第一章 20話「もういやだー!」
第一章 20話です。
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そこはモニターの光しかない真っ暗な部屋だった。
この部屋がどこにあるのかは誰も知らない。
何のために作られ、何のために使われているのかもわからない。
知っているのはこの部屋にいる、3人の男達だけだ。
「さすがだな。」
真っ暗な部屋の中、モニターに映るマジカルグリーンの動きを見ながら自分の事を「俺」と呼ぶ男が呟いた。
暗がりの中だというのにサングラスをかけている。あごひげも生やしているようだ。
「そうですね。」
自分の事を「僕」と呼ぶ男は同意した。
眼鏡にモニターの画面が映っている。
「そうだな。」
自分の事を「私」と呼ぶ男はそう言いながら、モニターの中のマジカルプリティの動きを凝視している。
後ろ姿しか見えないが、長い髪を後ろで束ねているようだ。
「やはりグリーンが1番、機体性能を引き出しているな。」
俺がそう言うと僕も言った。
「プリティもいいですね。あの動きはなかなか出来ない。」
「乙女達の方は順調だが、問題は商店街の連中だな。」
私がため息まじりに言う。
「もう10年か…。そろそろ限界だろうなぁ。」
俺は頭を掻いた。
「あの機体で8年前のあれを乗り越えたんですからね。今思えば大したものですよ。」
「半分以上スクラップで出来てるのにな。」
俺はそう言って笑った。
「最近のロボットも性能が上がってるからな。そろそろバージョンアップも視野に入れないとまずいだろう。」
私がモニターに映るテヤンデーを見ながら言った。
「バージョンアップねぇ…。」
俺は頭を抱えた。
「なかなか難しい問題ですねぇ…。」
僕も腕を組みながら唸る。
「困ったな…。」
私もそう言って悩んでいた。
「はぁ~。」
暗闇の中、3人のため息だけが聞こえた。
青葉模型店主。蔵太太は、基地の固い床の上で大の字になり、右手にスパナを握ったまま気持ちよさげにいびきをかいていた。
「こら!模型屋!起きやがれ!」
貫徹は幸せそうな寝顔を浮かべ、大きなお腹を大きく上下させている蔵太に向かって歩きながら叫んだ。
後ろには副会長がいる。
「んん?なに?ごはん?」
何度も目を擦りながら蔵太は目を覚ました。
「やい太!てめぇ!テヤンデーのメンテが出来てねぇじゃねぇか!」
貫徹は蔵太の体を大きく揺さぶりながら叫ぶ。
「会長~。また壊したんですかぁ~。もぉ勘弁して下さいよぉ~。」
「バカヤロー!壊したんじゃねぇ!壊れたままだったんだよぉ!」
「え!」
蔵太はガバッと起き上がった。
「それとよ。ハチのやつも直してくれねぇかな?」
貫徹がすまなさそうに言う。
テヤンデーのコクピットの中ではハチが
「てぇへんだ!おやびん!」「てぇへんだ!おやびん!」「てぇへんだ!おやびん!」
と連呼しながら、腕をバタバタとさせている。
「さっきから止まらなくってよぅ。うるさくて仕方ねぇんだ…。」
貫徹はそう言うとポリポリと頭を掻いた。
「もういやだ!もうたくさんだー!」
蔵太はそう叫ぶと、両手で顔を覆って泣き始めた。
「どうした太!」
「大丈夫ですか?蔵太さん?」
副会長も心配そうに声をかけた。
「だってねぇ会長!前のメカニックが辞めてから商店街のメカニックは今、僕とケントくんしかいないんですよ!昨日も徹夜でとんとんとテヤンデーを直したんですよ!こんなブラックな環境でやってたらそりゃ、メンテ不良も出ますよ!出て当然ですよ!」
「でもよぅ太~。メンテが出来るのは、おめぇとケントしかいねぇじゃねぇか~。」
貫徹は困った顔をした。
「ケントくんは大学の研究室に篭もりっきりで、もう3か月も顔を見てませんよ!」
「もうちっとばかり辛抱してくれや~。」
