第一章 22話「乙女座ファッションショー」
第一章 22話です。
やっとここまで来ました。
倫子と真美、未祐の3人が熱血屋へ行くと、奥の座敷にシックな洋服を着た美智子が座っていた。
桜子とホイさんも同席している。
真美と未祐が一緒なのは、美智子が2人にも来てほしいと頼んだからだ。
「お母さん。ホイさんも。」
倫子はホイさんがいてびっくりした。
「ホイさん料理長。お母さんとお話したね。」
ホイさんは笑っている。
「そちらが青山真美さんと六本木未祐ちゃんやね。初めまして。倫子の母、神楽坂美智子です。」
美智子はそう言うと正座をし直し、畳に手をついて頭を下げた。
「いえいえそんな!」
真美はそう言って慌てているが、未祐は目を見開いたまま動かない。
美智子は顔を上げると、真美と未祐の顔をじっくりと見たあと
「二人ともべっぴんさんやねぇ。未祐ちゃんはお人形さんみたいに可愛いらしわぁ。」
と言って笑った。
「いえ、そんな…。」
真美は照れているようだ。
「ありがとう…なのだ。」
未祐も顔をほのかに赤らめている。
「うちの倫子がご迷惑をお掛けしてませんやろか?ぽーっとした子ですよってに心配で…。」
真美 「いえいえ。そんなことないです。」
未祐 「大丈夫なのだ。そんなことないのだ…。」
「そうですか。そう言うてもろうて安心しましたわ。」
美智子は笑った。
「先に話を決めましょか。倫子。詳しい経緯やらこれからの事は、先に桜子さんとホイさんと3人でお話させてもらいましたけど、倫子はどうしたいのんです?」
「私は…。」
倫子は言葉に詰まった。
「言いたい事ははっきり言いなさいな。」
「私は熱血屋で働きたい。熱血屋でお世話になりたい。」
倫子は美智子の目を見ながらはっきりと答えた。
「桜子さんホイさん。お聞きの通りです。ご迷惑をお掛けするとは思いますが、娘の事をお願い出来ませんでしょうか。よろしくお願い致します。」
美智子はそう言って再び畳に手を付き、深く頭を下げた。
桜子 「お母さんそんな!頭をお上げください。」
ホイさん 「そんな事されたら。ホイさん困っちゃう。」
桜子とホイさんは慌てている。
「何分、女の子ですよってに甘やかしてきたところが多々あります。親の不徳ではありますけれども、何卒よろしゅうお願い申し上げます。」
頭を上げた美智子はそう言うと、再び頭を深く下げた。
桜子 「倫子ちゃんはよく頑張ってくれました。」
ホイさん 「熱血屋の仕事キツイね。リンちゃんよく働く。よく食べる。大丈夫ね。」
ホイさんは笑いながら言った。
「こちらこそよろしくお願いします。」
桜子はそう言って頭を下げた。
美智子は頭を上げると
「これでええんやね?倫子。」
と言って倫子に笑いかけた。
「ほんまにええのん?お母さん。」
倫子が不安そうに言った。
「ええも悪いもありますかいな。倫子がやりたいようにやったらよろしいがな。それにお母さん。熱血屋さんを見ていっぺんに気に入りましたわ。熱血屋さんにはええ風が吹いてます。お母さんも働いてみたいくらいやわ。」
「お母さん…。」
「そしたら話も終わったし。真美ちゃん未祐ちゃん。おばちゃんと倫子の4人でデートしよか?」
美智子は真美と未祐に悪戯っぽく笑いかけた。
真美 「デート?」
未祐 「デート…。」
真美と未祐は同時に呟いた。
「お母さん。デートって?」
倫子が不思議そうに尋ねた。
「あんたの服やらなんやら、買い揃えなあきませんやんか。入学式のスーツもあらへんのに。どうするつもりなん?」
「あ!」
倫子はバタバタしていて忘れていたが、確かにそうだ。
今の手持ちの衣服は三日分もない。
「そやけど、私も倫子もこの街の事は何にも知りませんやろ?よかったら真美ちゃんと未祐ちゃんに、案内してもらえたらと思てね。そやから真美ちゃん未祐ちゃん。デートしましょ?」
真美と未祐は桜子の顔を見た。
桜子はニコニコと笑っている。
真美 「はい。」
未祐 「はい。」
「真美ちゃん未祐ちゃん、迷惑かけてごめんね。それと倫子。商店街の方からお見舞い金をもろたんでしょ?」
