第一章 11話 「スリーピング・ビューティー」
第一章 第11話です。
読んで頂いてありがとうございます。m(_ _)m
稚拙な文章ですが、楽しんでいただければ、幸いです。
朝、ふかふかのベッドで目が覚めた倫子は、まだ開ききらぬ目をこすりながら、枕元に置いてあるタブレットを引き寄せた。
時間はまだ6:00なので、朝食までには1時間ある。
ベッドの上でとろんとした目でまどろんでいた倫子は、急にぱっちりと目を開いた。
『そうや!肉まんがあるんやった!』
慌ててベッドから跳ね起きた倫子は、テーブルに着くなり急いで箱に手を当てると、肉まんはまだ暖かい。
昨日大いなる肉まんの王様と対峙したあと、さすがに無理だと諦めた倫子は思った。
『朝まで保つかなぁ。』
大いなる肉まんの王様の体温を気にしながら、後ろ髪を引かれる思いで倫子は眠りに就いたのだ。
倫子が箱に触れてみると、さすがに寝る前ほどではないがまだまだ温かかった。
『この箱はすごいなぁ。』
箱の保温性能に敬意を表しつつ、蓋を開けた倫子は思わずにんまりした。
箱の中の大いなる肉まんの王様がまるで「また懲りもせずにやってきたのか小娘よ。」とでも言わんばかりの存在感を出しながら、箱の中で鎮座している。
倫子は臆する事なく右手で王様を掴むと、パクリと一口噛みついた。
『思ってた通りや。ううん。それ以上においしいわ~!』
倫子は満面に笑みを浮かべながら、大いなる王様と戦い始めた。
しかし寝起きに大いなる肉まんの王様を平らげて、倫子は朝ごはんは食べられるのだろうか?
朝ごはんまでは1時間もない。
倫子には余計な心配になる可能性は高そうだが、大いなる王様に圧勝した倫子がタブレットを見みると、まだ6:10にもなっていない。
「あれ?」
倫子が画面をよく見てみると、どうやら美姫からメールが届いているようだ。
倫子はメールを開き内容に目を通した。
『ん?何これ?』
倫子は首を傾げる。
美姫からのメールには『青葉シティロード商店街のロボットのプラモデル全種類。』とだけ書かれている。
『ロボットのプラモデルって…。あの子、プラモデルなんて作ってたっけ?』
なぜ美姫がプラモデルが欲しいのかがよくわからないが、おもちゃ屋さんに行けば売っているだろう。
おもちゃ屋さんがどこにあるのかも知らないが。
メールを読み終えた倫子は、朝ごはんの時間まで部屋に居ようかとも思ったが、一度リビングに行ってみる事にした。
誰かいるかも知れないし、誰もいなければお風呂に行って朝風呂としゃれ込むのもいい。
倫子はベッドから立ち上がると、ピンクのパジャマ姿のまま静かに部屋を出た。
リビングに入ると中は薄暗く、大きな窓から射す日の光だけがリビングを照らしている。
どうやら誰もいないようだ。
倫子がソファーに近づいていくと、何やらソファーの上になだらかな山脈が見えた。
『ん?』
倫子が目をこらしてよく見てみると、どうやらシーツを被った人が寝ているようだ。
倫子は息を殺しながら、ゆっくりとソファーに近づいていった。
『綺麗な女性やなぁ…。まるでお姫様みたいや…。』
倫子はソファーに横たわる人の寝顔を見てそう思った。
しっとり艶やかな黒髪は肩まで伸びており、すっきりと伸びた鼻筋に、瞑っていてもぱっちりしているだろうとわかる瞳に長い睫毛。
雪のように透き通る肌には、ほんのりと淡いピンクが浮かんでいる。
背は高く青いシーツから伸びた脚はスラリとしていて、長いのがシーツ越しからも見てとれる。
体を包み込む青いシーツですら、清らかなドレスを纏っているようだ。
『お姫様や…。』
倫子は思わず息を飲んだ。
眠れるお姫様は寝息一つもたてず、息すらしていないのではないかと、心配になるほど微動だにしない。
同性の倫子から見ても美し過ぎるほどの寝姿である。
男が見たら全員が全員固まってしまうか、自ら喜んで人間を辞めてしまうだろう。
『ハッ!』
倫子は気付いてしまった!
