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第一章 10話「巨大なる王」

第一章 10話です。

「大きなお風呂は最高ですね~。」

倫子は今にも溶けだしそうな声で言った。

お店中を走り回って疲れた体に、暖かいお湯が染みこんでいくようだ。

倫子の頭の上には白いタオルが乗っている。



「アルバイトの後のお風呂は最高でしょ~?ここのお風呂は24時間いつでも入れるからね。すごく助かっているのよ。」 

真美は気持ちよさそうに瞼を閉じたまま、倫子に話しかけた。

真美は洗い髪をまとめてピンで留めた頭の上に、倫子と同様、白いタオルをちょこんと乗せている。なぜ巻かないのかが不思議だが。

「疲れがお湯に溶けていくわ~。」

そう言う真奈美も白いタオルを頭の上に乗せている。

「実際に働いてみて、お店はどうだった?」

真美が倫子に尋ねた。

「全然役に立てなかったなぁって思います。」

倫子はそう言って体を湯船に沈めるて口元までお湯につかると、ブクブクと口から泡を吹き出した。

ジャグジーのつもりなのだろうか?


「そうかしら?リンちゃんはよく頑張っていたわよ。」

真奈美がそう言うと真美が続いた。

「初めてにしては上出来だったわよ?」

「私、お料理を運ぶ事しか出来なかったし、役に立ったのかなぁって…。」

倫子はお湯から顔を出して言った。

「最初はみんなそうよ。」

真奈美が倫子の顔を見ながら言った。

「前に来た子なんて30分で帰ったんだから。」

真美があきれた風に言った。

「さ!30分ですか!」

さすがに倫子も驚いた。



「忙しさでパニックになっちゃってね。平日だったから、今日ほど忙しかったわけじゃあないんだけど。」

そう言うと真奈美はクスッと笑った。

「でも私、ローラーブレードにも乗れないし…。」

倫子は暗い表情を浮かべた。

「私達だって最初は乗れなかったわよ。それに料理運びしか出来なかったし。ねぇ?真奈美ちゃん?」

「そうそう。ローラーブレードだって、3人で練習したんだから。」

「学校終わりに3人で青葉公園に行ったわね~。」

真美が懐かしいそうに言った。

「そうそう。体中傷だらけになったけど、楽しかったわね~。」

真奈美も懐かしそうだ。


「3人ってマミさんのお姉さんとですか?」

「そうよ。お姉ちゃんが一番うまく滑れるの。何やらせても上手なのよ。」

真由まゆちゃん器用だもんね。」

「器用で綺麗で頭も良くて。ほ~んと。嫌になっちゃう。」

真美はそう言うがその横顔は誇らしげだ。

そんな真美の顔を見て倫子はほっこりっとした顔になった。

『マミさんとマユさんて、仲ええんやな…。』



「ところでリンはうまくやって行けそう?」

真美が倫子の顔を見ながら言った。

「え?」

「ここでの生活よ。」

真美はそう言いながら頭の上のタオルを取り、お湯の中を泳がせる。

「はい。って言いたいですけど、母がなんて言うか…。」

倫子はそう言うと、再びブクブクと泡を立てながら鼻の下までお湯の中に沈み込んだ。

「お母さんの気持ちなんて、どうでもいいじゃない。」

真美は頭の上に、タオルを乗せながら言った。

倫子は浴槽に体を沈めたまま、目だけを真美の方に動かした。

「私が聞きたいのはリンの気持ちよ。要はリンがどうしたいかって事。」

真美はそう言ってリンにウインクをした。



倫子はお湯から顔を出すと、真剣な顔で言った。

熱血屋(ここ)で働きたい…。」

「だったら働けるようにお母さんにアピールしなきゃね。」

真奈美がそう言うと、倫子が元気よく言った。

「はい!」

「そういえばさ。リンの学部はどこ?」

唐突に真美が尋ねた。

「ロボット工学部です。」

「な~んだ。あたしと一緒じゃない。明明後日しあさっての入学式。一緒に行く?」

「え!」

真美はあっさりとそう言ったので、倫子はびっくりした。

『年上やとおもてた…。』

「はい。」

倫子は笑顔で答えた。

「かたっくるしいわねぇ。もっと言葉を崩しなさいよ。どうせ私の方が年上だと思ってたんでしょ?」

そう言って真美は悪戯っぽく笑った。

完全に見透かされている。

「う、うん。」

倫子はそう言うので精一杯だった。




お風呂から上がった3人はバスタオルを体に巻いただけの姿で冷蔵庫の牛乳を飲むと、脱衣所の鏡の前に並んで座った。

それにしても瓶の牛乳を飲む時に、腰に手をあてるのはなぜだろう?

