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第一章 19話 「青葉市長 鷲巣見 源二郞」

第一章 19話です。


少しづつ、青葉島の全容が解明されていきます。

「あのね、マミちゃん…」

倫子がそこまで話しかけると、真美が耳元に寄り小声で囁いた。

「隣のソファーにゴリラみたいなのと、枯れた小枝みたいなのがいるでしょ?」

真美はとんでもない言葉をチョイスした。

他に例えはあるだろうに。

「うん。」

倫子は小さく頷く。

倫子よ。君も真美の言葉をすんなりと受け入れるのか。


「話はあの二人の話を聞き終わってからにしようか。」

「知ってる人なの?」

「ちょっとね。」

真美はそう言うと笑った。

『でもそれって盗み聞きじゃあ…。』

倫子は一瞬思い悩んだが考え直した。

『ちゃうねん。二人が勝手に話をしてるだけやねん。勝手に私の耳に入ってくるだけやねん。盗み聞きとはちゃうねん。ちゃうねんで?』

倫子は自分にそう言い聞かせると、さりげなくソファーにもたれ掛かり二人組の話に耳を傾けた。



「せんぱーい。こんな所にいたんですか~。探しましたよ~。」

普通を絵に描いたような青年が、大きな紙袋を両手に持ちながらゴリラに向かって駆け寄って来た。

この青年の外観にさしたる特徴はない。

3秒もあれば、頭から完全に忘れ去る自信がある。

『来た!第3の男や!』

「おー!悪い悪い!警報が鳴るとモニターの前に集まるのが癖になっちまってな~。」

ゴリラはそう言って笑っているが、バナナでも見つけたか?


「だからって、初心者(ビギナー)をほったらかしにしないで下さいよ。」

第3の男はあきれ顔だ。

「お前も早く『お得意様』になれよ。まぁ座れ。」

ゴリラは第3の男に席を勧めた。

「お得意様って何ですか?」

第3の男はソファーに腰掛けながら尋ねた。


「ベテラン来島者の事を『お得意様』って呼ぶんだよ。俺達みたいな奴の事をな!」

小枝は笑顔で自慢げに言うが、その顔と言葉には魅力の欠片も見あたらない。

『お得意様か…。覚えとこ。』



「お得意様ねぇ。そう言えばさっきみんなでタブレットを操作してましたけど、あれは何なんですか?」

第3の男はゴリラに尋ねる。

『ナイス質問やん第3の男!ええで!その調子やで!ガンガンいこか!』

「投げ銭だよ。」

ゴリラはニヤリと笑った。

第3の男 「投げ銭?」

倫子 『投げ銭?』

第3の男は口にし倫子は思った。



「投げ銭をしてガーディアンを応援するんだ。そのお金は街の再建費に回されるんだ。」

「再建費?何ですそれは?」

第3の男は首を傾げた。

青葉島(ここ)では毎日のように、ロボット絡みの犯罪が行われているんだ。当然、事故や怪我はもちろん、街が破壊される事もあるだろ?」

小枝が説明を始めた。

「確かに。」

第3の男は納得している。

「そう言った被害が出たときに、再建費の一部に投げ銭が使われているんだ。」

「凄いシステムですね。」

「青葉市の現在の市長。鷲巣見源二郞(わしずみげんじろう)市長が考案されてな。若いのに大した人だよ。」

「通称、島の大将こと『鷲源(わしげん)』さんだ。今期で3期めだがまだ30代なんだぜ。」

ゴリラは自慢げに語る。

「市長は島民から絶大なる人気があってな。対立候補すら出てこれないから、死ぬまで青葉市長なんじゃないかって言われているんだ。」

小枝も自慢げだ。

『へぇ~。鷲巣見源二郞市長って凄い人やねんなぁ…。』



「へぇ~。知らなかったなぁ。随分と若い市長さんなんですね。」

「先々代の市長の息子さんでな。先々代は鷲巣見源一郎(わしずみげんいちろう)さんと言って、その方も大した人だったらしい。残念な事に男盛りの50代に事故でお亡くなりになられたんだがな。」

ゴリラは残念そうに言った。

『じゃあ、悪い事して捕まったんは、先代の市長なんや…。』



「簡単に言えば、俺達は投げ銭で自分達の安全を守っているようなもんさ。」

ゴリラは自慢げだが、なぜここまで自慢げに出来るのだろう?

