第一章 13話 「申し訳ねぇ」
第一章 13話です。
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「神楽坂さん。初めてのアルバイトはどうだったかしら?」
桜子は倫子に話かけながら、ティーポットの紅茶を倫子のティーカップへと注いでいく。
「はい。マミちゃんと真奈美さんのおかげでなんとか…。」
倫子はそう言って静かに頭を下げた。
「それはよかったわ。朝食が終わったら声をかけるから熱血屋に来てくれる?商店街の会長さんが、神楽坂さんにお話があるんですって。」
「わかりました。伺います。」
「よろしくね。」
そう言って桜子は未祐の席に移動すると、未祐のティーカップに紅茶を注ぎながら未祐に話かけた。
「今日はお出かけしないの?」
「今日はお家にいるのだ。」
「明日は新しいお洋服を買いに行きましょうか?」
「行くのだ。帰りにアイス食べてもいい?」
未祐は上目遣いで桜子を見ながら尋ねた。
「いいわよ~。」
未祐の紅茶を注ぎ終えると、桜子は自分の席についた。
「お待たせしました。それじゃあいただきます。」
桜子のいただきますを合図に、朝食が始まった。
倫子はまず、気になっていたスクランブルエッグを口に運んだ。卵がトロットロで思っていたよりおいしい。
「神楽坂さん。このスクランブルエッグはおいしいわ。」
倫子の正面に座る真由が倫子に言った。
「真由さんのおかげです。」
「倫子ちゃんが上手なのよ。」
「とんでもないです。」
倫子はそう言いながら慌てて手を振った。
「そう言えばさリン。あれから肉まんは食べたの?」
真美はちぎったロールパンにいちごジャムを塗りながら、倫子に尋ねた。
「ま、まだ食べてないよ。大きすぎて食べたらお腹いっぱいになっちゃうよ。」
倫子は咄嗟に悲しい嘘をついた。
寝起きにすぐ食べたと言って朝食を残さず食べたら、間違いなく大食いだと思われるだろう。
それはさすがに阻止したい。
なんとしてでも阻止したい。
全力を出しきってでも阻止したい。
今さらかも知れないが。
いや、今さらであっても阻止したいのだ。
「さすがのリンでもあの量は無理か~。でもホイさんの肉まんはおいしいわよ~。大きすぎるけどね。」
真美はそう言うと、ちぎったロールパンを口に放り込んだ。
「だ、だよね~。楽しみだなぁ~。」
倫子よ。ありもしないものを食べるというのに、何が楽しみだと言うのだ…。
朝食を食べ終えた倫子は満腹で満足だった。
サラダもベーコンもおいしかったし、フルーツの入ったヨーグルトもおいしかった。
ただパンを食べ過ぎないようには控えた。
クロワッサンならあと5個は食べられただろうが、そこはグッと我慢をした。
今のペースで食べ続ければ、近いうちにスカートのボタンはみんな飛んでいってしまうだろう。
凹凸のない体に憧れはない。
素敵なレディへの道のりは遠く険しいのだ。
食事を終え、みんなで後片付けをしてから倫子は部屋へと戻った。
パジャマからトレーナーに着替えて、いつでも出かけられる準備を終えた倫子は、部屋に備え付けられたテーブルの前の座椅子に座った。
『それにしても真由さん。食べる姿も品があって優雅やったな…。パンも小さくちぎってはったしな…。私みたいに直接かぶりついてたらあかんのやろな…。』
倫子がそんな事を考えていたら、いきなり部屋のチャイムが鳴った。
ピンポーン
「はーい。」
倫子は慌てて座椅子から立ち上がるとドアへと向かった。
桜子さんが呼びに来たのだろうか?
ガチャ
倫子がドアを開けると、そこには真美が立っていた。
「あれ?マミちゃん?」
倫子は少しびっくりした。
「桜子さんに急用が入ったから、私が代わりにリンの付き添いを頼まれたの。準備は出来てる?」
紺のキャップを被り、青いジャージ姿の真美が、倫子に声をかけた。
キャップの前とジャージの背中と左胸には、かわいいおさるのイラストがプリントされている。
「そうなんだ。真奈美さんと真由さんは?」
「お姉ちゃんは部屋よ。真奈美ちゃんはお姉ちゃんのマッサージをしているわ。いつもの事なの。」
「ごめんねマミちゃん。迷惑かけちゃって。」
倫子は真美に謝った。
「気にしなくていいのよ。これもアルバイトのうちなんだから。」
「へ?」
倫子はキョトンとした顔になった。
「リンが熱血屋にいるうちは、私がリンの教育係なのよ。」
「え?そうなの?」
初耳である。
「年も同じだし、そのほうがお互いにやりやすいでしょう?準備が出来ているなら、さっさと行きましょう。」
「うん。」
倫子はそう言うと、真美と一緒に熱血屋へと向かった。
熱血屋の中に入ると、倫子は真美に商店街の会長さんのいる座敷へと案内された。
まだ朝の8:00過ぎだと言うのに客の入りは多い。
案内された座敷には、2人のおじさんが向かい合わせで座っていた。
一人は頭に捻り鉢巻きを巻いた、魚屋さんのような恰好をしている近寄りがたい雰囲気をもったおじさんだ。
おじさんの前には空になったパフェの器と、湯呑みが置いてある。
もう一人は白いポロシャツに紺のスラックスを履いた温和そうなメガネのおじさんだが、全体的に丸いフォルムだ。
朝から山盛りのご飯片手に、分厚いトンカツをおいしそうに食べていた。
朝からトンカツを食べて胃袋は大丈夫なのだろうか?