3人がドライヤーで髪を乾かしていると、真美は右隣から妙な視線を感じた。


「どうしたのリン?」

真美が隣を見ると、倫子が真美の体をじっと見つめている。

「なになになに?」

真美は不思議そうに尋ねる。

「マミちゃんも真奈美さんもスタイルがいいなぁって。」

そう言って倫子は何度も首を左右に振り、真美と真奈美を見比べている。

「はぁ?何言ってんの?」

真美はあきれたふうに言った。

「なにそれ~。」

真奈美も笑っている。

真美 「リンだって充分、スタイルいいじゃない。」

真奈美 「そうよリンちゃん。」

「私なんて全然…。」

自分で言うのもなんだが、自分の体は自己主張が控え目な方である。

そのくせお腹だけは、すぐに自己主張しようとするのがうらめしい。


「だいたいスタイルなんて気にする必要ないのよ。顔がどうとかスタイルがこうとか、いちいち男の言うことを気にしてたらキリがないわ。」

真美は呆れている。

「そうよ。顔とかスタイルなんて言う男に、ロクなのはいないんだから。」

真奈美も真美の意見に賛同する。

「男なんてバカばっかり。熱血屋(ここ)でバイトをしてたらリンもわかってくるわ。」

真美はそう言うと笑った。

「そうそう。」

真奈美もそう言って笑う。



真美 「大体、体なんてDNAの器でしかないんだからね。体は親から貰ったものだけど、心まで貰ったわけじゃないでしょ?いい意味でも悪い意味でも。」

真奈美 「いくらお皿が綺麗でも、料理がおいしくなくっちゃね。」

「なるほど…。」

倫子は2人の言葉を聞き、妙に納得した。

『深い…。』



「人それぞれの価値観はあるでしょうけど、気にする必要なんて無いんじゃないかしら?」

真奈美がブラシで髪をとかしながら言った。

「わたしは他人の価値観に振り回されて生きていくなんて、まっぴら御免だわ。言いたい奴には言わせておけばいいのよ。」

そう言って真美は髪をとかしながら、鏡とにらめっこをしている。

『2人ともしっかりしてはるなぁ。私もしっかりせな。』




「そう言えばさっきのホイさん凄かったわねぇ。」

真奈美は急にホイさんの話を切り出した。

「すっごい上機嫌でさ。リンに肉まんまで持たせて『次はホイさん自慢の餃子食べるね。』だって。あんなホイさん初めて見たわ。」

「リンちゃんも凄かったわねぇ。リンちゃんは美食家なのね。」

「食べる事が好きなんです。高校時代は食べる事しか楽しみがなかったんです…。」

倫子は青葉ロボット工業大学に合格するために、二年間猛勉強をしたのだから、遊ぶ暇もなかった倫子が食に走るのも仕方ないだろう。

勉強の合間のおやつくらい楽しみがなければ、気が狂っていたかもしれない。

 


