帯の所に以前はなかった腰があるのが嬉しい。
何度みてもちょんまげがステキだ。
岡っ引きロボと呼ばれた「テヤンデー」は、10年の時を経た今、おしゃれ捕り物ロボットに生まれ変わったのだ!
「会長。新しいテヤンデーはどう?名付けて『テヤンデーウルトラスーパーDXターボ!』」
聖美は自慢げに言った。
なんという見事なネーミングセンスだろう。
顔の引き攣りが止まらなくなりそうである。
ターボなどタの字も付いていないにも関わらず、ターボと言い切るあたりに、聖美の神経の図太さが垣間見る事が出来る。
はっきりと問おう。
聖美よ。
なぜターボと名付けた。
「なかなかいい男になったじゃねぇか。あ、名前はこっちで考えるわ。」
会長はそう言って満足そうに新生テヤンデーを見た。
「新しい武器も用意したからね。」
「なにぃ!本当かい!」
会長は嬉しそうに叫んだ。
「まずは刺叉ね~。これで遠距離からの攻撃も出来るし、相手を取り押さえる事も出来るよ~。」
聖美はハンガーに置かれた、巨大な刺叉を指さしながら言った。
「おぉ!」
「十手はそのままだけど、右手の袖に『捕り物ネット』が内蔵されてるから、うまく使えば相手を絡み取れるよ~。」
「おおぉ!」
「左手の袖にもネットが内蔵されているけど、そっちは網目の細かい人命救助用だからね~。間違っちゃダメだよ~。」
「おおおぉ!」
会長は瞳を潤ませながら、おぉしか言わない。
きっと会長の頭の中では、生まれ変わったテヤンデーが荒くれロボットを相手に、大捕物を繰り広げているのだろう。
「あとは予備の十手もあるよ~。2本持つのもありかもね~。」
「聖美ちゃん!」
会長は聖美の手を両手で強く握った。
「ありがとう!ありがとう!これでテヤンデーはあと10年戦える!ありがとう!ありがとう!」
会長は聖美の手を握ったまま、上下にブンブンと振り回す。
かなりお気に召したようだ。
「ところでハチは?ハチはどうなったんでぃ?」
会長は心配そうに尋ねる。
好きにしてくれと言った以上、何をされても文句は言えないのだが、会長はハチの事が心配だったのだ。
「いらないから外したよ~。」
聖美はあっけらかんと言った。
「えぇぇぇぇぇぇ!」
会長は叫んだ。
「ウソウソ。ちゃんと残してるよ~。」
「よかった~。」
会長はほっと胸をなで下ろした。
「で、これが請求書。」
聖美はそう言って大きな封筒を会長に渡した。
「どれどれ…。」
会長は封筒を開け中身に目を通し始めた。
「え?とんとんと合わせてこれだけで済んだのかい?」
会長は驚いている。
先に支払った部品代を込みにしても、予算の半分も使っていない。
「しそーのゼミの生徒さん達が実習がてら手伝ってくれたからね~。材料もしそーが分けてくれたりしたんだよ~?請求書の食事代は生徒さん達のお弁当代なんだ~。今晩、熱血屋でお疲れ様パーティーをするんだ~。」
「よっしゃ!代金は俺が持つ!じゃんじゃんやってくれ!俺からのご祝儀だ!」
会長はそう言って胸を叩いた。
「やったぁ!ごちでーす!」
聖美はそう言って笑顔になった。
「しかしよ。この声優代金3万円ってのはなんだい?」
「あー。それはそのままの意味だよ。コクピットに入ったらわかるよ~。」
聖美はニヤリとしながら言った。
「そうかいそうかい。そりゃ楽しみだぜ。」
「あ、あとハンドルは操縦桿に変わっているけど、基本の操作はだいたい同じだから慣れてね~。」
「わかった!」
「メンテナンスは忘れないでよ。渡したマニュアルにやり方が書いてあるから、ちゃんとしてね。」
「わかった。ところでよぅ。そろそろ乗ってみてもいいかい?」
会長はうずうずしている。
「どうぞどうぞ~。」
聖美は笑顔で言った。
「うっひゃ~。」
まっさらなコクピットシートに座った会長は嬉しそうに声をあげると、ピカピカのコントロールパネルを優しく撫でながらうっとりとしだした。
コントロールパネルの前には、眠るように瞼を閉じるハチがちょこんと立っている。
「おめぇも綺麗にしてもらったんだな。ハチ。」
ピカピカに磨かれたハチを見て、会長は嬉しそうだ。
「コクピット周りはしそーが部品を出してくれたんだよ。いつも街を守ってくれてるお礼だってさ。最新型だよ?」
「ありがてぇ話だ。教授には感謝だな。」
「会長、灯を入れてみてよ~。」
「よっしゃ!」
会長は喜び勇んでスターターを回した。
コクピットに明かりが灯り、静かな音を立てながらテヤンデーが起動する。
するとハチの瞼がぱっちりと開き
