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第一章 12話 「女神様のお料理教室」

第一章 12話です。


読んでくれてありがとうございます。


 m(_ _)m 

4人でキッチンに向かうと、エプロン姿の桜子が忙しなく朝食の支度をしていた。

「おはようございます。桜子さん。」

真由はそう言って、桜子に頭を下げた。

「おはよう真由ちゃん。」

桜子も真由に挨拶をする。

「せーの!」

真美の合図を受けて、真奈美と倫子がタイミングを合わせる。

「おはようございます。桜子さん。」

3人は同時に桜子に挨拶をした。

「みんなおはよう。3人とも息ぴったりね。」

桜子はそう言って笑った。



真由 「桜子さん。私も手伝います。」

桜子 「真由ちゃんありがとう。昨日は遅かったんでしょう?今日はゆっくりしてて。」

真由 「お気遣いありがとうございます。けれど、じっとしているのは苦手なので。」

桜子 「疲れているのにごめんなさいね。それじゃあ、スクランブルエッグをお願い出来るかしら?」

スクランブルエッグという単語を耳にした倫子は嬉しくなった。

スクランブルエッグとは、なんという洋風な響きだろう。

実家では「玉子焼き」か「炒り玉子」という言葉しか耳にしない。

せいぜい「ネギ入り」か「しらす入り」という言葉がつくくらいだ。



「はい。」

真由はそう言うと、ハンガーにかかったエプロンを手に取った。

「私はサラダを作るわね。」

真美はそう言って冷蔵庫へと向かった。

「それじゃあ私はドレッシングを。」

真奈美もそう言うと支度を始めた。

「私は…。」

倫子はキョロキョロとキッチンを見回した。


「私はベーコンを焼くから、倫子ちゃんは真由ちゃんのお手伝いをお願い出来るかしら?力仕事があるから手伝って貰えたら助かるわ。」

桜子にそう言われると倫子は「はい。」と返事をしてから

『ん?スクランブルエッグを作るのに力仕事があるのん?』

と思ったが、とりあえず真由の所へ向かった。


「真由さん。お手伝いさせてください。私は何をすればいいですか?」

「あら?手伝っていただけるの?それじゃあ、そこのお鍋に半分くらいお水をいれて、火にかけてもらえるかしら?」

エプロンを付けながら真由はそう言うと、お鍋を指さした。

『スクランブルエッグにお湯?』

倫子は不思議に思ったが、真由に言われた通りにお鍋に水を張り火にかけた。

お鍋はかなり大きく、水を張るとかなり重かった。

なるほどたしかに力仕事だが、お湯を何に使うんだろう?



倫子が支度を終えて真由を見ると、真由はお鍋と同じくらいの直径の、大きなステンレスのボウルにバターを塗っている。

「準備出来ました。」

「それじゃあ冷蔵庫から卵を2パックと、生クリームを2パック持ってきてもらえるかしら?」

「はい。」

倫子が真由から言われた材料を持ってくると、真由はサイズの違うボウルの中にザルを入れていた。


「持ってきました。」

「ありがとう。倫子ちゃんが作ってみる?説明をするから。」

「はい。やらせてください。」

倫子は元気よく返事をした。

「それじゃあまずは卵を割って、ザルの中に入れてもらえるかしら?」

「はい。」

倫子は言われた通りに、全ての卵をボウルの中に割り入れた。


「それじゃあ、ボウルの中でザルを軽く何回か左右に振ってくれる?」

「はい。」

倫子が言われた通りにすると、ボウルの底に水分が溜まっていく。

「こうするとね。卵の余計な水分が取れて、卵がプルプルになるのよ。」

「なるほどです。」

倫子はいたく感心した。

たしかにこの方法なら、目玉焼きにしてもぷりっぷりの目玉焼きが出来るだろう。


「次にその卵をバターを塗ったボウルに入れて、生クリームを全部注ぎ入れてから塩コショウを軽く振って、泡立て器でかき混ぜるの。」

「はい。」

倫子は黙々と作業を続けた。


「そうそう。しっかりとかき混ぜて欲しいんだけれど、急いでかき混ぜなくてもいいのよ。出来るだけ泡をたてないようにね。」

「はい。」

真由の教え方はとてもわかりやすくて丁寧だ。


「出来ました。」

「お味見をさせてもらうわね。」

真由はそう言うと、スクランブルエッグの卵液にスプーンを入れてそのまま口元に運んだ。

「ん。お塩の加減はこれでいいわ。お塩はあまり入れなくてもいいのよ。お塩が足りなくても、食べる時に振ればいいでしょう?」

「なるほど。たしかにそうですね。」


「最後にさっき沸かせたお鍋にボウルを浸けて、卵液を湯煎にかけながら泡立て器でかき混ぜるの。卵液が固まり始めたら途中でバターを加えて、お好みの固さになったら出来上がりよ。」

真由の言葉を聞き、倫子はハッとした。

「そうか。この作り方だと卵の固さを調整しやすいし、卵も焦げないんですね。だから焼くんじゃなくて湯煎をするんですね。」

「ご名答。まさにその通りよ。」

真由はそう言って笑った。

「ありがとうございます。すごく勉強になりました。」

倫子はそう言うと真由にお辞儀をした。


「どういたしまして。倫子ちゃんはお料理が好きなのね。」

「中学校に入った頃からお母さんに教わっていたんです。和食ばっかりですけど。」

倫子はそう言って照れた。

「素敵なお母様ね。」

「怒ると怖いですけど…。」

「ますます素敵なお母様だわ。」

真由はそう言って笑った。



倫子がスクランブルエッグをかき混ぜながら、そろそろいい具合かな?と思った時、スーっとキッチンの引き戸が開き「おっはよーございまーす!」という元気な声が聞こえた後、