「頑張ってお勉強してたのねぇ…。えらいわぁ。」

真奈美はそう言っていたく感心していた。

「いえいえそんなたいした事じゃあ…。あ!ホイさんから貰った肉まん。あとでみんなで食べましょうよ。」

倫子は笑顔で2人に話しかけた。

「私はもうお腹いっぱい。これ以上は無理だわ。」

真美はあっさりと断った。

「私も無理…かな?」

真奈美は気まずそうに断る。

気のせいだろうか?真奈美の顔が少し引きつっているように見える

「そうですか…。」

倫子は残念そうだ。



「ホイさんの肉まんもおいしいわよ~。でもさっきみたいにおいしいからって、夜中に興奮しちゃダメよ。」

真美はそう言うと、倫子の顔を見てニヤリと笑った。

「はい…。」

倫子は顔を真っ赤にしながら俯いた。

「リンはお金持ちの家のお嬢さんなの?」

真美が倫子に尋ねた。

「お金持ちじゃ無いです。実家は普通の和菓子屋です。ただ…。」

「ただ?」

「場所柄、料亭さんなんかにも和菓子を納めていて、そういった知り合いが多いんです。」

「京都の料亭って聞くとなんか、凄く高そうなイメージね。」

真美がその言うと、倫子が慌てて言った。

「確かにそう言うお店もありますけど、普通のお店も多いですよ?」

「へぇ~。そうなんだ。」

「京都って聞くと高級なイメージがあるみたいですけど、本当は逆なんです。」

「逆?」

 真美は驚いた。

「昔の京都や大阪の人は勿体ない精神が強くて、野菜の皮とかへたなんかの普通なら捨てるようなところを調理して食べるのが上手なんです。その技法が発展して京料理になったとも言われています。」

真美 「へぇ~。」

真奈美 「へぇ~。」

2人は同時に声をあげた。


「東京では初物なんかを大事にしていますよね?」

「初ガツオね。」

真奈美が言った。

「関東では初物を縁起物として高価な取引をしたりしますけど、関西の人はよほど好きな物でない限り、初物には手を出しませんし高値なら買いません。カツオにしても初物よりも、秋の戻りガツオの方を好みます。」

「真逆なのね。」

真美はキョトンとしている。


「初物が高いのはご祝儀込みだからなんでしょうね。それが江戸っ子の気っぷのよさなんですね。」

「リンちゃん詳しいのね。」

真奈美がそう言うと

「全部、父と母からの受け売りです。」

倫子はそう言うと笑った。

「そういう所はあたしも関西人なのかもしれないわね…。」

真美はそう言って真面目な顔になった。




3人が髪を乾かし終え、パジャマに着替えて乙女湯から出ようとする時だった。

倫子の前を歩く赤いパジャマ姿の真美が、倫子の方に振り返った。

倫子のパジャマは薄いピンクだ。

「桜子さんていくつに見える?」

真美が唐突に質問をしてきた。

「ん~。」

倫子は頭を悩ませた。

桜子が若いのはわかるのだが、いくつかと聞かれるとわからない…。

「わからないのなら今度聞いてみたら?」

黄色いパジャマを着た真美がそう言うと、真奈美が笑い始めた。

「ふふふふふっ。」

「でも…。」

桜子さんに失礼ではないだろうかと倫子は思ったのだ。

「大丈夫大丈夫。桜子さんは絶対に怒ったりしないから。出来れば私達がいるところで聞いてね。」

真美はそう言って笑った。



肉まんの入った赤い箱を持って部屋に戻った倫子は、テーブルの上に箱を置くとすぐにベッドの上に倒れ込んだ。

『今日は一日中バタバタやったなぁ…。いろいろありすぎて、わけがわからんわぁ…。』

そんな事を考えながらぼーっとしていると

『そうや。肉まんを食べなもったいないわ。』

肉まんを思い出した倫子はむくっとベッドから立ち上がると、テーブルの上に置いた赤い箱を取りに行きすぐにベッドに戻った。

箱はかなり大きくて、小さめのホールケーキくらいなら余裕で入るだろう。

倫子はベッドに腰掛けると箱を手を当てた。

まだまだ全然あたたかい。

箱に保温機能が付いているのだろうか?


『肉まんくらいやったらまだ入るやんなぁ。せめて一個だけでも食べなあかんやろし。あったかいうちに食べへんと、ホイさんにも失礼やし…。』

倫子よ。あれだけ食べてまだ食べるのか!

いや、まだ食べられるのか!

倫子はそんな軽い気持ちで箱を開けると、開いた箱からは白い湯気が立ちのぼり、肉まんがその全容を表した。

肉まんを目にした倫子は思わずギョッとした。

倫子の目が大きく見開かれている。



皆の者。

ただの肉まんと侮れるなかれ。

なんとその肉まん、倫子の手のひらよりもはるかに大きかったのだ。

当然厚みもあり、一番厚いところは10cm以上はあるように見える。

まるで巨大な肉まんの王様が、箱の中で威風堂々と座しているようだ。


このサイズを一人で食べきる人がいるのだろうか?

どこからどう見ても、明らかにファミリーサイズである。

家族どころか、おじいちゃんおばあちゃんまでシェア出来るだろう。

「でっか!」

倫子は思わず大きな声をあげた。

いろいろと助けて貰いながら、書いています。

ファッションに無知なのが、これほど自分の首をしめるとは…。

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