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第一章 番外編5「乙女座の人々『谷中聖美』」

第一章  番外編の最後です。


次回から第二章に突入します。


谷中やなか聖美さとみ20才。


熱血屋社員。出前チームの若きリーダーにして、熱血屋メカニックチームの一人。

小柄な体に健康的な肌色を持つ、ショートカットの元気娘で、竹を割ったようなような性格で非常に明るい。

これが倫子の持つ聖美の印象である。

残念な事に今の聖美はテヤンデーとビッグとんとんの改修で忙しく、朝食と寝る前のお風呂でしか倫子は顔を合わせていない。


聖美はメカとゲームのマニアなのだそうだが、この説明ではまだ足りない。

これにまだ「バイクマニア」という項目も、足さなければならないからだ。

熱血屋では「スーパーひとくん1号」「スーパーひとくん2号」というカスタムバイクにまたがり、青葉島中を出前で走り回っているらしい。

ちなみに1号は125ccで、2号は250ccだ。



聖美は熱血屋のメカニックでもあり、熱血屋の所有する出前用の車とバイク、ドローンの整備も担当しているらしい。

ゲームの腕前も大したものらしく、格闘ゲームとレースゲームでは「故里民(フルサトミン)」と言うハンドルネームで有名らしい。

らしいと言う言葉ばかりが出て来るが、実際に聖美とはあまり話が出来ていないのだから、確証が持てなくてもしょうがない。

倫子は、聖美とゆっくり話せる機会が出来れば話をしたいと思っており、聖美の事はいい人だという印象を持っている。



そんな当の本人(さとみ)は、しそーが青葉島の工業地域に所有する大きめのラボで、ビッグとんとんの最終稼動チェックに入っていた。

しそーのラボは建物は古い工場になっており、作業服を着た学生が10人ほど働いている。

まるで町工場のような佇まいであり、ラボラトリー(研究所)と呼ぶには程遠い雰囲気だ。


「本当に凄いエンジンとモーターだよね。エンジンのパワーは桁外れだし、モーターだって見てよあの動き。なんて滑らかなんだろう。音もほとんどしないよ。しそー。」

ピンクのキャップにピンクのつなぎ姿の聖美は、棒つきキャンディを咥えながら、隣に立つ白衣を着た老人に声をかけた。

「確かに。しかしこれじゃあ、モーターの機嫌がわかりづらいのぅ。」

あごひげに手を当てながらしそーは言った。


ラボの壁際の並ぶハンガーに置かれたビッグとんとんは、首を左右に回しながら両手を何度も動かし続けている。

まるでどこかの店先に置かれた、客引きの看板ロボットのようだ。

その隣には外装を外された(丸裸の)テヤンデーが並んでおり、何人もの作業員に囲まれている。

フレームを剥き出しにした無機質なボディは、あまりにロボットらしくていつもとは全く違う印象であり、学生達はラボの中で電動工具を片手に忙しなく作業をしている。



「確かにわかりにくいよね~。結局、エンジンもモーターも洗浄しか出来なかったしね。それでもここまで動くんだから、本当に10年も使ってたのかなって疑っちゃうよ。」

聖美はキャンディの棒をピコピコと上下に動かしながら、半ば呆れ気味に言った。

「しかし今のわしらではイジりようがないからのぅ。」

どうやらしそーもお手上げのようだ。


聖美はテヤンデーとビッグとんとんをラボに運びこんだ後、早速エンジンとモーターを外したが、機体から取り外しては見たものの、今まで見たことも無いような型のエンジンだったので聖美は首を傾げた。

エンジンのサイズはかなり小さくてコンパクトなのだが、動かしてみると、とんでもないパワーを持っている。

モーターも市販の1番大きな大型モーターよりも、パワーがあるのは間違いなかった。

聖美は図面とにらめっこをしたが、さすがにエンジンやモーターの詳細まで記載されている訳がなく「SKエンジン」と「SKモーター」と言う名称しか判らなかった。

メーカーもわからなければ、聞いた事もない名前だ。



困った聖美は急遽しそーを呼び出し、二人でバラしにかかったのだが、二人がかりでも無理っぽかったのでやめた。

下手に触ると復元すら出来なくなってしまう恐れもあるからであり、2人としては是非ともバラして解析したかったのだが、結局、マニュアル通りにエンジンとモーターを洗浄だけする事にした。



「しそーに無理ならボクには無理だよ。天才っているんだね~。既成のエンジンやモーターとは全く違う造りになっているんだもん。お手上げだよ。」

そう言う聖美は少し悔しそうだ。

「ここまで実力に差があると、悔しいという気持ちも失せるの。テヤンデーとビッグとんとんが10年も現役でやってこれたわけじゃ。しかし思っていたより早く仕上がったの。」