倫子は慌てて鞄から封筒を取り出して美智子に渡した。
「えらいぎょうさんもろたんやねぇ。あとでご挨拶にお伺いせんとあかんねぇ。」
封筒を手にした美智子は驚いている。
「そしたら行きましょか。桜子さん。ホイさん。ひとまずお話はこれで…。」
桜子 「気をつけて行って来てくださいね。」
ホイさん 「ママさん。あとでホイさんの料理食べるね。」
「それはそれは楽しみやわぁ。それでは失礼致します。」
美智子はそう言って席から立つと、桜子とホイさんに一礼した。
「そしたらデートしましょ!デート!」
美智子はルンルン気分で真美と未祐に言った。
それから4人は島のショップをハシゴして回った。
「これなんか真美ちゃんに似合いそうやねぇ。未祐ちゃんにこれはどう?」
「あ、この服可愛いらしわぁ!未祐ちゃんに似合いそう!未祐ちゃん着てみいひん?」
「このスーツ。倫子には大人っぽ過ぎるけど、真美ちゃんにはぴったりちゃう?真美ちゃん1回着てみてよ。」
「真美ちゃんも未祐ちゃんもなんでもよう似合うねぇ。うらやましいわぁ。」
とまあ、こんな感じで美智子は、倫子そっちのけで真美と未祐を相手にはしゃぎまくった。
「これもええねぇ。絶対似合うわぁ。」
と言って美智子がなんでも買おうとするので、真美と未祐が遠慮すると
「そんないけず言わんと、おばちゃんにおめかししてるとこをゆっくり見せてぇな~。」
と言って体を左右に振りながら駄々をこねては、さっさと商品を持って会計を済ませて行くが、倫子ははしゃぐ美智子とは対象的に、自分の必要なものを一人で選んで買っている。
「ねぇリン。おば様は無理してない?」
真美は倫子の耳元で囁いた。
「戸惑うのだ…。」
未祐まで不安そうだ。
「お母さんにはそんな事は出来ないよ。」
「え?」
「え?」
真美と未祐は驚いた。
「お母さんはお店にいる時はおべんちゃらも言うけど、外に出たらそんな事しないの。出来ないの。本当にはしゃいでるよ。楽しいんだよ。」
真美 「そうなの?」
未祐 「意外なのだ…。」
「ここには知り合いがいないから、特に楽しいんじゃないかな?だからマミちゃんもミユちゃんも気を使わないで。気を使われると、あとですっごくへこむから。」
「でも結構買って貰ったわよ?すごい金額よ?」
真美は不安そうだ。
「もう持ちきれないのだ…。」
未祐も不安そうだ。
「いいのいいの。気にしないでお母さんのやりたいようにやらしてあげて。」
倫子はそう言って笑った。
4人が乙女座に着いた時、全員の両手は荷物で埋まっていた。
何しろエレベーターのボタンを押すのにも苦労したほどだ。
美智子は乙女座に入る為の儀式を終えると
「ハルさんてすごいんやねぇ。うちとは大違いやわぁ。」
と言って感激し、中を案内されると
「ハイテクなお家やねぇ。お風呂もお部屋も大きし綺麗やしオシャレやねぇ。私が住みたいくらいやわぁ。倫子。アパートが潰れてよかったと思うてない?」
などと言うものだから倫子は恥ずかしかったが、桜子や真美どころか未祐まで笑っていた。
リビングで美智子の買ってきたケーキをみんなで食べ終えると、テーブルが取り払われて真美と未祐のファッションショーが始まった。
次々と衣装を変えていくモデルの2人は、登場する度に観客の拍手喝采を浴び称賛を受けた。
「ほらやっぱり似合うやん。そのジャケットはさっきのスカートに合わしてもええねぇ。」
と言って、美智子が拍手をすると
「未祐ちゃんも真美ちゃんも、よく似合っているわ~。」
桜子もそう言って手を叩いて喜んだ。
最初は照れていた2人も、途中からは澄まし顔で登場するなどして大分慣れてきたようだ。
「おば様ありがとう!大切に着るね!」
真美は嬉しそうに美智子に言った。
「リンちゃんママありがとうなのだ。私も大事にするのだ。」
未祐も照れながら言う。
「私が好きでやったことやさかい気にせんとってね。よう似合うててよかったわ~。べっぴんさんが着ると格別やねぇ。」
美智子はそう言うと嬉しそうに笑った。
ガチャ! ドタドタドタ!