「おはようございます。」

さっきとは対象的に静かな声が聞こえた。


「おはようございます。」

倫子はそう言うとスクランブルエッグをかき混ぜながら、慌ててボウルを鍋からあげて湯煎をやめた。

せっかくのスクランブルエッグを硬くしてしまったら元も子もない。

トロットロのスクランブルエッグをパンにつけて食べる事は、間違いなく幸せなことのはずだ。

 


おはようのキャッチボールが飛び交う中、倫子は声の主を見た。

一人は未祐だがもう一人は髪が短めの女の子で、倫子が初めて見る顔だ。

倫子と同世代であろう、小柄で日に焼けたような健康的な肌の見るからに活発そうな女の子は、Tシャツにパンツ姿という事もあり男の子っぽくも見える。

今は真美と真奈美と3人で笑いあって、楽しそうに会話をしているが、倫子が女の子を見ていると女の子と目があった。


倫子に気付いた女の子は、倫子の方を見ながら真美と真奈美と何やら話し込んだ後、3人一緒に倫子の所へやってきた。

女の子は明るい笑顔を見せながら、倫子に近づいてくると

「おはよう!初めましてのほうが先かな?キミが神楽坂倫子ちゃんだね。ボ…、あたしは谷中聖美(やなかさとみ)よろしくね。」

「初めまして。おはようございます谷中さん。神楽坂倫子です。よろしくお願いします。」

倫子は頭を下げた。

「サトミって呼んでよ。話は聞いたよ。キミも大変だったねぇ。」

「サトミさん。私の事はリンと呼んでください。まさか上京したらアパートが無くなっているとは、夢にも思ってもいませんでした。」 

倫子はそう言って笑った。

「それはそうだよね~。でも大丈夫。次は良い事があるよ。とびっきり良い事が。」

聖美は少年のような笑顔を見せた。

『サトミさんは元気いっぱいの人やねんな。』

倫子は聖美の笑顔に応えるように笑った。




キッチンに人が集まってくると、各々が役割分担を持って朝食の準備を手伝った。

聖美と未祐は大きくて長いテーブルに清潔感のある白いテーブルクロスを敷くと、ナイフやフォーク等のカトラリーを並べていき、真美と真奈美はサラダを仕上げ、丸い白磁のプレートにサラダを盛りつけていき、次に真由がプレートにスクランブルエッグを盛り付けると、続いて倫子がスクランブルエッグにトマトソースをかけていく。

桜子はプレートにこんがりと焼けたベーコンをのせ終わると忙しそうにお茶の準備を始め、真由と倫子もそれを手伝う。



その間、サラダを盛り付け終わった真美と真奈美は調理道具を洗いだした。

実にチームワークよく朝食の準備を終えると全員が席についた。

倫子の右側には真美が座り、左側には未祐が座っている。

そこに白い大きなティーポットを手にした桜子が、順番にテーブルを回っていった。

「真由ちゃんの今日の予定は?」

「聖美ちゃんは車に気をつけてね。」

桜子は一人一人と会話を交わし、順番にテーブルを回りながら各自のティーカップに温かい紅茶を注ぐ。



桜子が来るまでの間、倫子はテーブルの上を見た。

テーブルの上にはクロワッサンやロールパン、ミニサイズの食パンが入ったバスケットが等間隔に3つ並んでおり、その隣には銀紙で梱包された四角いバターや、いちごやブルーベリー、アプリコットジャムの入った丸い花柄の器がトレーの上に置かれている。

倫子の顔がパッと明るくなった。

間違いなくおしゃれな朝食である。

それもとびっきりおしゃれな朝食だ。


  

次に倫子は目の前に置かれた食器に目を落とした。

全ての食器が白磁の陶器で出来ており、見るからに美しく気品がある。

パン皿の右隣には料理が盛られた丸いプレートが置かれており、両サイドには銀のカトラリーが綺麗に並べられているが、バターナイフやジャムスプーンまであって倫子は驚いた。


プレートにはレタスにトマトとコーン。

それに薄くスライスされたタマネギをドレッシングで和えたサラダと、こんがりと焼けたベーコン。

それに真由から教わりながら作った、スクランブルエッグが載っている。

色目にも鮮やかで、見ているだけでお腹が空いてくるではないか。

あとは紅茶の淹れられたティーカップと、ミルクの入ったグラス、ガラスの器には数種類のフルーツが入っており、その上にヨーグルトがかかっている。


『おしゃれやなぁ…。夢みたいやぁ…。』

倫子は胸がいっぱいになった。

実家(うち)の朝ごはんとは大違いやん…。』

倫子は理想の朝食を前にして、実家の朝食を思い出した。


ご飯とみそ汁に焼き魚。それに昨日の残りの煮物とお漬け物が基本で、毎日これである。

京都と言えばパンの年間消費量が全国でもトップクラスなのだが、倫子の実家うちの朝食にパンが出てきた覚えはない。

「朝はしっかり食べる。」が神楽坂家の家訓だからだ。

『こんな素敵な朝ごはん。生まれて初めてやわぁ。』

倫子は今、幸せの絶頂にいたのだ。

スクランブルエッグの作り方は、知り合いから教えてもらったものです。

この方法だと、炒り玉子にはなりません。

トロットロです。

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