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第4章  第27話 「にぶちんは悩む」

27話です。



いつも読んでくれてありがとうございます。


 (*'-'*)

宮村健斗は「にぶちん」である。

特に女性関係に関しては恐竜並みに鈍い。

健斗はルックスも悪くなく体格もいい。

性格もやさしく人当たりもいいほうなので大学でも女子に人気があり、学内を歩けばどこからか女生徒が寄ってくる。 

男としてはうらやましい限りである。

 出来れば街中の何もない所で盛大に(つまず)き、赤っ恥の一つもかいて欲しいと願う男子学生も少なくはない。



ところがこの男は、あろうことかそういった状況が疎ましいと思っている。

かと言って、女性を邪険に扱うことは紳士としては許されない行為なので、正直そっとしておいて欲しいのが本音だ。

お前はイギリス人か!

紅茶とフィッシュアンドチップスか!

と突っ込みたくなる話ではあるが、どうやらジェントルメンは彼の信念のようなものらしい。

  

宮村健斗は女の子に興味がないわけではない。

青山真美以外の女性には興味がないだけだ。

かと言って、真美をいやらしい目で見ているわけではない。

彼はジェントルメンなのだ。

ジェントルメンは決して、いやらしい目で女性を見たりはしない!

ビバ!ジェントルメン!


振り返ってみると健斗と真美の付き合いは長い。

健斗のこの島での思い出の中には、常に真美の姿が垣間見えるほどだ。


健斗が真美と初めて出会ったのは、健斗が青葉島に来たその日であった。

初めて出会った頃の真美は人見知りも激しく、伏し目がちでいつもオドオドとしている少女だった。

倫子が聞けば目を丸くしたあと「ないないない。」と言って顔と腕を大きく横に振るだろうが、紛れもない事実である。

歴史を歪曲する事は出来ない。

 


そもそも健斗がこの島に住むようになったのは、11才の時の母の死がきっかけであった。

それまで健斗は母と二人、都内のボロアパートで暮らしていた。


健斗の母は、朝から晩までアルバイトを掛け持ちしながら、働き続けていた。

贅沢とは縁遠い生活ではあったが健斗は幸せだった。

学校行事があると母は毎回アルバイトを休んで来てくれたし、年中行事は正月からクリスマスまで全てやってくれた。

外食は年に1回だけ。

お店で売っているケーキなど食べた事もなかった。

健斗の好きなケーキもプリンも、全て母が作ってくれたからだ。

初めてお店のケーキを食べた時は

『なんだ。こんなもんか。』と思ったほどだ。

もちろん口にはしなかったが。

 


