第4章 第24話 「備えあれば憂いなし」
24話です。
サンタさんは来ましたか?
いつも読んでくれてありがとうございます。
<(_ _)>
真っ暗な部屋の中、カタカタと音を立てながら変形バカがPCのキーボードに指を滑らせている。
彼は今、新素材の開発を急いでいた。
開発を急ぐ理由は道化師の登場にあった。
今のマジカルの性能ならば道化師を対処するのに何の問題もないが、しかしそれは今の話であり、これから先となると話は別である。
人が緊急事態を想定し、避難場所を覚えて防災バッグを用意するように、いざという時のために備えるのは必要な事である。
三変人は緊急事態に備えているのである。
それほどまでに道化師の登場を、脅威として明確に捉えていたのだ。
だからこそ新素材の開発は必要不可欠であり、早急に行うべき事である。
なぜなら新素材の開発は、彼にしか出来ない事なのだから。
彼は元々、素材に関しては全く興味がなかった。
変形以外に興味がないと断言してもいい。
彼が素材を開発するようになったのは、必要に迫られた部分が大きい。
可変機というのは変形機構が複雑になる分、構造上どうしても脆くなってしまうのだが、脆い箇所は当然、欠点であり弱点である。
その弱点を補うために、彼は軽くて硬い新素材の研究を始めたのだ。
マジカルの外装に使われているミルフィーユ装甲の誕生は、まさに偶然の産物であった。
出来る限り薄く硬い装甲をと考えていた彼は、厚さ1mmにも満たない新しい素材を開発した。
その素材は1枚でもかなりの強度を持っていたが、実験を続けていくうちに面白いことがわかった。
この素材自体を分厚くしてもそれほど強度は変わらなかったのだが、薄いままで重ねていけば重ねていくほど強度が増していったのである。
彼はこの素材を「ミルフィーユ装甲」と名付けた。
マジカルの装甲にはこの素材を10枚重ねて使用しているが、それでも10mmほどの厚みしかない。
こうして薄くて軽い、まさに夢のような装甲が生まれたのだ。
かなりの時間と手間をかけてではあるが。
マジカルが硬く軽く出来ているのは、彼の開発した「ミルフィーユ装甲」のおかげである。
ひょうたんから駒とはこの事かもしれない。
彼は物心がついた頃からロボットが好きだった。
理由を問われても今でもうまく言えないのだが、ロボットの事を考えるだけであっという間に時間は過ぎていくのだ。
彼は古今東西を問わず、ありとあらゆるロボットアニメを見た。
それこそ片っ端から見尽くしたが、小学生の時にある古いロボットアニメを見て彼の全身に衝撃が走った!
空を飛ぶ戦闘機が突然、空中でロボットに変形したのだ。
「美しい…。」
流れるような美しい変形シーンを見て、彼は一言そう呟いた。
それから彼はありとあらゆる変形ロボットアニメを見倒し、その変形方法を全て頭に焼き付けた。
彼はお小遣いを貰うと模型屋に飛んで行き、変形ロボットの模型を買い漁るようになった。
変形の構造を見て勉強するためである。
とまぁここまでならどこにでもいる、少し熱の上がった子供だろう。
だが彼は違った。
彼の上がった熱は少しどころではなかったのだ。
彼はロボットだけでは飽き足らず、車やバイクはもちろんの事、鉛筆や消しゴムなどの文房具、鍋釜や家具に至るまで、目にする物の全てを、頭の中でロボットに変形させ始めたのだ。
そう言った変形玩具は店に売られている場合もあるが、彼はそれらを見ても「自分ならこうするなぁ。」という目で観察を始めた。
そんな事を続けていくうちに、彼はあらゆる変形パターンを網羅し、さらにはオリジナルの変形機構すら確立させていったのだ。
彼は自分が変態だという事を自覚していた。
だからそういった部分は表には一切出さず、誰にも気付かれる事なく社交的な対人関係を保ちつつ、普通に生活をしたのである。
自分のような変わり者は他にはいないだろうと思いながら。
中学生になった彼は、入学初日にある少年と知り合った。
無愛想で少し冷めた目をした少年だった。
彼はその少年の顔をよく見知っていた。
学校は違うが、たまに模型屋で見かける少年だった。
その少年は模型屋でも車や戦闘機には目もくれず、武骨なロボットの模型ばかりを選んで買っていた。
彼を横目にしつつ、変形ロボットの模型ばかりを買うお前とは違うぞ!とでも言わんばかりに。
