第5章 第2話 「京都から来た刺客」
2話です。
京都から刺客が来たようです。
いつも読んでくれてありがとうございます。
(*'▽'*)
アルバイトを終えた真美と倫子は乙女座へと向かった。
今日のアルバイトは、都内のライブハウスに向かったマインズの代わりに入っているので、ここからは自由時間である。
2人はこれから夕食の時間まで、シミュレーションルームに篭もる気なのだろう。
さっきからずっとシミュレーターの話をしている。
「今日は昨日の続きからね。」
リビングへと向かいながら真美が言った。
「今日こそは成功させたいね。」
倫子はそう言って、リビングのドアを開けた。
ガチャ!
「え?」
ドアを開けた瞬間、倫子は一言そう言うと固まってしまった。
「あはははは!」
「なにそれ!」
「うふふふふ。本当に?」
「嘘ちゃいますよ~。」
リビングのソファーに座るポニーテールの女の子を中心に、聖美と未祐、それに桜子の3人が、女の子を囲むように座り楽しそうに笑っている。
「美姫!なんで乙女座にいるのん!」
倫子は大きな声で叫んだ。
「え?リンの妹の?」
真美は慌てて倫子の顔を見た。
「はじめまして。神楽坂倫子の妹の美姫です。お姉ちゃんがいつもお世話になっています。」
美姫はソファーから立ち上がると、そう言って真美にペコリと頭を下げた。
「どうもはじめまして。青山真美よ。」
真美はそう言って笑った。
「あんた何しに来たん?」
倫子は珍しく京都弁丸出しだ。
「何って、お姉ちゃんを迎えに来たんやんか。」
美姫は何言ってんの?という顔で答えた。
「迎えにって…。そんな話聞いてへんよ?」
倫子も何言ってんの?という顔で言った。
現に昨日の夜に母の美智子と話をしたが、帰省の話はもちろんの事、美姫が来るなどとは聞いていない。
「言う訳ないやん。言うたらお姉ちゃん逃げるやろ?」
「逃げへんよ。ちょっと旅に出るだけやん。」
「なんで旅に出ようとするかなぁ?それやったら、実家に帰ったらええやん。」
「帰ったらお父さんが…。」
「そのお父さんがな、首に縄をかけてでもお姉ちゃんを連れて帰ってこいって言うから私が来たんやんか。」
「やっぱり…。」
倫子はそう言って、がっくりと頭を下げた。
『おもしろくなってきたわね…。』
ニヤリと笑う真美。
『楽しそうだなぁ。』
ニコニコと笑っている聖美。
『何かが始まる…。気がするのだ…。』
クールに決めている未祐。
『今日の晩御飯はなにがいいかしら?』
いつも通り笑顔の桜子。
思いは三者三様ではあるが、全員が全員、共通の期待を胸に秘めていた。
何かおもしろい事が起こりそうだという思いを…。
「で、お父さんからはなんぼもろたん?」
倫子は美姫の目を見ながら言った。
「なんの事やら…。」
美姫はプイっと顔を逸らした。
『お父さんからなんぼかもろてるな…。美姫は都合が悪なったら絶対に目を逸らすからなぁ…。』
倫子はそう看破したが落ち着いた口調で言った。
「あんたがタダで動くはずないやん。怒らへんから言うてみ?お姉ちゃんに言うとぉみ?」
「ひどいわお姉ちゃん…。わたしも久しぶりにお姉ちゃんに会える思て喜んでここまで来たのに…。」
美姫は悲しそうな声で言った。
「新幹線と電車を乗り継いで、船に揺られてここまで来たのに…。」
美姫の精神攻撃はさらに続く。
「下心なんかあらへんのに…。」
そう言って両手で顔を覆う美姫。
ジトーッとした目でそれを見つめる倫子。
突然始まった寸劇を、わくわくした気持ちで見つめる真美達。
さぁ、倫子は美姫の先制攻撃をどう返すのか?
「嘘やね。」
倫子はその一言で美姫の攻撃をはね返した。
なかなか強固な防御力だ。
「あんたがなんの見返りもなしに、動くはずがないやんか。」
『うっ!』
美姫は一瞬たじろいだ。
手の内は全てバレているようだ。
さすがは我が姉である。
美姫は考えた。
『このまま長丁場は不利やな…。いらんこと言われる前に、さっさと切り札を出すしかあらへんわ…。』
「お母さんからも頼まれた事があんねんで?」
美姫は早速、手の内にあるカード「お母さん」を切った。
このカードはキラキラのカードである。
ドロップ率は0.01%ほどの激レアカードであり、攻撃をしても防御をしても、ありとあらゆる効果を無効化しつつ、相手に大ダメージを与えるカードだ。
そう。
手にした者を必ず勝利に導く「覇者のカード」なのである。
ちなみに「お父さん」というカードもあるが、こちらはコモンカードで作りも安っぽく、役に立たない上に数も腐るほどある。
あまりにも価値が低すぎて、トレードの対象にもならない。
「お母さんから?」
倫子の顔つきが変わった。
さすがは神楽坂家最強のカードである。
チラつかせただけで、お姉ちゃんは顔色を変えたのだ。
「お母さんがな、お姉ちゃんが帰りたくないって言うたら無理に連れて帰ってこんでもええけど、乙女座の皆さんは出来るだけ京都に連れてきてって。」
倫子 「え?」
真美 「え?」
聖美 「え?」
未祐 「え?」
「お母さんがお世話になったから、お礼に京都にご招待したいんやって。またみんなで女子会がしたいって言うてたよ。」
「私は別に帰らんでもええって事?」
「そう言う事になるやんね。」
美姫はあっさりと肯定した。
倫子の顔に戦慄が走った!
