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第一章 23話 「美智子さん七変化」

第一章 第23話です。

「桜子さん。お店の衣装を貸してもらえますやろか?」

美智子は唐突に言った。

「はい?」

突然の美智子の申し出に桜子は首を傾げ、真美と未祐と倫子はポカンと口を開き、倫子は頭を抱えた。


「入学式まで乙女座ここにお世話になるんやさかい。せめてお店のお手伝いくらいさせてもらおうと思いまして。」

美智子はニッコリ笑う。

「いえいえそんな。」

桜子は慌てて手を振った。


「そやかて大の大人が、なんにもせんとお世話になるわけにはいきませんやろ?それに倫子の職場も見てみたいですさかい。ね?桜子さん。」

美智子にそう言われた桜子はしばらく考えていたが

「わかりました。それではお願いします。」

と言って頭を下げた。



「それじゃあ衣装部屋へ行きましょ!おば様。」

真美は笑顔でそういうと美智子の手を引いた。

「私も行くのだ。」

倫子は未祐まで付いて行くと言い出したので驚いた。

「ほな行きましょか。なんやえらい楽しみやわぁ。」

美智子はウキウキしているようだ。

『何を着るつもりなん?お母さん…。』

倫子は衣装部屋にズラリと並んだ衣装を思い出しながら、顔が青くなった。


美智子は常に着物を着ており、年に数回連れて行ってもらえる外食以外で美智子が洋服を着ているのを、倫子は見たことがなかったからだ。

様々なコスプレをした美智子が、倫子の頭に浮かんでは消えていく。

『ないないない!ないわぁ。』

倫子は頭を左右に激しく振った。

「倫子。はよ行きましょ。」

美智子はそう言うと、真美と未祐に連れられリビングを出て行った。



「いやぁ。ぎょうさん衣装があるんやねぇ…。こんだけあったら目移りしてしまうわぁ。」

ズラリと並んだ衣装を見渡しながら、美智子は感嘆の声をあげた。

「ねぇおば様。何にする?何がいい?」

真美は明らかにはしゃいでいる。

「リンちゃんママはなんでも似合うのだ。」

未祐も未祐なりに楽しんでいるようだ。

「未祐ちゃんありがとうねぇ。そうやねぇ…。何がええかしらねぇ…。」

ズラリと並んだ衣装を手に取りながら、美智子が言った。

「ねぇおば様。これなんかどう?」

そう言って真美が手にしたのは、客室乗務員(キャビンアテンダント)の制服だった。

『いきなり客室乗務員(キャビンアテンダント)きたー!』

倫子は目を剥いて驚いた。


「リンちゃんママ。これは?」

そう言って未祐が手に持つのは、受付嬢のようなスーツだ。

『受付嬢かー!そうきたかー!』

倫子のツッコミセンサーはフル稼働だ。

「どっちもええねぇ。着てみよか?」

「こっちが先ね!」

「マミちゃんは後なのだ。こっちが先なのだ。」

真美と未祐が小競り合いを始めた。

『ケンカはやめてぇ~。』

倫子はあたふたしている。

「じゃあ、最初は真美ちゃんが選んでくれたんから着て、次は未祐ちゃんの選んでくれたんから着るわね。」

「わかった。次も探す。」

未祐はそう言って頷いた。



「どうやろ倫子?似合てるやろか?」

客室乗務員になった美智子は笑顔で尋ねた。

「似合う似合う!」

真美は手を叩く。

「すごく似合ってるのだ。」

未祐まで手を叩きだした。

「そう?なんや恥ずかしなるねぇ。」

美智子はそう言いながら鏡に映る自分を見た。


「倫子。写真を撮ってちょうだい。」

「しゃ!しゃ、しゃ、しゃ、しゃしん!」

倫子は心臓が止まりそうなくらい驚いた。

万寿夫(ますお)さんに送ったげよう思て。」

「え!お父さんに送るの!」

倫子の心臓が止まりそうになった。

『お父さん。心臓止まらへんやろか…。』

倫子は父の心臓を心配したが、まずは自分の心臓を心配するべきだろう。


「う、うん。わかった。撮るね。」

倫子はタブレットを取り出し撮影を始めた。

「写真が撮れたら、わたしのとこに送ってね。わたしから万寿夫(ますお)さんに送るから。」

美智子は澄まし顔で言った。

「うん。」

倫子は写真を撮りながら返事をした。



それから美智子は「客室乗務員キャビンアテンダント」「受付嬢」「ヴィクトリア調のドレス」「ウェイトレス」「チャイナ服」「看護師」と変身を重ねた。

「おば様それも似合う~。」

「それもいいけど、これはどうかな?」

美智子が変身する度に、真美と未祐は美智子を称賛する。

倫子はカメラのシャッターを切り続け、気がつけば100枚近く写真を撮っていた。



「楽しかったわぁ。こんなん初めてやわぁ。」

美智子は満足げに言った。

「おば様。どれにするの?」

「どれにするの?」

真美と未祐は興味津々だ。

「困ったわぁ。2人に選んでもろたんがみんな良すぎて、決められへんわ~。」

美智子は困った顔をした。

「倫子はどれがええと思う?」

美智子に急に振られて倫子は焦った。

『え?わ、わたしに振んの!』

見れば真美と未祐が共に

『もちろんあたしのだよね?』

という期待に満ちた熱い眼差しを倫子に送っている。



