第4章 第30話 「め組の真髄」
第4章の終わりです。
いつも読んでくれてありがとうございます。
(*^^*)
流れてきたのはスローペースの『愛しているから大丈夫』ではなく、超アップテンポでダンサブルな『ミラクルフォーリンラブ』だったのだ。
ミラクルフォーリンラブは曲の出だしから激しいダンスが始まる、大変ダンスの難易度が高い曲である。
それだけではない。
激しく踊りながら歌うので、歌のほうも息が続かない事があるのだ。
という事は一瞬の遅れがダンスにズレを生み出し、取り返しのつかない事になる。
とりあえず曲の出だしの振り付けに合わせ、3人はステージの中心に集まった。
そして3人はそのまま、石像のように固まって動かなくなった。
それはまるでそういう振り付けなのよ。
とでも言うように。
3人は焦っていた。
次の仕切り直しのポイントまではまだまだ時間があるが、次が仕切り直しの最初で最後のチャンスである。
次を逃せば3人のダンスを合わせる事は難しくなるのをわかっているだけに、3人の焦りと緊張はピークに達してしまったのだ。
どうしよう。
このままでは、晴れの舞台でオロオロとしたみっともないダンスを晒す事になる。
3人は頭が真っ白になりそうになった。
すると突然、キツネのかぶり物を被ったチビのダンサーが、ステージの前に踊りでた。
チビのダンサーはその体格を上手く活かし、ステージの上を背中でクルクルと回りながらブレイクダンスを始めた。
オオォ!
観客達がざわめき始めた。
「あいつ、かぶりものを被って法被着てブレイクダンスを踊ってやがるぜ!」
観客の一人が吠えた。
「すげぇスピードで回ってやがる!」
パチパチパチパチ!
観客達から拍手が起こった。
チビのダンサーはブレイクダンスをばっちり決めた後、すっくと立ち上がると胸を張って腕を組むと再び踊りだした。
オオオオ!
観客達の視線はチビのダンサーに釘付けになった。
そこにウサギのかぶり物をしたバックダンサーが踊りつつ、石のように固まった3人に近づいてきた。
「え?」
「次のタイミングまで場は持たせる。その間に落ち着いて息を整えたまえ。」
ウサギはそういうと、踊りながら後ろへと戻っていった。
3人は同時に目を瞑った。
不思議な事に気持ちが落ち着いていく。
そこに焦りも不安もなかった。
3人は全神経を耳に集中させながら体でリズムをとる。
今3人の頭にあるのはこのステージを成功させる事しかない。
3人の集中力が高まり、ある種のゾーンに入ったのだ。
だんだんと仕切り直しのタイミングが近づいてきた。
そのタイミングがきた瞬間。
3人はカッと目を開き、一瞬のズレもなく踊り始めた。
チビのダンサーはすでにバックに戻っており、他のダンサー達と共に踊っていた。
彼の役目は終わったのだ。
ここからのマインズは凄かった。
今までにないほどのキレッキレのダンスを決めつつ、思いっきりミラクルフォーリンラブを歌い上げた。
ノリノリでダンサブルな歌に観客達も盛り上がり、惜しみない拍手と声援を送った。
バックダンサー達も見事なシンクロダンスを見せ、マインズに見事な華を添えた事を付け加えておこう。
「かーっ!そうきたか!」
プロデューサーは強く握った拳を振り回し、嬉しそうに叫んだ。
二曲目にして観客の心をつかんだマインズは、三曲目の『愛しているから大丈夫』ではユニークな歌詞をポップな曲調にのせて歌い、観客達を笑顔にさせた。
四曲目の『好きが止まらない』では複雑な乙女心を歌ったのだが、どうやら女性の共感を得たらしく、歌を聴きながら何度も頷く女性客の姿も多く見受けられた。
マインズがラストのバラード曲『大好き!』をしっとりと歌いあげると、観客からは大きな拍手と歓声が巻き起こった。
マインズは今までに聞いた事がないほど大きな拍手と歓声を浴びながら、満足感に包まれていた。
やり切ったという達成感ではない。
楽しかったという満足感だ。
アイ 「今日はありがとうございました~!」
マイ 「また見に来てくださ~い!」
ミィ 「待ってま~す!」
惜しみない拍手と歓声の中、3人が客席に深々とおじぎをしてから、退場しようと後ろを向いた。
アイ 「あれ!」
マイ 「あれれ?」
ミィ 「あれれれ?」
バックダンサー達の姿はそこにはなかった。
ステージには3人しかいなかったのである。
ライブが終わり機材を車に載せ終えた3人の所に、真奈美がやってきた。
「真奈美さん!」
アイは驚きながら真奈美に声をかけた。
「来てくれたんですね。」
マイも嬉しそうだ。
「わざわざありがとうございます。」
ミィはそう言って真奈美におじぎをした。
「マインズはひまわりのタレントさんなんだもの。当たり前じゃない。」
真奈美はそう言って笑った。
「お、渋谷マネージャーじゃないか。」
やってきたプロデューサーが真奈美を見て声をかけた。
「あら藤野さん。お久しぶりです。」
真奈美はそう言ってプロデューサーにおじぎをした。
「真由ちゃんは元気かい?」
「はい。おかげさまで。」
「なるほど~。ひまわりさんとこの子達だったのか。」
「これからもよろしくお願いしますね。」
「こっちこそよろしくね。じゃあまた!マインズ。名前は覚えたよ。」
プロデューサーはそう言って、手を振りながら帰っていった。
「何か用事があったんじゃないのかな?」
アイはそう言って首を傾げた。
「気にしなくてもいいわ。ああいう人なのよ。それよりお腹空いてない?なんか食べにいこっか?今日は奢っちゃうわよ?」
アイ 「やったー!」
マイ 「お腹ペコペコ~。」
ミィ 「ご馳走様で~す!」
4人はそう言って、車に乗り込んだ。
翌日、マインズの3人はめ組にお礼を言ったが、知らぬ存ぜぬとつっぱねられた。
「我々はマジカルの親衛隊である。マインズの親衛隊ではない。」というのがめ組の言い分だ。
そのわりにライブの映像を編集した画像をくれたのが納得できなかったが、その映像の出来栄えに驚かされたので深くは追求しなかった。
それほどまでにライブ映像は格好よく編集されていたのだ。
ちなみに翌日からライブで歌った曲のCDが売れていき、すぐに品切れとなりライブの方も客数が増えてきた。
TVで流れたライブの効果があったようである。
バラエティ番組では水着姿を披露し、熱湯風呂に入れられるというバラエティの王道をやらされ、傷痕も残せたのでそれは別によかったのだが、ライブの映像が10秒も流れなかった方がマインズの3人を大いにへこませた。
第4章の終わりです。
第4章は、あまり盛り上がりがなかったと思います。
「ステップアップ」というタイトルに沿っているので仕方がない部分もありますが、それにしても盛り上がりに欠けた感は否めません。
次章からは頑張りますので、よろしくお願いします。
サトミンの日記は、シリーズ化しようかなと思っています。
どうやらサトミンは、日記の方が素直に感情を出せるようなので。
第5章は1/4からの更新となります。
いつも、拙い文章を読んでくれてありがとうございます。
皆様、良いお年を!
2021/12/31 冴村 彰