「なるほど…。」

第3の男は納得しているようだ。


「だからたとえわずかでも、俺達お得意様は必ず投げ銭をするようにしている。ま、島に対するお礼だな。」

「でもこいつ、初めてレッドさんを見たときに1万円も投げ銭して帰りに俺が飯を奢ったんだぜ?」

小枝はそう言って笑った。

「あの時は興奮し過ぎてよ。思わずボタンを連打しちまって上限まで投げちまったんだよ。」



この投げ銭システムは1クリック100円で、一回の中継につき100回まで投げ銭が出来る。

ちなみに投げ銭をすると1年に1度行われる抽選会で、豪華な商品をゲット出来る可能性がある。

特賞は青葉グランドホテルのスィートルーム二泊三日のペアチケットで、他にも名産品の詰め合わせや青葉牛10kg等があって評判はいい。


しかしなぜか、今までペアチケットに当選した宿泊客で、男女ペアの宿泊はいないらしい。

このシステムを導入して10年になるが、90%が男性同士で残りは女性同士だそうだ。



「そうそう。青葉島(ここ)に初めてきたやつのほとんどが通る道があるんだ。」

「あるある。」

小枝は何度も頷いた。

「なんですかそれは?」

第3の男は不思議そうに尋ねる。

「まず最初にホテルで一泊したあと、朝一でこの店でしこたま買い物をするだろ?」

ゴリラはニヤリとしながら言った。

「あ!」

第3の男は小さな声をあげて自分の足元を見た。

足元には大きな紙袋が2つ並んでいる。

対してお得意様の二人は、全くの手ぶらである。

「…。」

第3の男は黙ったままだ。


「でだ。島の観光なんかをしながら日曜の朝を迎える。」

ゴリラがそう言うと小枝が続けた。

「その頃には荷物が増えているから、ホテルから自宅に荷物を送る。」

「両手も空いた。時間もある。さぁ最後にもう一度店に行こう。」

ゴリラはニヤリとする。


「店に行って買い物をして両手はまた塞がる。そこでふと我に返る。もうお金が無い。」

小枝はそう言って笑う。

「で、残り少ないお金を握りしめて熱血屋の『特製スタミナ丼』を食べてから港に向かう。そして帰りの高速艇かフェリーの中でこう思う『また来よう…。』ってな。

ゴリラはしみじみと言った。

『なんでやねん…。』

倫子は思わず食い気味にツッコミを入れた。

『スッカラカンやん…。なにも学習してへんやん…。』



「そんな目に合いながらなぜ…。」

第3の男は驚愕の表情だ。

「帰りの船の中でわかるさ…。」

「だな。」

そう言って小枝は笑っている。

「つーわけで、ここからは一人で島を巡ってみろよ。俺達は昼から、すぐそこにある熱血屋って言う食堂にいるからよ。ここは良い島だぜ?」

ゴリラがそう言うと、小枝がポケットから紙を取り出し第3の男に渡した。

「これを持っていけ。島の避難所の場所が全部書いてある。警報が出たらそこに書いてある場所に行くんだ。」

「ありがとうございます。それじゃあ行ってきますよ。」

第3の男はそう言って二人から離れて行った。


「それじゃあ、俺達も行くか。」

ゴリラはそう言って腰を上げた。

「そうだな。そろそろ行くか。」

小枝がそう言ってソファーから立ち上がると、二人は連れ立って、店の中へと消えて行った。



「あの二人はね『お得意様』じゃなくて『教育係』って言うの。」

真美はニヤニヤと笑いながら言った。

「教育係?」

「そ。新人(ビギナー)を島に呼んで、島のルールをレクチャーするのよ。島民じゃないの。島とは何の所縁もない人達よ。」

「そうなんだ…。」

何が目的でそんな事をするのだろうか?

