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 息巻いて「やります!」と宣言したものの。


「……これはいったいどういうことなのかしら?」


 ティーゼは部屋の中をぐるりと見渡して、「うーん」と首をひねった。

 ティーゼはここに働きに来たのである。つまり、サーヴァン男爵家の使用人だ。使用人……のはずである。


(使用人が生活する部屋じゃ、ないわよね?)


 ティーゼが与えられた部屋は二階の角部屋だった。部屋は広く、中の家具は、白やピンクやオレンジと、とにかく明るく可愛らしいものばかりが揃っている。そしてどれも高そうだ。


(……ここでも、ノーティック公爵の名前が影響しているのかしら……)


 ティーゼはため息をつきたくなった。

 結婚して五年。ティーゼが邸に閉じこもっていた理由がこの「ノーティック公爵の名前」である。

 ティーゼの夫であるイアンは家に帰ってこないけれど、ティーゼの自由を奪っていたわけではない。遠出するにはマイアンを通して公爵に連絡を入れる必要があったが、買い物やパーティー、茶会への参加は自由で、いつでも好きな時に好きなだけ外に出ることができたのである。


 けれどもティーゼは、自分がもうアリスト伯爵令嬢でなくノーティック公爵夫人だと自覚した瞬間に、外出するのをやめた。どこへ行っても「ノーティック公爵夫人」と、まるでティーゼ自身が女王にでもなったかのように、誰もかれもが媚びへつらうからだ。

 ティーゼの中身は何一つ変わっておらず、それどころか伯爵家で生活していたときとは違って、公爵家に衣食住のすべての面倒を見てもらって、なにも――びっくりするほど、何の苦労もせずにただ家の中でのんびりしているだけの存在だ。何も偉くない。偉いのはノーティック公爵の名前と、国王の優秀な右腕だという夫であって、ティーゼではない。


 それだと言うのに、公爵夫人になった途端、どこへ行っても特別待遇。だんだんと息苦しくなり、次第に外へ出る気が失せて、家の中に閉じこもるようになった。

 まだ公爵家の妻としての義務を果たせていればこんなに苦しくなかったかもしれない。けれども夫は帰って来ず、家のことは執事がすべて取り仕切り、当然のことながら白い結婚なので後継ぎとなる子供もいない。何一つ、ティーゼは公爵夫人としての責務を果たしていないのだ。


(働きに来たから、もしかしたらって期待したけど、結局ここでも同じことなのね)


 この部屋はお姫様の部屋だ。お姫様の部屋にしか見えない。労働者の部屋じゃない。

 ティーゼは憂鬱になって、ぐったりとソファの背もたれに体重を預けた。

 サーヴァン男爵は部屋だけではなく、ティーゼに侍女までつけようとしたが、それだけはどうにかして断った。渋られたが、最後には頷いてくれたので、それだけはよかったと思う。

 ベッドの上に投げ出した持参してきたトランクを見て、ティーゼは大きく肩を落とした。


「……この環境を変えるためにも、早く借金を返して、身の丈に合った結婚をするのよ。落ち込んでる暇はないわ」


 自分自身に言い聞かせて、ティーゼは「よし!」と気合を入れて立ち上がる。

 まずは荷物を片づけて、服を着替えなくてはならない。サーヴァン男爵の赤面症をなおすのがティーゼの仕事で、その仕事の一環で、毎日の晩餐は男爵と一緒に取ることになっているのだ。あと二時間もすれば晩餐の時間である。

 持参したドレスは地味で、コルセットのいらない楽なものばかりだが、その中でもできるだけ華やかなものを選んで着替えると、ドレッサーの前に座ってコンプレックスである赤銅色の髪をサイドで一つにまとめた。


(……こんな髪、公爵夫人らしくないわよね)


 結婚が急すぎて肖像画すら見たことがなかったから、イアンの顔は知らないけれど、聞けば、イアンはとてもきれいな銀色の髪をしているという。銀はこの国で最も高貴だと言われる色だ。赤みの強いティーゼの髪は、高貴な色を宿したイアンにはやはりふさわしくない。


「……そう言えば、サーヴァン男爵も銀色だったわね」


 王家の血に多く現れる銀色。もしかしたらサーヴァン男爵も、先祖をたどれば王家の血が入っているのかもしれないと、ティーゼは束ねた髪に白いリボンを巻きながら、ちょっぴり羨ましく思ったのだった。


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だから、離婚しようと思います
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