『なにそれ?私は乙女座に一人でおったらええって事?』
母は倫子に帰ってくる気が無いならば帰ってこなくてもいいから、ハルさんとしりとりでもしていろと言うのだろうか。
それはさすがにあんまりな話ではないだろうか?
想像するだけで悲しくなってくる。
「そんなこと急に言われても、みんな困るやんねぇ…。」
倫子はみんなの顔を見ながら言った。
真美 「美智子ママからのお誘いだし、お言葉に甘えちゃってもいいのかな?」
未祐 「イノシシの神社が見たいのだ。」
聖美 「ボクも京都に行ってみたいなぁ。」
桜子 「わたしはお仕事があるから…。」
美姫 「明後日の新幹線のチケットは、人数分は予約してあるねんです。」
真美 「でもねぇ…、リンが帰らないのに、あたし達が行くわけにはねぇ…。」
未祐 「残念なのだ…。」
聖美 「そうだねぇ…。ボク達だけで行くのはねぇ…。」
皆がそう言うと、全員の視線が倫子に集まった。
この状況で倫子に帰らないという選択肢は完全に消えさった…。
『あ!やられてる!お母さんにはめられてる!』
倫子が気付いた時にはすでに遅かった。
お母さんの一言で、倫子は完全にコーナーに追い詰められていたのだ。
それは美智子が放った死角などまるでない、見事で非の打ち所のない完璧な策略であった。
いや、選択を間違えれば倫子はA級戦犯にすらなり得るだろう。
『みんなで京都に行くのは大賛成なんやけどなぁ…。』
倫子にはなにやら思うところがあるようだったがしばらく考えると
「そやけど、なんで明後日なん?」
倫子は鋭い声で美姫に尋ねた。
「急に迎えに来て明日京都に行きませんかは、さすがに話が急過ぎるやろ?せめて一日は空けとかんと、用事があったりしたら大変やん。一応、明後日の新幹線の予約は入れてあるけど、もしも何日もかかるんやったら、その時は予約を変えたらええだけやろ?」
おっしゃる通りである。
美姫の言い分はまさに完璧だった。
「確かにそうやね…。」
倫子はそう言うので、精一杯であった。
「そしたら皆さんはどうですか?」
未祐 「私は問題ないのだ。」
真美 「あたしも予定は大丈夫だけど、お姉ちゃんと相談しなきゃ。」
聖美 「ボクは仕事だからなぁ。」
三人がそう言うと桜子が笑顔で言った。
「聖美ちゃんはお休みにするから大丈夫よ~。」
「え!いいの桜子さん!」
聖美は身を乗り出しながら言った。
「大丈夫よ~。わたしと真由ちゃんと真奈美ちゃんは仕事があるから、また別の機会にさせてもらうわ。さすがに全員一緒ってわけにはいかないでしょ?」
桜子は笑顔で言った。
「乙女座から誰も居なくなると私も淋しいです。」
天井からハルさんの声が聞こえた。
ハルさんは本当にAIなのだろうか?
AIと言われても信用しがたい部分がある。
「ほんなら残念やけど、桜子さんと真由さんと真奈美さんは秋に京都に来はったらええねんです。秋の京都も風情があってなかなかええですよ。」
美姫はそう言って笑った。
倫子と美姫の会話を聞きながら、真美が未祐にそっと耳打ちをした。
真美 「リンが京都弁で話すのって珍しいわね。」
未祐 「初めて聞いた。」
真美 「京都弁で喋るのもかわいいのに、なんで喋らないんだろ?」
真美は不思議そうだ。
未祐 「京都弁かわいいのだ。関西弁とはちょっと違うのだ。」
「そうね。」
真美はそう言って笑った。
「ほんなら未祐ちゃんと、聖美さんは決定やね。真美さんは明日中に返事をもらえますか?」
「今日中には返事をするわ。」
「お願いします。ほんならお姉ちゃんはどうすんの?」
美姫はニヤリと笑いながら、倫子に尋ねた。
「帰るに決まってるやんか。」
「無理せんでええんよ?」
美姫はすまし顔で言った。
「してへん!」
倫子は目と歯を剥きながら言った。
アハハハハ!
倫子以外の全員が笑った。
【次回予告】
万寿夫から放たれた刺客は、見事任務を遂行した。
風雲急を告げる展開に、右往左往する乙女座の面々。
刺客は青葉島で、何をするというのだろうか!
次回!
「ニワトリはシメたらあかん」
乞うご期待!
※タイトルは変更する可能性があります。