母はいつも笑顔の素敵な女性(ひと)だった。

たまに夜中に一人で泣いたりしていたけれど、翌朝には元気いっぱいの笑顔を見せてくれた健斗の自慢の母親だ。

そんな母が健斗が10才の時に倒れた。

癌だった。

母が入院してからしばらくして、学校が終わってお見舞いにいくと病室に知らない男がいた。

母さんからお父さんだと紹介された。


『なんだそれ?そんなのがいたのか?』

まず最初にそう思った。

そしてすぐにこいつをぶん殴ってやろうと思った。


「今の今まで俺と母さんをほうったらかしにしやがって!今さらのこのこと出てきて、なんのつもりだ!」

「お前がそばに居てくれていたら、母さんの病気にも早く気がつけたはずだ!」

「お前がそばに居てくれていたら、母さんは休みなしで働かないで済んでいたはずだ!」

「お前がそばに居てくれていたら、母さんは寂しい思いをしなくてもはずだ!」

「今さら出てきてなんの用があるんだ!」

言いたい事は山ほどあった。

して欲しかった事も、一緒にやりたかった事も山ほどあったのだ。


母さんと二人、小さなオンボロアパートでの生活は貧しくても楽しかったのだ。

今思い出しても楽しい思い出しかない。

それでも父親が居てくれればと思う事もあった。

そう思うと目の前の父親と言う男が許せなかった。 

健斗にとって父親とは、憎むべき対象でしかなかったのだ。



それからしばらくして母さんが死んだ。

健斗は父親と名乗る男に引き取られる事となったが籍はそのままだった。

健斗は安心した。

死んでも父親の姓を名乗りたくなかったからだ。


父親と名乗る男は健斗の気持ちを知ってか知らずか何も言わなかった。

姓どころか他に聞きたいであろう話も、本当に何も聞かななかったし、何も言わなかったのだ。



健斗は青葉島に来てすぐに乙女座へと連れてこられた。

父親と名乗る男は今日からここに住めと言った。

乙女座には桜子さんと真由さん。

それに真美の三人がいた。

桜子さんは乙女座の寮母さんらしく、真由さんは中学2年生のお姉さんで真美は1歳年下だ。



最初の頃はぎこちない関係ではあったが、半年もしないうちに仲良くなれた。

ハルさんが居るとはいえ男は自分一人である。

しっかりしないといけない!という気持ちが自然と芽生えた。

真美とは特に仲良くなった。

真美は少しづつ明るくなって人見知りをしないようになり、毎日のように二人で喧嘩や漫才のような掛け合いをするようになった。

 

ある日、二人で桜子に頼まれたお使いに出かけると、見知らぬ年配のご婦人から

「仲のいいご兄妹ね。」

と言われた事がある。

健斗はまんざらでもなかったが真美の方は

「お兄ちゃんじゃない!」

と言ってかなりご立腹のご様子だった。

健斗は自分が頼りないからだと思い、乙女座に帰ってからはかなりへこんだ。


 

健斗は高校入学までの5年間を乙女座で過ごしたが、高校入学と同時に乙女座を出て一人暮らしを始めた。

父親と名乗る男から言われたからではない。

年頃の男性がいつまでも女性と一緒に住むわけにはいかないので、どうしたいのかと尋ねられたから自分で決めただけの話である。

父親と名乗る男とは、どうしても一緒に住む気にはなれなかったのだ。



話し合いの結果、健斗は熱血ビルの3階にある部屋で生活をすることになった。

話し合いと言っても、こっちが一方的に意見を言っただけだったが。

一人暮らしと同時に熱血屋でアルバイトを始めたのには「あんなやつに頼りたくない。」という気持ちも強くあった。



一人暮らしを始めると、真由と真美が料理を持ってきてくれるようになった。

真由と真美が持って来てくれた料理は美味しかったし、桜子さんが毎日お弁当を作ってくれたので食生活は充実していた。

未だにあの充実感を超えるものを味わった事はない。

「一人じゃ寂しいでしょ?」

と言って健斗の部屋にみんなで集まり、夕飯を食べる事もあった。

照れくさかったが嬉しくもあった。



ところが真美が高校に入学してから、真美の態度が一変した。

突然、健斗につっかかってくるようになったのだ。

あまりの真美の変貌ぶりに健斗は戦慄を覚えた。

わけがわからなくなってパニックになったほどだ。

理由を真美に聞いたが絶対に教えてはくれなかった。

真由にも聞くと、教えてはくれなかったが一言だけこう言った。

「理由を聞くよりも、自分で探すほうが大切なんじゃないかしら?」



あれから3年経ったが未だに理由はわからない。

 理由さえわかれば健斗はなんでもするつもりだ。

 謝れと言われればいくらでも謝るし、直せと言われれば必ず直してみせる。

桜子にも聞いてみたが桜子は…。

いつものように笑っているだけだった。



健斗の悩みは二つある。

一つは真美との関係の改善だ。

この問題が健斗にとって一番重くのしかかっている。

ついには倫子にまで協力を頼んだが、うまくいってくれるだろうか?

しかし健斗よ。本当にそれは藁なのか?

困った時は藁をも掴みたい気持ちはわからなくもないが、もう一度よく見たほうがいいぞ?

藁だと思って掴んでみたら、ティッシュだったらどうするつもりだ?

何せ健斗が掴んだ藁は色気より食い気の「食欲女子」なのだから…。


もう一つの悩みは真美との関係に比べれば遥かに軽い。

こっちの方は月日が経つにつれ、少しづつは変わってきているし、何より健斗自身が大人になりつつあり、子供の頃のよりも嫌悪感は薄れてきている。

同じ悩みでも比べるてみると、ティッシュと漬物石ほどの違いがあるだろう。

なんとかなるさが正直なところだ。


しかし健斗の悩みはしばらく解決しそうにはないだろう。

なぜなら健斗はいくらボイスチェンジャーで声を変えているとはいえ、会う度に喧嘩をしているマジカルブルーの正体に気づかない、筋金入りの「にぶちん」なのだから…。 

寒いです。


@2日で今年も終わり。

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