今この瞬間、下々の者である町娘の倫子が絶対に守らなければらない使命が出来た事を。
それは「お姫様の眠りを絶対に妨げてはいけない。」ということである。
いや。今の倫子は江戸の町娘ではなく、中世のお屋敷に勤めるメイドさんというところだろう。
もしお姫様を起こしてしまえば、王様にお仕置きされてしまうのは必至だ。
きっと想像を絶するようなお仕置きをされてしまうのだろう。
絶対に姫様を起こしてはいけない。
倫子がそう思いつつお姫様の魅力的な寝顔から目が離せないでいると、お姫様の目がゆっくりとゆっくりと開かれていった。
『やってもたー!』
倫子は思わず後ずさった。
ぱっちりと開かれたお姫様の瞳は、吸い込まれそうなくらい澄んだ色をしている。
『うわぁ!瞳が宇宙やん…。吸い込まれそうやん…。』
後ずさりながらもなお倫子の視線はお姫様の瞳に吸い込まれてしまい、目を離すことが出来なかった。
目を覚ましたお姫様は倫子の顔を見て、焦ることもなく
「おはよう。」
鈴の鳴るような声でそう言って倫子に微笑みかけたが、お姫様のおはようは倫子にとって、核弾頭よりも遥かに破壊力があった。
『あかん。無理かも…。』
倫子はお姫様にハートを射抜かれ、クラクラしそうになるのを必死で我慢した。
何とか意識を保った倫子は、現状と使命を思い出して慌てた。
「あ、あの、その、あのその…。」
倫子はしどろもどろになりながら、何かを言わなきゃと必死になる。
「まずは落ち着いて。ゆっくりお話をしませんか?」
お姫様は優しく微笑みながら、ゆっくりと倫子に話かけた。
「初めまして。私の名前は青山真由です。あなたのお名前を教えていただけますか?」
ゆっくりと体を起こしたお姫様は、そう言って微笑んでいる。
『この女性は顔が綺麗なだけやのうて、所作が優雅なんや…。』
それが真由に対する倫子の総合評価だった。
もちろん真由は美人だ。
それも規格外の美人と言い切ってもいい。
しかしそれ以上に、真由の動作の一つ一つにとても品があり、ゆっくりとした動きが実に優雅なのだ。
倫子は見たことも聞いたこともないが、海外の王室の方々でも真由ほど優雅で美人な人はないだろうと思った。
「わ、私は神楽坂倫子と申します。ほ、本日はお日柄もよく…。」
焦った倫子は、訳のわからない事を口走り始めた。
「クスクスクスッ。」
真由は口に手を当て楽しそうに笑った。
その仕草を見るだけで顔がニヤけそうになる。
『優雅や…。』
「新しいアルバイトの方かしら?」
「は、はい。昨日から熱血屋さんにお世話になっています。真美さんと真奈美さんには、特にお世話になっております。」
「そうなんですか…。真美ちゃんがご迷惑をお掛けしていないかしら?」
真由は心配そうに言った。
心配そうな表情もいい。
『可憐や…。』
「迷惑をお掛けしているのは私のほうです。お二人はとても良い方達です。」
「そう言っていただけて安心いたしました。ちょっと失礼します。ハルさん。電気を点けてもらえるかしら。」
そう言って真由は天井に顔を向けた。
その横顔もまたいい。
『ビューテホー!』
真由に対する心の中の賛美は尽きないが、ビューテホーなどとのたまうあたり、どうやら倫子はかなりご乱心のようだ。
真由の言葉と同時に、リビングがゆっくりと明るくなってきた。
部屋が明るくなると同時に、真由の顔もゆっくりとはっきりしていく。
真由の顔がはっきりとしていくほど、真由はますます綺麗になっていく。
その姿はまるで、眩しい後光が射す女神様のように倫子の目に映った。
『凄い破壊力や…。尊いってこういうこと?』
倫子は思わず息をのんだ。
「ありがとう。ハルさん。」
真由は天井に向かってお礼を言った。
「どういたしまして。」
ハルさんはまるで、内緒話をしているかのような声で囁いた。
「初めてのアルバイトはどうでしたか?つらくはなかったかしら?」
そう言って首を傾げた真由を見て
「はい。女神様。」
倫子は思わず、そう言いそうになったが、ぐっと堪えた。
「はい。忙しかったですけど、皆さんのおかげでなんとか乗り切れました。」
そう言って笑った。
「うまくやっていけそうですか?」
真由の微笑む姿を見て、倫子はなぜか暗い顔付きになった。
「どうかしましたか?」
「実は…。」
倫子は、これまでの経緯を真由に話し始めた。話というよりも半分は相談だ。
初対面の真由に対して何故そんな事が出来たのかは自分自身でもよく分からなかったが、何故か倫子は真由にこれまでの事を全て話すことが出来た。
10分程真由と話をしただろうか。
倫子が話をしている間、真由は静かに頷いていたが、話を聞き終えると静かに語りだした。
「それは大変でしたね。それで神楽坂さんは、これからどうしたいのかしら?」
「出来れば熱血屋さんで働きたいです。」
「そうなのですか…。それなら大丈夫でしょう。」
「え?」
「今の神楽坂さんの強い想いがあれば、神楽坂さんの言葉はきっと、お母さんに伝わると思いますよ。」
そう言って真由は倫子に微笑んだ。
その時リビングドアが開き、真美と真奈美が連れ立ってリビングに入ってきた。
真美 「お姉ちゃん!」
真奈美 「真由ちゃん!」
真由を見た真美と真奈美は、同時に声をあげた。
二人ともジャージを着ている。
パジャマなのだろうか?