「会長さん。リンを連れて来たわよ。」
真美がそう言うと、捻り鉢巻きの男性が倫子を見た。
50を超えているであろうそのおじさんは、鋭い目つきで倫子を見た。
『うわぁ…。怖そう…。』
倫子は怯んだ。
「嬢ちゃんが神楽坂さんかい?」
低く渋みのある声で、会長さんが倫子に声をかけた。
「はじめまして。神楽坂倫子です。」
倫子はぺこりとお辞儀した。
「俺は『アオバシティロード商店街』の会長をやらせてもらっている山本貫徹ってもんだ。」
「副会長の石田丸男です。」
丸いおじさんはハンカチで顔の汗を拭いながら言った。
倫子は思わず吹き出しそうになった。
名は体を表すもいいところだろう。
朝から分厚いトンカツを食べれば当然だろうが…。
「今回は申し訳ねぇ事をした。すまねぇ。この通りだ。」
会長さんはそう言うと、倫子に深く頭を下げた。
「え?」
会長さんは何を言っているのだろう?
倫子は訳が分からなかった。
「神楽坂さん。申し訳ありませんでした。」
丸いおじさんもそう言って頭を下げる。
「俺達が不甲斐ねぇばっかりに、お前さんが住むはずだったアパートが壊れちまった。申し訳ねぇ。」
「えっと…。」
倫子は言葉に詰まった。
この人達がアパートを壊したのだろうか?
アパートを壊したのは産業スパイだと聞いているが。
「会長さんはガーディアンチーム『アオバシティロード商店街』のリーダーでもあるの。」
真美が説明をしてくれた。
「ガーディアンって自衛団の?」
「そうよ。ガーディアンはアオバシティを、ロボット犯罪の被害から守ってくれているの。」
「真奈美さんから聞きました。凄いんですねぇ。」
倫子は感心している。
「そう言ってくれるのは嬉しいんだが、専守防衛が仕事だってぇのに、建物を壊してちゃ話になんねぇ。」
貫徹がそう言うと真美が言った。
「向こうが勝手にこけたんでしょう?」
「まぁなぁ。しかしよりにもよって、あのあたりに唯一残ってた木造の建物の上に倒れるとは思ってなかったがなぁ…。」
そう言って貫徹はしかめっ面で腕を組んだ。
「他の建物なら、最悪でも倒壊は免れたんですけどねぇ。」
副会長はトンカツを食べながら言った。
「へ?」
倫子は狐につままれたような顔になった。
「この街はロボット犯罪が多いから、建物は頑丈に作られているの。木造建築なんてこの辺りじゃほとんど見かけないのよ?」
真美は当然のように言う。
「昔はしょっちゅう倒壊してたんだがな。それじゃあやってらんねぇってんで、当時の市長が大号令をかけて街全体を強化しちまったんだ。」
会長さんはどこか懐かしそうに言った。
『へぇ~。そうやったんや…。』
「ま、とにかくガーディアンチームとしちゃ、嬢ちゃんに詫びを入れなきゃならねえ。これは商店街からの見舞い金だ。チームリーダーとしての俺からの詫びも、少しばっかだが入ってる。受け取ってくんな。」
そう言って、会長さんはポケットから厚めの封筒を取り出すと倫子に渡した。
「いえいえ、そんな…。」
うろたえた倫子が助けを求めるように真美の顔を見ると、真美は静かに頷いた。
「ありがとうございます。謹んで頂戴いたします。」
それを見た倫子は、そう言って両手で封筒を受け取ると、会長さんと副会長さんに向かって深くお辞儀をした。
「そう言えば会長さん。テヤンデーは大丈夫?」
真美が会長に尋ねる。
『てやんでぇ?』
倫子は心の中で頭をひねる。
「真美ちゃんありがとよ。テヤンデーの方はなんとか無事だ。」
会長はそう言って笑う。
「うちのとんとんも無事だよ。」
副会長はトンカツとにらめっこしながら言った。
「それはよかったわ。」
真美はそう言ったが、倫子は何を話しているのかまるでわからない。
その時会長さんがお腹の大きなポケットから、小さめのタブレットを取り出した。
会長さんが画面をタッチすると、そこには小さな女の子とお母さんらしき女性の顔が映った。
「じぃじ~。早くご飯食べておんも行こ~。」
会長さんの顔が一瞬で溶けた。
「はーい。すぐに帰るからまっててね~。」
会長さんは顔をくしゃくしゃにしながら、画面に向かって手を振った。
「お父さん。帰りに木下さんの所で海苔を買って来てもらえますか?」
お母さんらしき人がそう言うと
「はーい。じいじがトモちゃんのだ~い好きなノリをい~っぱい買って帰るからね~。まっててね~。」
と言って、女の子に手を振った。
「ありがとうじぃじー。ばいば~い。」
女の子がそう言って手を振ると画面が消えた。
「用事も済んだことだし俺は帰るぜ。後は副会長に話を聞いてくんな。」
会長さんは渋みのある声でそう言うと、席を立って急いで店から出て行った。
『いいおじいちゃんなんや…。』
倫子はそう思いながら、慌てて走り去る会長さんの背中を見ていた。
「今日、お母さんが来られるんだよね?」
副会長が倫子に尋ねた。
「はい。」
「詳しい話はお母さんを交えてからさせてもらうとして、何か質問はあるかい?」
「何を質問して良いかもわかりません。」
「それじゃあ一度、商店街をぶらついてみるといいよ。」
そう言って副会長はみそ汁を飲み干した。
「今日も遅番だし、案内するわよ。」
真美は倫子にウィンクをした。
「ありがとう。マミちゃん。」
「その代わりアイスはリンの驕りね。ストロベリーとストロベリーミルクよろしく!」
「レアチーズも付けちゃう!」
そう言って倫子が真美に笑いかけると、真美も笑顔を返した。
そろそろロボットが出てきそうです。
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