「とんとんはコーティングで外装ふくの強度をあげて、エンジンと駆動系以外を現行モデルに変えただけで済んだからね。費用もかなり抑えられたし外見はイジれないから、代わりに新しい武器を用意したんだ~。」

「あれか!」

しそーはハンガーの横に置かれている銀色に光る巨大な洋風のフライパンと、フライ返しを指さしながら楽しそうに言った。


「テヤンデーの方も似たようなもんだけど、手持ちの他にも内蔵武器を付けたんだ。岡っ引きとは言え、十手だけじゃさすがにかわいそうだしね。外見も少し変わっちゃうけど。」

「コクピットのあの人形はどうしたんじゃ?」

しそーは眉をひそめた。

名前が思い出せないようだ。

「あぁ、ハチの事だね~。あれは改造したよ。会長さんも喜ぶと思うよ。」

聖美はそう言ってニヤリと笑った。



「しかしとんでもないエンジンとモーターじゃな。これだけのパワーがあれば、夢の変形ロボットも作れるかもしれんな。」

しそーは感心しているようだ。

「でも8年前には、青葉島ここに可変戦闘機が現れたんでしょ?」

「『青葉島の亡霊(ファントムオブアオバ)』じゃな。あくまで噂じゃ噂。今の自衛隊にすら可変戦闘機は配備されとらんのじゃぞ?」

「やっぱりただの噂なのかなぁ~。でもこのパワーと大きさなら可能な気がするんだけどな~。」

「モーターとエンジンだけなら、もう少し小型化出来れば、充分可能じゃろうな。だが可変機能や耐久性を考えると無理じゃろう。他に問題が多すぎるのぅ。」

「やっぱり、現行機の最高峰はマジカルなのかな~。」

聖美は腕を組みながら頭を捻る。


「ありゃ規格外中の規格外(化け物)じゃ。何しろ飛びよるからな。構造ですら見当もつかん。自衛隊も血眼で探しとるんじゃろ」

「でも、自衛隊が動いてる気配はないな~。」

「その方が不自然じゃな。多分、見えない所で動いとるんじゃろ。」

「そうだよね~。少なくとも小松崎とARC(アーク)、川テクの3社は間違いなく影で動いているはずだし…。」

そう言って聖美は顔を顰めている。



「じゃろうな。そういえば近々、新しい自衛隊の特機のコンペがあるそうじゃぞ。」

しそーは思い出したように言った。

「へー。いよいよ新型機の導入かな?それともいよいよ第8世代に突入するのかな?小松崎は前みたいな目に遭わなきゃいいけどね~。」

聖美はそう言って、さも面白そうに笑った。

「それも噂じゃろ?もし本当なら面白い話じゃがのぅ。」

しそーもそう言ってニヤリと笑う。

青葉島(ここ)は噂ばっかだね~。」

チュパチュパと棒つきキャンディを舐めながら聖美は言った。



「人の世など噂ばかりじゃ。中には思いも寄らぬ真実も混ざっておるから面白い。ところでこれが終われば、とんとんの方は昼には納入出来るのぅ。」

「うん。油も充分馴染んできたみたいだし、あと一時間で終わりだね。しそーは車の手配よろしく!」

「昼過ぎに来るように手配しておる。しかし予定より早く終わったのぅ。いつもみたいに徹夜したのか?」

「毎日、日が変わる前には帰ってるよ。そしたら頭も体も調子がよくってさぁ。とんとん拍子で終わっちゃった。自分でもびっくりだよ。」

「いつもは泊まり込みが当たり前なのにのぅ。どうりで机の上がいつもより綺麗なんじゃな。」

しそーは傍らの作業机の上を見ながら言った。


テーブルの上にはすごい量の図面と、空になったペットボトルが散乱している。

決して綺麗とは言えないが、いつもならこれにカップラーメンの容器やお弁当の容器。

それにお菓子の袋やプリンの容器等が散乱しているので、それと比べれば綺麗だと言うのだろう。



「なんでも集中すればいいってもんじゃないんだね~。いい勉強になったよ。」

聖美はそう言って笑った。

「ま、なんにしろ無理はいかんな。」

しそーは笑いながら言った。

「おばさんには感謝だよ。」

「おばさん?」

「そ。すんごいおばさんに教わったんだ。いい仕事をしたいなら、ちゃんと寝てちゃんと食べるんだって。」

聖美は笑顔でそう言った。

「それはまさしく金言じゃな。」

しそーはそう言うと深く頷いた。

第一章だけで、10万字を越えました。


これが普通なのかすら、わかりませんが(笑)

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