第一章 2
ルチルが待っているであろう丘のふもとはウル村から少しだけ外れた場所にある。
といっても孤児院は村の端に位置するため、裏から周れば大した距離はない。
孤児院の子供たちもそろそろ起きる時間だろうが、なるべく音を出さないように歩を進める。
村の大人たちはもう仕事を始めているはずだ。
この付近は他の土地よりも緑が豊かで土にも恵まれている。
なので農業や植物採取がウル村に住む人たちの主な仕事だ。
オレはその仕事を幼いころから始めていた。
両親を亡くしたオレを引く取ってくれた、孤児院を開いているマ――さんへの恩返しをしたかったからだ。
(オレも、昼からは参加しないとな)
などと考えているうちに丘のふもとでこちらに手を振るルチルが見えた。
(まったく、朝早くから元気なやつだ)
オレは少しだけ歩を早める。
「すまない、待たせたか?」
「う~ん、まあ及第点、ってところですかね!」
少し難しい顔をした後に眩しいほどの笑顔を向ける。
(どうやらもう怒ってはないようだな)
心の中でホッと胸をなでおろす。
(こいつは機嫌を損ねるとめんどくさいからな)
「じゃ、行こっか!」
そういって丘を登り始めるルチル。
この丘にはオレたちが小さい頃からよく遊び場にしていた、いわば秘密基地のような場所だった。
お調子者でいつも無茶なことをしようとする―ウ―ー。
温厚で誰に対しても優しいリー――。
その持ち前の性格で場を明るくするルチル。
そして、馬鹿なとこもあるが、いつもみんなを先導してくれた――ナ。
「なにボウっと突っ立てるの! はやくはやく!」
ハッ、と声の主のを見上げる。
ちょうど太陽の光が眼を照らして主の姿は確認できなかったが、まだそこまで離れてはいなようだ。
「ああ、わかったわかった」
そしてオレも丘を登り始める。
丘、といっても、子供でも簡単に登頂できるほどのものだから、大して高いわけではない。
それでも体も心も小さい子供にはいろんなものが大きく見えて、初めて登り切ったときはすごく興奮したのを覚えている。
(しかし、さっき何か……とても重大な事を思い出しかけたような気がしたが……)
また深く考えようかと思ったが、今はやめておいた。
少し先を歩くルチルを見上げると、やはり眩しかったが、それは太陽の光のせいだけではなかったかもしれない。