リビングのドアが突然勢いよく開いたかと思うと、大量の紙の束を持った聖美が、リビングに飛び込んできた。
未祐 「おかえりなのだ。」
桜子 「おかえりなさい。」
倫子 「おかえりなさい。」
美智子 「おかえりなさい。」
真美 「おかえりサトミン。ケーキがあるわよ。」
「ただいま~。ケーキはあとで~。」
サトミンはそう言って風のようにリビングを駆け抜けると、自分の部屋へと向かった。
「元気な娘さんやねぇ。」
美智子は微笑ましくサトミンを見ていた。
「騒がしくてすいません。」
桜子がそう言うと
「いえいえ。あれくらい元気なほうがええんよ。何か楽しい事でもあったんやろか?あないに嬉しそうな顔をしてからに。」
ドタドタドタ! ガチャ! ドタドタ!
慌ただしく再び現れたサトミン。
背中には大きなリュックを背負っている。
「サトミンストップ!」
真美が声を上げた。
急停止するサトミン。
「何?」
「サトミン。ステイ!」
真美がそう言うと、サトミンは直立不動の体勢をとった。
「ボクは犬じゃないぞ!」
聖美はそう言って笑った。
「聖美ちゃん。お客様がおいでなのよ。」
桜子が聖美に優しく言った。
サトミンは美智子の顔を見ると
「はじめまして。谷中聖美です。よろしくお願いします。」
と言って頭を下げた。
美智子はソファーから立ち上がると
「神楽坂倫子の母。神楽坂美智子です。」
と言って頭を下げた。
「リンちゃんのお母さん!初めまして!」
サトミンは元気よく言った。
「ちょっとええかしら?」
美智子はそう言ってサトミンに近づくと、大きく胸元の開いたつなぎのボタンを止め始めた。
「若こうて可愛らしい女の子が、そないにサービスする必要はおませんで。」
ボタンを止めながら美智子は笑う。
「は、はい。ありがとうございます。」
「えらい急いではるみたいやけど何かあったんかしら?はい。これでよろしいわ。」
「ありがとうございます。ボ!わ、わたしは今から仕事で行かなきゃならない所があって。しばらく泊まり込ん…。」
サトミンはまくしたてるように言った。
「ここから遠いんですか?」
美智子は優しく尋ねた。
「バイクで10分くらい…。」
「ほな、お家に帰って来られるわねぇ。」
「でも急いでやらなきゃ…。」
「聖美ちゃん。ええ仕事がしたいんやったら、焦ったらあきまへん。夜更かしもあきまへんえ。ちゃんと食べてちゃんと寝んと、ええ仕事は出来しまへんえ。」
美智子はサトミンの目を見ながら優しく言った。
その目は諭すでもなく注意をするわけでもなく、ただただ相手を気遣う優しい目だった。
「はい!」
サトミンは元気よく返事をした。
「まずは座ってケーキでもどうです?」
「はい。いただきます。」
サトミンはそう言うと、リュックを降ろしソファーに座った。
「はい。どうぞ。」
美智子はいちごのショートケーキの載ったお皿とフォークをサトミンに手渡した。
「いただきます。」
サトミンはそういうと、ケーキを食べ始めた。
「お味はどないです?」
「おいしいです。」
サトミンはさっきまでが嘘だったかのように静かにゆっくり、ケーキを味わっている。
「頑張るのはええ事ですけど、焦らんとゆっくりやりましょか?」
「はい。」
サトミンは笑顔でそう言うと、おいしそうにパクパクとケーキを平らげた。
「それじゃあ行ってきます。桜子さん。日が変わるまでには帰ってくるから晩御飯は置いといてね。おばさんありがとう。おかげでリラックス出来ました。」
サトミンはそう言って一礼すると、リュックを背負ってゆっくり歩いてリビングを出て行った。
「晩御飯はちゃんと置いておくわね。いってらっしゃい。」
「いってらっしゃい。頑張ってね!」
美智子はエールを送った。
この光景をポカンと口を開けて見ていた人物がいた。
真美と未祐である。
『あの猛獣を手なずけた!』
真美はそう思った。
『サトミンが歩いてるのだ。』
未祐はそう思った。
2人ともゆっくり歩くサトミンを見たのは、初めてだったのだ。
道のりは遠いです。