「どれも似合ってるけど、着物なんて着てみたらどうかなぁ…。」

2人のプレッシャーに耐えきれず、苦し紛れに放った倫子の一言が真美と未祐にクリティカルダメージを与えた。

『その手があったか!』

2人ともそんな顔をしている。

目から鱗とはこの事のようだ。


「そしたら真美ちゃんと未祐ちゃんで、着物と帯を選んでもらえへんやろか?」

美智子がそう言うやいなや

真美 「あたしが着物を選ぶ!」

未祐 「じゃあ私は帯なのだ。」

真美と未祐はそう言うと、着物と帯の入った箪笥へと駆けだした。



「どうやろ?似合うやろか?」

2人が選んだ着物と帯を身に纏った美智子が尋ねた。

真美 「すっごく似合ってる…。」

未祐 「リンちゃんママ綺麗なのだ…。」

と、うっとりしながら言った。

美智子は紺の着物にカラフルな帯を巻いた出で立ちは、驚くほどしっくりときている。

長い黒髪がなびいているのもいい。

「ほんまに?大丈夫やろか?」

美智子の問いかけに、真美と未祐は美智子にサムズアップで返した。

「そしたらこれにしましょか。真美ちゃん、未祐ちゃん。選んでくれてありがとうね。」

美智子は笑顔で言った。

『よかった~。両方の顔をつぶさんで済んだわ~。』

倫子はホッと胸をなで下ろした。



熱血屋で働きだした美智子は見事な働きを見せた。

長い髪を後ろでまとめた美智子は、店内を忙しく動き回りながらも汗一つかかず、初めての熱血屋(お店)とは思えないほどテキパキと仕事をこなしている。

美智子は家族連れのテーブルに行くと、必ず子供に話かけて家族を和ませ、サラリーマン達からも

「お~!」

「風情があるなぁ。」

「雅だねぇ~。」

などと言われてなかなかの人気だ。



遅い時間にもなると中には酒に酔っぱらって態度の悪い客もいたが、美智子は慣れた様子でいとも簡単にあしらった。

それを見ていた真美と真奈美は「りんちゃんママはすごいわねぇ。勉強になるわぁ。」と言って真奈美は感心し

「本当よねぇ。」

真美は横から真美に手を伸ばしてくる、酔っ払いの顔面にパンチをお見舞いしつつ言った。

ドッ!と周りの客達が沸く。


「バカかお前は!」

痛そうに顔を押さえる酔っ払いの頭をはたきながら、仲間の客が言った。

「ホイさんに捌かれるぞ。」

「ヒゲさんに三枚に下ろされろ!」

「出禁になったら、タダじゃすまさんからな!」

「潔く腹を切れ!」

殴られた男は介護されるどころか、他の仲間達もボロクソにけなしだした。



そんな騒ぎには目もくれず、倫子は相変わらず必死で働いていると途中で会長と副会長が来店し、美智子は2人と話をし始めた。

「見て。会長ったら鼻の下伸ばしまくってるわよ。」

真美がニヤニヤしながら言う。

「副会長もデレデレね。」

真奈美がそう言って笑うと、美智子が倫子を手招きをして、倫子は慌ててテーブルに向かった。


「あれってさぁ。どう見ても母娘おやこには見えないよね?」

真美の言葉を聞き真奈美が言った。

「そうね。どう見ても『女将さんが常連さんに、新人の女中さんを紹介している所』にしか見えないわ。」

真美と真奈美は声を出して笑った。




それから4日が経ち、倫子と真美の入学式が終わった次の日の朝。

美智子は熱血屋の前で、熱血屋の人々を前に挨拶をしていた。

「皆様には大変お世話になりました。ありがとうございました。」

美智子が深く頭を下げると同時に拍手が起こった。

「こちらこそ大変お世話になりました。」

桜子もそう言って頭を下げる。

「おば様また来てね。」

真美は寂しそうだ。

「美智子ママ。また来て欲しいのだ…。」

未祐も寂しげに言う。

「真美ちゃんも未祐ちゃんも、いっぺん京都に遊びに来てね。おばちゃん待ってるさかいね。」

美智子は笑顔でそう言った。

「これお弁当ね。ホイさん作ったね。」

ホイさんはそう言って、弁当の入った紙袋を美智子に手渡した。

「あら嬉しいわぁ。帰りの新幹線の楽しみが出来たわぁ。」

美智子は嬉しそうに言った。

「皆様。倫子の事をよろしくお願いします。それでは失礼いたします。」

美智子はそう言って、再び頭を深く下げた。




青葉港へ向かうタクシーの中、美智子が隣りに座る倫子に話しかけた。

「熱血屋の人はみんなええ人やねぇ。お土産もぎょうさん頂いてしもうたわ。」

「うん。いい人ばっかりやね。」

「そやけど、人のえにしはほんまに不思議やねぇ…。アパートも壊されてみるもんやね?」

「ふふふっ。そうやね。」

茶目っ気たっぷりな美智子に、倫子は笑いかけた。

「夏休みには真美ちゃんと未祐ちゃんも連れて、京都に帰ってきなさいよ。万寿夫ますおさんが寂しがって死んでしまうかもしれんしね。」

「ふふふっ。」

「しっかりがんばんなさいよ。」

「うん。」

倫子は力強く頷いた。

第一章の最終話です。


しばらく第一章の番外編が続きます。


最近、天候が変わってきました。

季節の変わり目ですので、体にお気をつけ下さい。

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