最初に少年を見た時は、こんなに無愛想な人間は自分とは合わないと思ったが、同時に少年から自分と同じような匂いを感じたのも事実だった。
少年の方も彼から同じ匂いを感じとったのだろう。
全く違うタイプの2人が打ち解けあうのには、さほどの時間もかからなかった。
そうやって2人でつるんでいるうちに、彼と少年は中学2年生になった。
新しいクラスメートの中に、育ちの良さそうな言葉遣いからして丁寧でキザったらしい少年がいた。
回りの話を聞くと、どうやら島の名家のボンボンらしい。
しかし2人はその少年を見てすぐに見抜いた。
この少年が自分たちと同じタイプの人間だという事を。
些細な会話をきっかけに、3人はあっという間につるんで行動をするようになった。
無愛想な少年の家は
産業地域にある小さな町工場だったので、3人は学校が終わると工場に集まり始めた。
彼らが何をやっていたかというと、車やバイクのスクラップを集めてハンドメイドのロボットを作っていたのだ。
彼らが最初に作ったのは人間サイズのロボットで、話をするどころか動くことすら出来ないただのハリボテだった。
しかしそれは仕方がない事だろう。
まともなロボットを作る技術など、まだ中学生の彼らにあるはずがないのだ。
彼らは前回の反省をふまえ、すぐに次のロボットを作り始めた。
3人は意見を出しあい、時には言い争いをしながらも何度も何度も試行錯誤を繰り返しながら、次々とロボットを作り出した。
彼らがロボットを作る度に完成度は上がっていった。
高校三年生の時、彼らは初めて人が操縦するロボットを作った。
そのロボットは今と比べれば大した動きは出来なかったが、人を楽しませるのには充分な動きをするロボットだった。
そのロボットの噂を耳にした「青葉遊園地」の社長が、3人にロボットを売って欲しいとやって来た。
3人が作ったロボットを遊園地の目玉にしたいらしい。
3人は悩んだが、ロボットを見て喜んでくれる人がいて島が活性化するのならばと思い、一つだけ条件をつけて遊園地にロボットを売った。
社長はかなりの高額で買い取ってくれた。
ロボットは遊園地の目玉になり、週末にもなるとたくさんの観光客が島に訪れ、島も遊園地も大盛況となった。
なにせ人が操縦するロボットのある遊園地だ。
お客さんが押し寄せるのも当然だろう。
ロボットは3人にも多大なる恩恵を与えてくれた。
スクラップだけで作ったほとんど元手のかかってないロボットが、かなりの高額で売れたのだ。
そのお金で次はもっと高性能のロボットを作れるはずだ。
彼らがロボットを作った話は大学関係者の耳にも入り、創立からまだ年数の浅い「青葉ロボット工業大学」に、3人揃って特待生として入学する事になった。
彼らが大学で出会った人達は、彼らに多大なる影響を与えてくれた。
その影響力はマジカルにも大きく関わっている。
大学での4年間は3人の成長を一気に加速させたのだ。
彼らは在学中にロボット関連の特許を取り始めると、特許は彼らにたくさんのお金を運んでくるようになった。
彼らがとった特許の数々は、3人が一生働かなくても食べていけるだけの金額を生み出したのだ。
大学を出てから20年近い歳月が過ぎたが、今でもロボットを作れる現在に、彼は満足していた。
今はなかなか外には出られないが、その程度の不便さはなんとか我慢が出来る。
とはいえ、彼は運動不足を解消するため、毎日トレーニングルームで汗をかいているが、たまには日の光を浴びないと体の調子がおかしくなるような気もする。
生活物資についてはなんら問題はない。
欲しい物があれば大抵の物は大臣かスパロボバカが用意をしてくれるし、運べないような大きな荷物はネットで注文すれば問題はない。
今の時代、お金さえあればどこに住んでいても不便なく生きていく事は出来るのだから。
「うーん…。」
変形バカはそう言うと、眼鏡を外し目元を手でおおった。
「どうも、うまく行きませんねぇ…。」
変形バカは椅子に座ったまま、両手を広げて大きく伸びをした。
「とはいえ、少しでも前に進めないと、話になりませんからね。急がば回れというやつなんでしょうね。」
変形バカはそう言って、再びPCとにらめっこを始めた。
暗い部屋の中、今日も変形バカはPCの前に座る。
誰にも気を使わず、堂々と大手を振って外を歩く日を夢みながら。
もうすぐ今年も終わりますね。
1年が早い気がします。