「テヤンデー起動!ぐっあふたぬーん!おやびん!」
両腕を上げたハチが、口をパクパクとさせながら会長に挨拶をした。
「ハ!ハチ!お、おめぇ!自分で喋れるようになったのかい!」
「へい!おやびん!」
ハチは口をパクパクとさせながら言った。
「ハ、ハチぃ~。ハイカラに英語なんかつかいやがって~。」
「照れるぜおやびん。」
ハチが喋れるようになって、よほどに嬉しいのだろう。
会長は涙ぐんでいる。
「ハチは喋れるようにしたからね。ハチの言う事はよく聞いてよ~。ボクからのサービスだよ~。」
「うん。うん。ありがとうよ聖美ちゃん。」
会長は何度も頷いた。
「さっきの声優代金はハチの声の代金なんだよ~。」
「それにしても誰が声を入れてくれたんだい?随分とかわいらしい声じゃねぇか。ひょっとしてプロに頼んだのかい?」
「真美ちゃんだよ~。」
「え!真美ちゃんが声を入れてくれたのかい!」
会長は驚いた。
「そうだよ~。話しかけると返事をしてくれるからね~。あとでゆっくり話をしてみてよ。何しろ録音に3時間もかかったからね~。いっぱい喋るよ。」
「うんうん。ありがとう。ありがとう。」
聖美の話を聞き、感極まって泣き出した会長の涙は、なかなか止まることはなかった。
「お~い!聖美ちゃーん」
商店街副会長、石田丸夫はテヤンデーに手を振りながら叫んだ。
「なーにー!副会長さん~。」
聖美はテヤンデーのコクピットから身を乗り出しながら答えた。
「うちのとんとん何だけどさぁ!」
副会長は叫ぶ。
「すぐに降りるから待っててー!」
聖美はそう叫ぶと
「じゃ。あとはよろしくね。会長さん。」
と言って下へと降りていった。
「お待たせ!副会長さん。何か質問?」
「新しい装備なんだけどさぁ。あれなに?」
副会長はテヤンデーの隣のハンガーで立つ、ビックとんとんを見ながら尋ねた。
ビックとんとんの外見は一切変わらないが、右手にフライ返し、左手には大きなシルバーの平たいフライパンを持っている。
「あれは武器だよ。」
「武器?盾じゃないの?」
「フライパンは盾にもなるけど、あれで敵のロボットを殴れるんだ。いっつも殴られっぱなしはシャクでしょ?」
「えぇ!こ、攻撃してもいいのかい!」
副会長の顔が明るくなった。
「名付けて、ビックとんとん『ボコボコにしてやんよモード』!」
聖美は格好よく叫んだ。
なんと恐ろしいネーミングセンスだろう。
背筋が寒くなる一方である。
「ボコボコにしてやんよモード!」
副会長はカッと目を開いた。
「そ。いくら囮でも攻撃手段がないとまずいでしょ~?せめて反撃くらい出来ないとさ~。殴られっぱなしじゃ、ただのサンドバッグだよ~。」
聖美は悪戯っぽく笑った。
「いい!『ボコボコにしてやんよモード』すごくいい!これで殴られっぱなし人生とはサヨナラだー!」
副会長は両手を上げて叫ぶと、嬉しさのあまり泣きだした。
しかしまぁ、よく泣く大人たちである。
「とんとんは外見をイジらないでって言われたからさぁ~。せめて武器くらいはと思ってね~。ん?どしたの副会長?」
聖美がそう言って副会長を見ると、副会長は涙を流しながら目を閉じ、両方の拳を強く握りしめている。
「長かった…。苦節10年…。やっと…。やっと攻撃が出来る日が来た…。長かった…。10年は長かったよ…。」
「副会長?」
聖美は心配そうに副会長に声をかけた。
「ありがとう。ありがとう聖美ちゃん。これでとんとんは囮を卒業だよ!」
副会長は恍惚とした表情だ。
「え?」
聖美の目が点になった。
「あ、あのね副会長。とんとんは攻撃を出来るようになったけど、囮をやめたってわけじゃ…って、話聞いてる~?」
「もう二度と囮なんて言わせん!当て馬なんて言わせんぞ!1機残らず全部ボコボコにしてやんよ!わはははは!」
副会長は狂気に満ちた目で高らかに笑う。
その姿はまるで、B級映画に出てくるマッドサイエンティストのようだ。
「こりゃあダメだな…。」
聖美は頭を掻きながら呟いた。
「今度の出撃が楽しみだぜ!ボッコボコにしてやんよ!」
マッドサイエンティストと化した精肉店の店主は、意気揚々と叫んだ。
そんな副会長を、聖美は極めて冷ややかな目で見ていた。
『副会長よ。街が襲われるのを楽しみにするとはどういう了見だ。本末転倒にも程があるぞ。』
聖美はそう思ったが、口にする気力はすでに無かった。
テヤンデーとビックとんとんが生まれ変わりました。
会長と副会長は、次の出撃が楽しみのようです。
ちなみに聖美はネコ好きです。