倫子は意味がわからなかった。



「他に聞きたい事は?」

「DJハマヤーって誰?何者?」

「最初がそれ?」

真美は笑いだした。

「あの人キャラが定まってないよね?」

倫子は真剣な顔だ。

「気になるのはそこ?」

真美の笑いが止まらない。

青葉島(ここ)のケーブルテレビの名物アナウンサーよ。島民ならみんな知ってるわ。」

「有名人なんだね。」

「そりゃあ視聴率90%超えの生中継のアナウンサーだもん。」

「90%!」

倫子は目を剥いた。

とんでもないお化け番組である。



「ま、アナウンスはまだまだ下手くそだけど、頑張ってるからね。みんな応援してるわ。七三分けの堅苦しいスーツ姿よりはましでしょ?」

『言われてみたら確かにそうかもなぁ…。』

堅苦しい格好で堅苦しい実況をされて不安を煽られるより、変な格好で明るく実況してもらう方が、遥かに気は楽だと倫子は思った。



「他には?」

「たくさんの人達が出てきたのはなぜ?何してるの?」

「あー。ゾンビさんね。」

真美は恐ろしい単語を口にした。

「ゾンビさん!」

倫子はびっくりした。

「あれはね。みんなでロボットを分解してるのよ。ああやって大勢で群がる姿が、ホラー映画に出てくるゾンビみたいでしょ?だからみんなゾンビさんって呼んでるの。」

真美はあっさりと答えた。

そう言われてみれば、ゾンビと言う言葉がしっくりとくる。



「分解?なんで?」

「分解してロボットの企業や鉄屋に売るの。大した金額にはならないかもしれないけど、小銭は稼げるわ。」

「そんな事していいの?」

「市が回収するとお金がかかるじゃない?住民で一気に回収すればお金も時間もかからないでしょ?」

「確かに…。でもそれって火事場泥棒になるんじゃ…。」

「とっていいのはロボットの部品だけ。それ以外は犯罪よ。群がるのもロボットだけ。倒壊した家屋なんか誰も近づきもしないわ。」

「悪い事をしてもわからないんじゃないかな?」

倫子は当然の疑問を口にした。


「ねぇリン。この島にカメラが何台あると思う?」

真美は唐突な質問をしてきた。

「え?わかんない…。」

「正確な数はわからないけど、都内23区全部の数より多いって言われているわ。」

「えぇー!監視されまくりじゃない!」

「それにパトロールドローンもいっぱい飛んでいるしね。でもね。監視されてるんじゃなくて、監視してもらってるのよ。」

「監視してもらってるって…。」

倫子は呆然としている。


青葉島(ここ)はロボット絡みの犯罪が多いからね。監視していないともっと悲惨な事になるわ。」

「嫌じゃないのかな?」

「なぜ嫌なの?家の中ならまだしも、カメラは外にしか無いんだし、そもそも見られて後ろめたい事もないでしょ?今時どこにでもカメラは付いているじゃない。他より数が多いだけよ。」

『そう言われればそうか…。意識してなかったなぁ…。』


確かに真美の言うとおり、どこの都市でも街中にカメラが設置され、人々は常に監視されている。

今時ジュースの自販機にだって、カメラが付いているのだから、今の世の中はカメラに映らないで生活をするほうが遥かに難しいだろう。

カメラの数ではなく意識するかしないかの差だ。

『そっか…。そう言うことやねんな…。』



「うるさい人は数ばっか口にするけど、カメラなんかそこら中にあるっつーの。」

真美はそう言って笑った。

「中途半端に監視するくらいなら、完璧に監視したほうが犯罪も減るのよ。だから青葉署の警察官なんて毎日、カメラのモニターとにらめっこしてるんだから。」

「え!コンピュータじゃないの?」

倫子は驚いた。

てっきり機械任せにしていると思っていたのだ。



「なんでもそうだけれど、完全に無人化するには無理があるのよ。それに最終確認は人の目じゃないとね。」

「それはそうだね。」

倫子はそう言って頷いた。

「それじゃあそろそろお店が開く時間だし、青葉模型に向かいますか。」

真美はそう言うと、ソファーから立ち上がった。

19話の時点で、青葉島ではまだ一日も経っていません。


遅すぎるのではないだろうかと、心配です。

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