貫徹は猫なで声だ。
「だいたいねぇ!私はただの模型屋ですよ?ロボットの事は好きでも、ロボットの構造なんて全然わかんないんですよ!知識なんかないんです!それなのに毎回、傷だらけのテヤンデーと、とんとんを直してるんですよ!」
蔵太は叫んだ。
「それにしちゃあ上手くやってるじゃねぇか~。ガキの頃から模型作りが上手かったもんな?さすがは太だ!てぇしたもんだ!」
貫徹は蔵太に言った。
「模型とロボットは全然違いますよ!一緒にしないで下さい!もういやだー!もうたくさんだー!商店街の会計係に戻るんだー!帰ってお布団で寝るんだー!」
蔵太は泣きながら駄々をこねた。
40を過ぎた大の男がである。
「参っちまったなこりゃあ。」
貫徹はほとほと困り果てた。
「私だってねぇ!」
突然、副会長が叫んだ。
貫徹が副会長の方を見ると、副会長は拳をしっかりと握りしめながらわなわなと体を震わせている。
「私だってねぇ!とんとんを傷つけられるのが嫌なんだ!とんとんはうちの娘が描いた、かわいい店のマスコットなんだ!」
「副会長…。」
貫徹は言葉を失う。
「私は知ってるんですよ…。陰でとんとんが『当て馬』とか『絶対に当たる的』とか言われている事を…。」
貫徹は副会長の体から発せられる、異様な雰囲気を感じとった。
「は、初耳だなぁ…。き、気のせいじゃねぇのかい?」
貫徹はわざと副会長から視線を外しながら言った。
「あんまりだー!体を張って街を守っているとんとんが、あまりにもかわいそうだー!」
今度は副会長が泣き出した。
「勘弁してくれよぅ~。」
今度は貫徹が泣きたくなった。
「僕もロボットに乗りたいんだー!」
蔵太の叫びが、基地の中にこだました。
倫子は真美に案内され「青葉模型店」に辿り着いた。
青葉模型店は鉄筋建ての、なかなか大きな店である。
店先にはいろいろな模型のポスターが貼ってあり、かなりカラフルだ。
模型屋と言うだけあって広い店内には模型しかなく、壁に並んだ棚には様々な完成品の模型がずらりと並んでいる。
聖地とはまた違う雰囲気である。
店内に入ると真美が言った。
「こんにちはー!」
すると店の奥からショートカットでふくよかな、エプロン姿のおばさんが現れ
「あら真美ちゃん。店に来るなんて珍しいわね?どうしたの?」
真美に親しげに話かけた。
「登美子さん。ちょっと教えて欲しい事があるの。」
「なになになに?あら?そちらの人はお友達かしら?」
登美子と呼ばれたおばさんは、倫子を見ながら言った。
「熱血屋の新しいアルバイト予定の子なの。」
「予定?予定なの?変わってるわね。」
登美子はそう言って笑った。
「初めまして。神楽坂倫子です。」
倫子はお辞儀をした。
「青葉模型の蔵太登美子です。うちの亭主は今留守だけど、私でわかるかしら?」
「商店街のロボットのプラモデルって置いてありますか?」
倫子の質問に、登美子は即答した。
「あるわよ。と言うかうちにしかないわよ。」
倫子 「え?」
真美 「え?」
倫子と真美は同時に声をあげた。
「商店街のロボットはうちのオリジナル商品なのよ。何が欲しいの?とんとん?テヤンデー?ゴージャス?」
「全種類欲しいんですけど…。」
倫子がそう言うと、登美子が顔を顰めた。
「今は全部は揃ってないわねぇ…。でも、明日入荷するから明日なら揃うけど…。どうする?」
「それでしたら明日また来ます。」
「それなら取っておくけど自分で作るの?」
「いえ。お土産に頼まれたんです。」
「ならうちから郵送にすれば?送ってあげるわよ。」
「いいんですか?」
「全然大丈夫。送料はサービスするわ。」
「いいんですか!」
「いいわよ~。」
登美子はニッコリ笑った。
「おいくらですか?」
倫子は財布を取り出しながら、登美子に尋ねた。