以外な事に先に動いたのは真奈美だった。
「真由ちゃ~ん。」
真奈美は両手を大きく広げて、真由をめがけて走りだしたかと思うと真由に抱きついた。
「おかえり真由ちゃん。一緒に行けなくてごめんねぇ~。いつ帰ってきたの?お仕事はうまく行った?嫌な事はされなかった?体調はどう?」
真奈美はマシンガンのように、真由に質問の雨を降らした。
「おはよう真奈美ちゃん。少し落ち着きましょうか。乙女座に着いたのは2時過ぎだったかしら?お仕事の方は大丈夫よ。皆さんにはよくしてもらったわ。体の方も元気よ。」
真由はそう言うと、真奈美の頭をやさしくなでなでした。
その姿はまるで、嬉しくてはしゃぐ子犬と飼い主のように見える。
「おかえりお姉ちゃん。でもなぜソファーで寝てたの?部屋に戻ればよかったのに。」
真美は腕を組みながら不服そうに言った。
「ただいま真美ちゃん。帰ってきたのが遅くなって、部屋に戻る前にすごく眠くなっちゃったの。」
「ふ~ん。そうなんだ。」
真美はそう言うと、リビングを見回した。
リビングの壁には紺色の女性用のスーツと、白いシャツがそれぞれハンガーに掛けられており、ソファーの横にはキャリーバッグと、大きなバッグがきちんと並らべられている。
「次からはちゃんと部屋に戻ってベッドで寝てね。風邪を引くかもしれないしさ。」
真美は明るい声でそう言ったが、なぜか倫子には真美の瞳が少し悲しげに見えた。
「次はそうするわね。あ、そうそう。」
真由はそう言うと、ソファーの横の大きなバッグを手に取りテーブルの上に載せた。
その間も真奈美は真由にしがみついたままで、離れようともしない。
「お仕事先で頂いてきたの。たくさんあるからみんなで分けましょう。神楽坂さんもよろしければどうぞ。」
そう言いながら真由がバッグのチャックを開けると、中にはたくさんのお菓子が入っていた。
バッグ中身を取り出していくと、全部アイスクリームのコーンにチョコレートが詰まったお菓子だった。
しかもそのすべてがいちご味であり、全部で50個以上もあった。
「こんなにたくさん!スポンサーさんから貰ったんですか?」
倫子は思わず真由に尋ねた。
「いいえ。たくさんの方々から頂いたの。ほとんどが男性からの頂きものですけど…。」
「へ?」
倫子は思わず声にしてしまった。
真由が男の人からお菓子を貰うのはわかる。
しかし全員が全員、同じお菓子の同じ味をくれる事なんて事があるのだろうか?しかも50個も?倫子は不思議に思った。
「お姉ちゃんがこの間、TVでこれが好きだって言ったからみんながこれを持って来たのよ。いつもはいろんなお菓子を貰うんだけどね。」
そう言って真美は笑った。
「そうなのかしら?でもお菓子をくれるなんて、皆さん良い人ね。」
真由は微笑みながら言った。
「いつもなんですか?」
倫子が尋ねると、真美が言った。
「仕事に行く度毎回よ。何でも良いからお姉ちゃんと話すきっかけが欲しいのよ。お菓子を渡せばお姉ちゃんと話が出来るでしょ?お姉ちゃん。今度は高級なチョコレートが好きですってTVで言ってみてよ。一箱3000円でも、みんなこぞって持ってくるわよ。」
そういって真美はニヤリと笑った。
「でも…。そんなに高価なチョコレートを食べた事がないわ…。」
真由はそう言うと困った顔をした。
「食べた事がなくてもいいのよ。欲しいって言えばくれるんだから。」
真美がそう言うと真由が困った顔で言った。
「でもね真美ちゃん。お姉ちゃん、嘘は良くないと思うの。」
「お姉ちゃんならそう言うと思ったわ。」
そう言って真美は笑った。
2人目の「アオバシティの女神様」の降臨です。