「1個3000円で、7個あるから21000円だけど、20000円でいいわよ。サービスしちゃう。」
『たっか!』
倫子はそう思ったが口にはしない。
「うっわっ!高いわね!」
代わりに真美が言ってくれた。
「でしょ~?私もそう思うわ。それでもなぜか飛ぶように売れていくのよね~。」
登美子はそう言って首を傾げた。
「先に代金をお支払いします。」
倫子はそう言って、財布からお金を差し出した。
「それじゃあこっちに来て、送り状を書いてくれる?」
「はい。お願いします。」
2人は登美子に案内されて店の奥へと進んで行った。
カウンターで倫子が送り状を書いていると、真美と登美子が話を始めた。
「登美子さん店長は?」
「昨日から基地に入り浸りよ。晩御飯を持って行った時には、朝までかかるって泣いてたわ。」
登美子はそう言って笑った。
「店長も大変よねぇ。」
真美が気の毒そうに言うと、登美子が笑いながら言った。
「大変もなにも、ほとんど趣味みたいなもんよ。ブツブツ言いながらもやってるしね。女房に店を任せっきりにして、遊んでんだから世話ないわよ。」
「それもそうね。」
真美も笑っている。
「あ、お昼に出前頼める?」
「いつものですか?」
「そう。いつもの鯖味噌。店の面倒を全部任されてるんだから、週末くらい楽させて貰わないとね。真美ちゃんも神楽坂さんも私みたいになっちゃダメよ。旦那はいい人を捕まえないとね。」
「どうだかね~。」
真美はそう言うと、ニヤニヤと笑いだした。
「書き終わりました。」
倫子はそう言って、書き終えた送り状を登美子に手渡した。
「はい。それじゃあ責任を持って送らせて頂きます。あら?神楽坂さんのご実家は京都なの?」
登美子は送り状を見ながら言った。
「はい。」
「京都か…。いいわねぇ~。新婚旅行で行ったのよ~。」
登美子は懐かしそうに言った。
「あの頃はうちの亭主もまだ格好よかったんだけどね!今じゃあのざまよ。」
登美子は吐き捨てるように言った。
この台詞を皮切りに、登美子のマシンガントークショーが開催された!
「年がら年中、朝から晩までロボットロボット。まぁそのおかげでうちみたいな小さい店でも、ごはんが食べていけるんだけどね。それとこれとは別よ。だいたいねぇ…。」
倫子と真美はあ然としながら、登美子のマシンガントークショーを見ていた。
ロボットの悪口から始まり、旦那への不平不満。
果てにはガーディアンチームの悪口まで、まさに罵詈雑言のオンパレードであった。
『私が京都出身やからって、マミちゃんに多大な迷惑を…。』
倫子は文字通り小さな胸を痛めた。
「ですよねー。」
「わかりますー。」
「確かにねー。」
「そうですよねー。」
愛想笑いを浮かべながら、登美子のマシンガントークに相づちを打つ真美。
申し訳なさすぎて下を向くことしか出来ない倫子。
2人の尊い犠牲を払いながら、登美子のマシンガントークは10分以上続いた。
青葉模型を出た2人は、店の前で立つ尽くしていた。
「すごかったね…。」
真美は焦点の合わない目で言った。
「うん…。すごかった…。」
倫子の目も焦点はあっていない。
そう話す2人の前を、変わった出で立ちの男がトボトボと力無く歩いて行く。
背が低くく小太りの中年男は手にリーゼントのカツラを持ち、カラオケビッグボイスのキャラクターそっくりのコスチュームを身につけている。
ただし頭はバーコードであり、わずかに残っている髪はなぜかびっしょりと濡れている。
「帰れってなんだよぉ~。もう終わってたのかよぉ~。せっかくの出番だと思ったのによぉ~。」
イカした。
いや、イカれた格好の中年は泣きそうな声で呟いた。
ついに20話です。
話は遅々として進みません。
青葉島の住民達はどうでしょうか?




